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異世界の侯爵家に招かれた元SEの私、手のひらサイズの語り箱と秘密だらけの屋敷で溺愛されています  作者: プロンプト時雨
第V部: 決戦と新たな始まり

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138/160

第138話: 出発

夜明けの誓いを交わしたまま、私たちは城門前の広場に立っていた。胸の奥にはまだ昨夜の熱が残っているのに、空気はきりりと冷たく、現実の輪郭をはっきりと示している。遠くで鐘が一つ鳴り、出発の時刻を告げた。


荷車の軋む音、革紐を締める音、蹄の乾いたリズム。城門前の広場は、出陣の気配で満ちていた。私は手袋の上からペンダントを押さえ、忘れ物がないかを一つずつ指で確かめる。封印紙、簡易治療薬、地図の写し、ことりの補助板。どれも軽いのに、責任の重みだけがずしりと肩に乗った。


マーガレットさんが襟元を整えてくれる。


「エリアナ様、風が冷えます。喉だけはお守りください」


「ありがとうございます。必ず戻ってきます」


リリーは私の腕を両手で握り、少しだけ背伸びした。


「エリー、帰ったら、また蜂蜜菓子を焼こうね」


「うん。約束する」


市民の見送りは、思ったより静かだった。歓声ではなく、祈るような沈黙が広場を満たす。その中で、アレクサンダー様が侯爵として短く宣言する。


「これより地下遺跡へ向かう。必ず事態を終わらせ、全員で帰還する」


公的な声は揺らがない。私は一歩後ろで頭を下げ、彼の背中に宿る覚悟を見つめた。侯爵家が代々守ってきた秘密の先に、今日、私たちは踏み込む。




王都外縁の旧街道を進むと、朝の陽はすぐに高くなった。土と乾いた草の匂いが混ざる道を、私たちは一定の歩調で進む。途中の休憩地では、フィリップさんが水筒を差し出しながら、わざと軽い調子で言った。


「帰還後の報告書、今回は短くしてほしいですね。三十頁以内で」


セレスティアさんが即座に眉を上げる。


「無理ね。あなたが図版を増やすから」


そのやり取りに、皆が小さく笑った。張り詰めた糸が少しだけ緩む。こういう瞬間があるから、私は前を向ける。


私はことりを呼び出し、行程の最終確認を求めた。


> 本拠地周辺まで、最も発見されにくい進路を再計算して。


【ことり】

*************

推奨進路:北西側の旧用水路に沿って進み、第二石橋手前で林道へ迂回してください。

成功確率:81%

注意:本日午後、南側街道の監視密度が上昇予測です。

魔力消費:-10(残140/150)

*************


私は地図上の線をなぞり、頷いた。


「北西へ回る。速度より秘匿を優先する」


アレクサンダー様が短く同意し、隊列は滑らかに組み替えられた。ことりの助言は有用だ。けれど最終判断は、やはり私たち自身が握る。その実感が、かえって心を落ち着かせた。




夕方、遺跡外縁へ続く狭道に差しかかったとき、空気が変わった。鳥の声が消え、代わりに石壁の向こうで金属が擦れる微かな音がする。歩哨だ、と直感した。


私は身を低くして手信号を送り、ことりへ二度目の照会を行う。


> 正面の反応、人数と術式を教えて。


【ことり】

*************

解析結果:前方に敵歩哨4名。うち2名が拘束系術式、1名が警報術式を保持。

推奨:右側崩壁の陰から同時制圧。

成功確率:76%

魔力消費:-10(残130/150)

*************


「四名、拘束術持ちが二。右崩壁から同時に行く」


私が囁くと、アレクサンダー様は剣を抜かずに前へ出た。彼の合図でフィリップさんが足元に減音結界を薄く展開し、セレスティアさんが視線誘導の光を投げる。リリーが一人の詠唱を寸前で止め、私は残る術者の警報陣を解式で断ち切った。


短い衝突は、息を三つ数える間に終わる。倒れた歩哨を縛り上げ、マーガレットさんが周囲の痕跡を手際よく消した。


「連携、完璧でしたね」


フィリップさんの声に、私はやっと息を吐く。掌に残る微かな震えを隠すように、手袋を握り直した。




夜の入口、本拠地を見下ろす小高い丘に立つと、地下へ続く裂け目の奥で蒼白い光が脈打っていた。古代の魔法陣と機巧式制御が重なり合う、異様で美しい輝き。前世の記憶にある回路図と、ここに刻まれた紋様が、胸の中で一つに重なる。


私は皆の顔を見渡し、はっきりと言った。


「ここから先も、必ずみんなで帰りましょう」


アレクサンダー様が私の肩に手を置く。


「共に進む。君はもう一人ではない」


その言葉に背中を押され、私は深く頷いた。恐れはある。けれど、恐れよりも強い誓いが、今の私にはある。

エリアナたちは巨大な地下都市へ足を踏み入れ、結社が拠点としてきた理由と古代遺跡の異様な姿を目撃する。第139話「地下遺跡」をお楽しみに!

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