第132話: 見守る習慣
昼の廊下は窓からの光で白く伸び、床板に細い影を落としていた。私は掃除道具を片づけるメイド長の背中に声をかける。ずっと気になっていたことを、決戦前の今こそ聞きたかった。
「メイド長、夜に私の部屋の前で立ち止まっていたのは……どうしてですか?」
メイド長は古い銀鍵を胸元で握り、少しだけ目を伏せた。
「ルシア様を守りきれなかった夜から、見守ることをやめられなくなりました。エリアナ様には、同じ孤独を味わってほしくなかったのです」
胸がきゅっと締まる。あの複雑な表情の理由も、鍵に込められた決意も、今やっと届いた。
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【ことり】
感情分析を実行します
発言は高い保護意図を示します
整合性: 92%
[魔力: 20/150]
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私はメイド長の手を取った。少し冷えた指先が、すぐに温度を返してくる。
「ありがとうございます。私は、ずっと守られていたんですね」
メイド長は小さく微笑み、静かに握り返してくれた。
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午後のリビングには、紅茶の香りと焼き菓子の甘い匂いが満ちていた。リリーが注いでくれた湯気の向こうで、メイド長はゆっくりと言葉を選ぶ。
「エリアナ様をお迎えしてから、屋敷の空気が変わりました。私はいつの間にか、家族を見守るような気持ちになっていました」
私が息を呑むと、アレキサンダー様が穏やかに頷く。
「私も同じだ。君はこの屋敷にとって、もうかけがえのない存在だ」
言葉が胸の奥へ真っすぐ落ちてくる。リリーは目を潤ませながら笑い、「だから絶対、みんなで帰ろう」とカップを掲げた。
私は両手で温かな磁器を包む。指先から伝わる熱と、皆の視線のやわらかさに、張りつめていた心がほどけた。家族という言葉が、こんなに現実の重さを持つなんて、前世の私には想像できなかった。胸の奥に、静かな勇気が灯った。
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夕方、屋敷の要所を回りながら最終確認が始まった。メイド長が古鍵で封印陣を起動し、フィリップさんが術式値を読み上げ、セレスティアさんが補助結界を重ねる。私はことりの表示を追い、異常箇所の記録を即座に共有した。
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【ことり】
精神安定化モードを維持します
防衛網は安定しています
全体同期率: 95%
[魔力: 20/150]
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「このままなら、初動は十分耐えられます」
フィリップさんの声に、全員が短く頷いた。メイド長は最後に玄関の防壁へ触れ、「屋敷は私が守ります」とはっきり言い切る。
中庭へ戻ると、私たちは自然に円を作った。中央へ差し出された手に、順番に手を重ねる。重なる体温が、ばらついていた呼吸をひとつに整えていく。
「全員で戻る」
その誓いは、もう誰のものでもなく、私たち全員のものだった。
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夕暮れの中庭は、風の音まで静かだった。空が茜から群青へ変わるのを見上げながら、私たちは肩を並べる。
メイド長が私を見て、いつもの凛とした声で言った。
「エリアナ様、皆さま。必ず帰ってきてください」
「はい。必ず」
私が答えると、アレキサンダー様も静かに頷いた。ことりの光が小さく脈打つ。
決戦は、もう次の扉の向こうだ。それでも今は、この静けさごと胸にしまって進める気がした。誰も欠けずに帰ると、改めて心に誓う。
**次回予告**
いよいよ決戦の地へ。家族のような絆とメイド長の想いを胸に、全員が運命に立ち向かう。
第133話「運命の境界」をお楽しみに!




