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【第III部 開始】異世界の侯爵家に招かれた元SEの私、手のひらサイズの語り箱と秘密だらけの屋敷で溺愛されています  作者: プロンプト時雨
第I部: 到着と発見

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第13話: 夜会とダンス

夕方、若いメイドのアニーが手際よくドレスを整えてくれた。


淡い青の布地は、灯りの下で水面みたいに揺れる。レースと刺繍は控えめなのに、目を奪うほど丁寧だ。髪には小さな花飾りを留められ、最後に、アニーが背中の紐をきゅっと引いた。


「……できました」


鏡の中にいるのは、見慣れない私だった。頬が少し赤くて、目が落ち着かない。なのに、逃げ出したい気持ちと同じくらい、見てみたい気持ちもある。


大丈夫。侯爵様がいてくださる。


その一言を胸の内で繰り返し、私は扉を出た。


---


大広間に降りた瞬間、空気の密度が変わった。


シャンデリアの光が宝石みたいに降り注ぎ、弦楽器の音が床を滑る。香水とワインと花の匂い。笑い声の波。


私のような平民が、ここに立っていいのだろうか。


そう思った時。


「エリアナさん」


振り返ると、侯爵様が近づいてきた。視線が合う前に、胸が跳ねる。


侯爵様は私を一度だけ見て、短く言った。


「美しい」


顔が熱くなる。逃げ場がない。


「あ、ありがとうございます……」


差し出された手を取ると、指先まで温かかった。その温度が、私の背筋をまっすぐにしてくれる。


「皆様に紹介しましょう」


---


「皆様、紹介します。私の大切な客人、エリアナ嬢です」


一斉に集まる視線。好奇心、値踏み、そして——ほんの少しの羨望。


私は口角を上げる。ことりに教わったとおり、呼吸は浅くしない。


「初めまして。エリアナと申します。本日はお招きいただき、ありがとうございます」


挨拶が返り、会話が始まる。


「魔法を学んでいると聞きましたが」


若い男爵に問われ、私は頷いた。


「はい。侯爵様にご指導いただいています」


「素晴らしい。魔法は奥深い」


天気、庭園、流行の詩集。話題を選んで相槌を打つと、思ったより言葉が続いた。


それでも私は、ときどき侯爵様の姿を探してしまう。


別の輪の中にいる侯爵様が、こちらへ視線を投げる。ほんの一瞬。


それだけで、胸の奥がきゅっと鳴った。


---


音楽が変わり、空気がざわめいた。ダンスタイム。


貴族たちが当然のようにフロアへ向かう中、私は壁際で手袋の縁を握った。練習はした。けれど本番は初めてだ。


その前に、侯爵様が現れた。


「踊っていただけますか?」


差し出された手に、周囲の視線が集まるのが分かる。侯爵様が踊るのは珍しい——そんな囁きが、耳に刺さる。


「……はい」


私は手を取った。


フロアの中央。音が始まる。


侯爵様の手が私の腰に添えられた瞬間、息がひゅっと細くなる。近い。香りまで分かる。


「緊張していますか?」


「少し……でも、大丈夫です」


侯爵様のリードは迷いがなく、私の足は自然に音へ追いついた。


羨望と嫉妬の視線が刺さる。それでも今は、紫の瞳だけが世界みたいだ。


「あなたは、私の大切な客人だ」


囁きが耳元をかすめる。


心臓が跳ね、返事が遅れる。


「……いや」


侯爵様の声が、さらに低くなる。


「大切な人だ」


胸が苦しいほど熱くなる。曲の終わりが来ても、私はすぐに離れられなかった。


---


「少し休憩しましょう」


侯爵様に誘われ、テラスへ出る。夜風が頬の熱を冷まし、星が近く見えた。


「お疲れ様でした。よく頑張りましたね」


「侯爵様のおかげです」


しばらく二人で星を見上げる。騒めきが遠くなって、心の音だけが聞こえる。


「あなたは社交の場でも素晴らしかった。自然体で、誠実だ。だから人はあなたを気に入る」


褒め言葉が、私の中の不安を一枚ずつ剥がしていく。


使用人が小さなトレイに載せた温かいワインを持ってきた。侯爵様は私に一つ差し出し、そっと『少し飲んでみてください』と言う。口に含むと、甘くて優しい温度が体に沁みた。


---


深夜、部屋に戻ってドレスを脱いでも、鼓動はまだ落ち着かなかった。


「大切な人」


あの囁きが、何度も胸の内で反響する。


ベッドに横になり、窓の外を見ると——西棟の窓に、淡い光が見えた。


昨夜の機械音が、ふっと蘇る。


眠れなくて、私はそっとことりを手に取った。語り箱に触れると淡い光が広がり、表示には小さくこう出ていた。[魔力: 20/70]


> 「侯爵様の、あの囁きはどういう意味なの?」


【ことり】

*************

確率: 35%

申し訳ありません。人の感情に関する質問は私の苦手分野です。ただ、その行為は通常、信頼と好意を示すものと考えられます。

*************

[魔力: 10/70] (-10)


ふと、ことりの表示が微かに赤く点滅し、残量が 10/70 であることを知らせた。


侯爵様は、まだ起きているのだろうか。何をしているのだろう。


分からない。でも、確かめたい気持ちがある。


そして、それ以上に——。


侯爵様のことを思うと、胸が甘く痛む。


好き。

**次回予告**

夜会の翌日、美しい伯爵令嬢セリーナが侯爵を訪ねてくる。二人の親しげな様子に、エリアナは初めて嫉妬を感じる。自分の気持ちに戸惑いながらも——


第14話「嫉妬の芽生え」をお楽しみに!

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