第129話: 決戦前夜
夕方の書斎には、張りつめた静けさが満ちていた。机の上に広げた地図と魔法陣図を囲み、私、アレキサンダー様、フィリップさん、セレスティアさんが視線を交わす。ことりが中央で淡く光り、層状に重なる術式の要点を表示した。
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【ことり】
作戦立案モードを開始します
魔法陣は三層構造です
外層固定・中層転写・中枢同調
主リスクは中枢同調失敗時の逆流です
[魔力: 50/150]
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「私が中枢を担当します。転写の同期は外しません」
私が言うと、フィリップさんが頷き、セレスティアさんも短く「援護は任せて」と答えた。アレキサンダー様は地図の北東地点を指し、「全員、生還を最優先に」と告げる。私は手を差し出し、皆の手が重なった。温度の違う掌が一つになった瞬間、恐怖の形が少しだけ変わった。怖いままでも、進めると分かった。
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夜の屋敷は、廊下の灯りだけが細く続いていた。私は自室の窓辺で母のペンダントを握り、冷えた金属の重みを指先で確かめる。胸の奥では鼓動が早い。けれど、逃げたい気持ちより、守りたい気持ちの方がはっきりしていた。
廊下の向こうでは、アレキサンダー様が肖像画の前に立っていた。ルシア様の微笑みに向かって、声にならない祈りを捧げている。フィリップさんは薬剤と魔道具の最終確認を続け、セレスティアさんは杖先の結晶を磨きながら呼吸を整えていた。
私が部屋を出ると、ことりが控えめに光る。
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【ことり】
精神安定化モードを維持しています
深呼吸を推奨します
あなたは独りではありません
[魔力: 50/150]
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その直後、リリーが温かいお茶を差し出してくれた。「必ず帰ってきてね、エリー」。まっすぐな笑顔に、喉の奥が熱くなる。メイド長も静かに頷き、「皆さまの帰還まで、屋敷は私が守ります」と言った。私はカップの熱を両手で受け止め、深く頷いた。
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深夜の中庭は、露を含んだ草の匂いが濃かった。私たちは並んで夜空を見上げる。雲の切れ間に滲む星明かりが、黒い石畳に淡く落ちていた。
ことりが、いつもより穏やかな明滅で言葉を刻む。
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【ことり】
成功確率は50%です
ですが、皆さんなら到達可能です
互いの信頼が最大の補正要因です
[魔力: 50/150]
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「半分もあるなら、十分だ」
フィリップさんが肩をすくめ、セレスティアさんが小さく笑う。「あとはやるだけね」。アレキサンダー様は私の肩にそっと触れ、「君となら乗り越えられる」と低く言った。私はその体温に背中を預け、ことりを胸元で握る。みんなの呼吸が同じ速さになっていく。指先の震えも、少しずつ静まっていった。静かな夜の中で、私たちの絆だけが確かに音を持っていた。
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未明の玄関ホール。灯火の下で、私たちは装備と魔道具を最終確認した。フィリップさんが封印薬を渡し、セレスティアさんが結界石の同期を完了させる。リリーは外套の留め具を直し、メイド長は無言で扉を開いた。
ことりの光が、出発の合図みたいに強まる。
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【ことり】
準備は整いました
作戦開始可能です
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「必ず戻ります」
私の言葉に、全員が頷いた。アレキサンダー様が一歩先へ進み、私はその隣に並ぶ。冷たい未明の空気を吸い込み、運命の扉へ向かって、私たちは同時に踏み出した。
**次回予告**
いよいよ最終決戦へ。仲間たちの想いを胸に、エリアナたちは運命の扉を開く。
第130話「運命の扉」をお楽しみに!




