第12話: 夜中の足音と魔力感知
深夜、午前二時
眠れなくて、枕元の灯りだけを頼りに魔法理論の本を開いていた。
——その時。
遠くで、規則的な機械音がした。
「……何?」
耳を澄ますと、音は西棟の方角から。さらに胸の奥が微かに熱を持つ。魔力そのものではなく、魔力が動く気配を初めて掴んだ。
その瞬間、無意識に『魔力感知Lv.1』が発動した気がした。
西棟は侯爵様が立ち入りを制限している場所。それでも、この音の正体が気になった。
私は上着を掴み、そっと部屋を出た。
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廊下は冷え、月明かりが床に細い影を引いている。音は近づくほどはっきりし、同時に“流れ”も濃くなる。
西棟へ続く角に差し掛かった瞬間。
「エリアナさん、こんな時間にどうしましたか?」
驚きで息が止まり、思わず声が漏れた。「ひっ……!」
振り返ると、侯爵様が立っていた。
「申し訳ありません。驚かせてしまいましたね」
「いえ……私こそ。音が、聞こえて……」
私が視線を西棟へ向けると、侯爵様の表情が一瞬だけ硬くなる。
「あの音は研究装置の稼働音です。危険な場所もあります。夜は一人で出歩かないでください」
穏やかなのに、有無を言わせない声だった。
「……はい」
頷いたのに、胸の奥の火種は消えない。
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「部屋までお送りします」
私は素直に従った。
「眠れなかったのですか?」
「少し……考え事をしていて」
「温かいミルクを。眠りの助けになります」
「何か心配があれば、いつでも相談してください。あなたの安全は、私にとって最優先です」
胸が熱くなる。その言葉だけで、私は守られている気がした。
「……ありがとうございます」
部屋に戻って扉を閉めても、耳の奥には規則的な音が、心には“最優先”が残っていた。
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翌朝。
ダイニングルームには焼きたてのパンの匂いが満ち、紅茶の湯気が朝日にほどけている。甘いジャムで、少しだけ心がほどけた。
「エリアナさん」
侯爵様が口を開いた。「はい」
「来週、近隣の貴族を招いて小さな夜会を開きます」
夜会。
その言葉だけで、心臓が早鐘を打つ。
「私も...出席するのですか?」
「もちろん。あなたは私の大切な客人ですから」
大切な客人。
昨夜の言葉が蘇って、胸の奥が熱くなる。
メイド長が穏やかに微笑んだ。「ドレスの準備をいたしましょう」
社交の場。
人が集まる場は、前世からずっと苦手だ。不安がじわりと滲む。
「心配いりません。私がそばにいます」
その一言で、肩の力が少し抜けた。こういう平和な朝が、私は好きだ。
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午後。夜会のことが頭から離れず、私はことりを呼び出した。失礼で侯爵様の顔に泥を塗るのだけは、絶対に嫌だ。
【ことり】
*************
何かお悩みですか?
*************
[魔力: 30/70]
> 夜会に出席することになりました。社交の場で気をつけることを教えてください。
【ことり】
*************
確率: 70%
社交の場では笑顔と礼儀が重要です。
話題の提案:
1. 天気や季節について
2. 芸術や文化について
3. 魔法理論(知的な話題)
避けるべき話題:
- 政治的に敏感な内容
- 個人的すぎる質問
- 否定的な意見
相手の話をよく聞き、適度に相槌を打つことも大切です。
*************
[魔力: 20/70] (-10)
なるほど。
確率70%。ことりの助言をメモに書き留める。
外れもある。だから最後に決めるのは私だ。
夜会で侯爵様が隣にいてくれる——そう思うと、不安の底に小さな期待が灯った。
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夜。
ベッドに入る前、私は日記帳を開いた。
『今日は奇妙な音を聞いた。西棟の研究装置らしい。
深夜に侯爵様と会って、部屋まで送ってもらった。「あなたの安全は最優先」と言われて嬉しかった。
来週、夜会がある。緊張するけれど、侯爵様がそばにいてくださるなら大丈夫だと思う。
ことりにマナーを教えてもらった。準備をして、侯爵様に恥をかかせたくない。』
日記を閉じ、ベッドに横になる。窓の外の月は静かだ。
明日も、侯爵様に会える。それだけで心が少し軽くなる。
明日はドレスの準備が始まる。新しい挑戦だ。
**次回予告**
初めての社交の場となる夜会。ドレスに身を包んだエリアナは、貴族たちとの交流を経験する。そして侯爵とのダンス...至近距離で見つめ合う二人。「大切な人」という囁きに、心が高鳴る!
第13話「夜会とダンス」をお楽しみに!




