表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の侯爵家に招かれた元SEの私、手のひらサイズの語り箱と秘密だらけの屋敷で溺愛されています  作者: プロンプト時雨
第IV部: 暗転と再起

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

117/160

第117話: 裏切り者ヴィクター

朝の記録保管室は、音が少なすぎて、紙の端が触れ合う気配まで聞こえた。私は机いっぱいに資料を広げ、昨夜マーキングした「ヴィクター」の文字を順に追う。


古い羊皮紙のざらつき、乾いたインクの匂い、窓の割れ目から入る風の冷たさ。静かな室内のすべてが、これから読む事実の重さを先に教えてくるみたいだった。


アレクサンダー様は向かいに座り、黙って一枚の文書を見つめていた。次のページをめくろうとして、指先が止まる。ほんの一瞬の沈黙なのに、それだけで分かった。


この名前は、ただの敵の符丁じゃない。


私は問い詰める代わりに、乱れた紙片をそっと整えてアレクサンダー様の手元へ寄せた。言葉より先に、同じ机を囲んでいる事実を渡したかった。


掌のことりが淡く光る。


【ことり】

*************

待機状態を維持します。

追加分析の指示を待機中。

*************

[魔力: 70/150]


私は小さく頷いて、深呼吸した。焦って結論を急げば、大事な線を見落とす。今は一つずつ、確実に繋げるしかない。


---


昼を回るころ、机の上には関係図の走り書きが増えていた。研究流出の報告、契約違反の記録、結社内での権限移譲。離れた時期の文書なのに、同じ筆跡の署名が何度も現れる。


――ヴィクター。


アレクサンダー様は長く黙っていたあと、低い声で言った。


「彼は……かつて私の親友だった」


私は息を呑む。胸の奥が冷たくなるのに、視線は逸らせなかった。


アレクサンダー様は資料から目を離さないまま続ける。


「家の事情も、研究の危うさも、誰より分かっていた。だから信じた。だが彼は、結社へ渡った」


言葉の端が、わずかに震えた。怒りだけじゃない。失ったものの重みが、声の奥で軋んでいる。


私は資料三点を並べ、ことりを中央へ置いた。


> ことり。文書年代と術式署名の一致を照合して。ヴィクター関与の確度を出して。


【ことり】

*************

照合を実行します。


対象:人物記録3件、術式写本2件、契約文書1件

年代整合:一致(誤差許容内)

術式署名:同一パターンを確認

関与確度:91%


補足:古代術式に外部層を継ぎ足す手法を使用

目的推定:固定化・長期運用向け改変


魔力消費:-10(残60/150)

*************

[魔力: 60/150]


九十一パーセント。限りなく確定に近い数字が、紙より重く胸に落ちた。


アレクサンダー様は拳を握りしめ、机の上で関節を白くした。


「私が早く気づいていれば……」


私は首を振る。


「アレクサンダー様ひとりの罪じゃないです。裏切った責任は、裏切った側にある」


それでも彼はすぐに頷けなかった。視線は遠く、過去のどこかへ向いている。私は椅子を少し寄せ、肩に触れた。


「責任感が強いから、全部抱えてしまうんですよね。でも、今は私もいます。半分じゃなくて、同じ重さで持たせてください」


アレクサンダー様は目を閉じ、ゆっくり息を吐く。何度か呼吸を重ねてから、ようやく私を見た。


「……すまない。ありがとう」


「謝らないでください。私は隣にいるって決めたから」


その言葉に、アレクサンダー様の肩の力がほんの少し緩んだ。


---


夕方、私たちは遺跡外縁の回廊を歩いた。壁の亀裂から射す橙色の光が、石床に長い帯を作っている。昼に整理した要点を、私は声に出して確認した。


「判明したことは三つ。ヴィクターは結社中枢にいる。アレクサンダー様の過去と研究事情を知っている。術式改変の実行権限を持っている」


アレクサンダー様が頷く。


「次は、彼の目的だ。なぜそこまでして不死化へ固執するのか」


「そこが分かれば、止める方法も見えるはずです」


私は歩幅を合わせ、アレクサンダー様の手を取った。冷えた指先が触れたあと、互いの体温で少しずつ温まっていく。言葉にしなくても、呼吸が同じ速さになるだけで、胸のざわめきは静まった。


ことりが短い通知を出す。


【ことり】

*************

次段階の推奨:思想・目的分析。

現時点情報では動機が未確定です。

関連資料の再抽出を推奨します。

*************

[魔力: 60/150]


私は通知を見て、深く頷いた。


「次は“なぜ”を掴みに行く」


アレクサンダー様は握った手を離さず、前を見据える。


「共に行こう。真実の最後まで」


回廊の先では夜が降り始め、空気はひときわ冷たくなっていた。それでも不思議と足取りは軽い。痛みが消えたわけじゃない。裏切りの重さも、これから知る真実の怖さも、そのまま残っている。


それでも、二人で背負うと決めた今なら進める。


私はヴィクターの名を胸の内で繰り返し、次に開くべき扉を見据えた。

**次回予告**

裏切り者の名は判明した。だが、最も重要な「目的」はまだ霧の中。ヴィクターが目指す理想と、侯爵の呪い、そして私の魂がどう繋がるのか――次なる記録が、その核心を暴き出す。


第118話「ヴィクターの目的」をお楽しみに!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ