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異世界の侯爵家に招かれた元SEの私、手のひらサイズの語り箱と秘密だらけの屋敷で溺愛されています  作者: プロンプト時雨
第IV部: 暗転と再起

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111/160

第111話: 試練

扉に触れた瞬間、空気の密度が変わった。


薄い膜を破ったような感触の直後、視界の端がぐにゃりと歪む。床に刻まれた線が浮き上がり、青白い光が何重にも走った。耳の奥では、遠雷みたいな低音と、針で硝子をこするような高音が同時に鳴っている。


「下がれ、エリアナ!」


侯爵様の腕が私の肩を引き、次の瞬間には黒い障壁が私たちを包んだ。障壁の外側で魔力の奔流が弾け、火花の匂いと焦げた石の匂いが鼻を刺す。膝が震えそうになるのを、爪先に力を入れて止めた。


【ことり】

*************

確率: 32%

高危険度トラップを検知しました。

FS-11/FS-24/FS-39/FS-40関連反応を確認。

現状突破確率は低く、正面解除は非推奨です。

*************

[魔力: 40/150]


低い。けれど、ゼロじゃない。


私は崩れそうになる呼吸を整え、床の魔法陣を見下ろした。外周は古い封印式、内周は後から継ぎ足したような補助式、中央には位相をずらすための歪み環。前世で見た、重複したアクセス権管理の図に似ている。


「ことり、解析手順を絞って。外周固定、内周だけの無効化ができるか確認して」


> 外周封印を維持したまま、内周トラップだけを停止する手順を提示して。制約で答えられない部分は明示して。

【ことり】

*************

確率: 54%

手順案を提示します。

第一段階: 外周第三節点を維持固定。

第二段階: 内周の位相環を時計回りに二節点ずらして切り離し。

制約により深層鍵の完全復元はできません。

*************

[魔力: 30/150] (-10)


「深層鍵は読めない、か……でも十分です」


私が言うと、侯爵様は障壁を維持したまま短く頷いた。紫の瞳が、炎光の向こうでも真っ直ぐ私を見ている。


「君の判断を信じる。必要なら、私の魔力を使え」


その一言で、胸の奥の冷えが少しだけほどけた。私は魔法陣の縁に膝をつき、指先で光の流れを追う。外周は触らない。内周だけ、干渉の順序をずらす。


侯爵様の手が、背中越しにそっと私の肩へ触れた。


「大丈夫だ。必ず一緒に帰ろう」


低く静かな声。障壁を叩く轟音の中でも、その言葉だけは驚くほどはっきり届いた。私は頷き、逆流しそうな魔力を細く束ねる。


「……はい。私も、侯爵様と帰りたいです」


手順の三段目で、位相環が一瞬だけ暴れた。床の光が跳ね上がり、視界が白に塗りつぶされる。


「エリアナ!」


呼ばれて、私は意識を縫い止めた。侯爵様が私の手を強く握る。冷えた指先が、握られたところから熱を取り戻していく。その温度に導かれるように、私は最後の節点へ魔力を流し込んだ。


> 最終干渉の成功率を再計算して。

【ことり】

*************

確率: 58%

連携状態を反映し、突破確率が上昇しました。

推奨: 今すぐ最終節点へ同期干渉を実行してください。

*************

[魔力: 20/150] (-10)


五割を超えた。十分、賭ける価値がある。


私は侯爵様の手を握り返し、呼吸を合わせる。


「三つ数えたら、同時に」


「了解した」


「一、二、三」


私が内周へ、侯爵様が外側の奔流へ、それぞれ魔力を打ち込む。ぶつかった光は一瞬だけ暴風みたいに渦を巻き、次いで糸がほどけるように細くなった。


耳を裂く高音が途切れ、封印の間に重い静けさが落ちる。さっきまで暴れていた床の紋様は、淡い残光を残して沈黙した。


【ことり】

*************

確率: 91%

安全確認。生命反応は安定しています。

トラップ反応の収束を確認しました。

*************

[魔力: 20/150]


私はその場に座り込み、ようやく息を吐いた。肩に触れる空気はまだ冷たいのに、掌の中だけが熱い。侯爵様の手が、離れずにいてくれるからだ。


「……終わった、んですね」


「君のおかげだ」


侯爵様はそう言って、いつもの硬い表情を少しだけ崩した。


「君がいてくれて、本当に良かった」


胸の奥で何かが静かに弾ける。怖かった。痛かった。何度も逃げたくなった。それでも私は、ことりの確率だけでなく、自分の判断で最後の一手を選べた。


ことりの光が淡く瞬き、まるで小さく頷いたみたいに見える。


封印の間の奥で、重い石扉が軋みながら開き始めた。隙間から吹く風は、夜明け前の冷たさを運んでくる。


次の部屋には、きっとこの先の真実が待っている。


私は立ち上がり、侯爵様と目を合わせた。


「行きましょう。今度の試練も、きっと越えられます」


侯爵様は微笑み、静かに頷く。


私たちは並んで、新しく開いた闇の先へ歩き出した。

**次回予告**

限界まで魔力を削りながら進む中、ことりがいつもと違う言葉を告げる。機械的な助言を超えた“励まし”は、エリアナの心をどう変えるのか。さらに深い層で待つ謎と向き合う。


第112話「ことりの励まし」をお楽しみに!


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