第11話: 初めての魔法成功と成長の実感
朝日がまだ昇りきらない早朝、私は訓練場に立っていた。
今日は特別な日だ。これまで練習してきた高度な魔法に、初めて挑戦する。
「緊張していますか?」
侯爵様の穏やかな声が、背中から聞こえる。
「少しだけ」
正直に答える。胸が高鳴っている。失敗したらどうしよう。
「焦らなくていい。君ならできる」
その言葉に、勇気をもらう。
侯爵様は、いつも私を信じてくれる。
深呼吸をして、心を整える。
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前世の記憶が蘇る。
システムエンジニアとして働いていた頃、複雑なプログラムをデバッグしていた時のこと。
何度も失敗したバグを、ログを分析して原因を特定した。
論理的に、段階的に、一つずつ確認していく。
魔法も、きっと同じだ。
これまでの失敗を思い返す。魔力の流れが途中で途切れてしまう。それは、プログラムで言えばデータフローの問題だ。
ボトルネックがある。そこを特定して、修正すれば...
昨夜、ことりに相談して理論を確認した。確率80%の回答。信頼できる。
魔力の流れを制御し、魔法陣を構築する。
前世のシステム構造の理解が、ここでも役立つはずだ。
「始めます」
私は手を前に伸ばし、詠唱を開始した。
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魔力が体の中を流れる感覚。
それを手のひらに集中させる。
空中に、光の線が描かれていく。
魔法陣が、少しずつ形を成していく。
集中、集中。
呼吸を整える。
魔力のコントロールに全神経を集める。
そして——来た。いつも失敗する箇所だ。
魔力の流れが弱くなる。
前世の知識が教えてくれる。ここがボトルネックだ。
意識的に、魔力を強化する。
バグを修正するように、丁寧に。
流れが、安定した!
光が強くなる。
魔法陣が完成に近づいている。
最後の一線を引く。
その瞬間——
光が輝き、風が渦を巻いた。
成功だ!
「やった...」
思わず声が出る。
周囲にいた使用人たちが、拍手をしてくれた。
「よくやった、エリアナ」
侯爵様の満足そうな声。
振り返ると、侯爵様が微笑んでいた。
その笑顔が、いつもより温かい気がする。
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「本当に素晴らしい。君の成長は私の期待を超えている」
侯爵様が近づいてくる。
そして——
大きな手が、優しく私の頭に触れた。
「え...」
心臓が、激しく跳ねる。
頭を撫でられている。
侯爵様の手は温かく、優しい力加減。
顔が、一気に熱くなる。
言葉が出ない。
「君は特別だ」
侯爵様の声が、いつもより優しい。
見上げると、侯爵様が微笑んでいる。
普段の冷静な表情とは違う、温かい笑顔。
胸が、さらにドキドキする。
特別...?
その言葉の意味を考えようとするけれど、頭が上手く働かない。
「少し休憩しよう」
侯爵様が手を離す。
その温かさが消えて、少し寂しい。
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訓練の後、侯爵様が庭園散歩を提案してくれた。
「気分転換にいいでしょう」
二人で、春の庭園を歩く。
花々が咲き乱れ、鳥がさえずっている。
柔らかい日差しが心地よい。
並んで歩く侯爵様との距離が、近い。
「この庭園は、ルシアが設計したんです」
侯爵様が、植物を見ながら話す。
「そうなんですか」
意外な博識さに驚く。
「彼女は植物が好きでした。特に春の花を」
侯爵様の表情が、一瞬曇る。
「侯爵様は...ルシア様のことを」
聞きかけて、躊躇する。
侯爵様は少し考えてから、答えた。
「大切な人だった。でも、それは過去のことだ」
そして、私を見る。
「今、私が大切にしたいのは...」
言葉が途切れる。
私の心臓が、高鳴る。
もしかして...私のこと?
でも、侯爵様は続きを言わなかった。
「さあ、あそこのベンチに座りましょう」
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ベンチに座ると、使用人が温かいお茶とクッキーを運んできた。
静かで、平和な時間。
お茶の香りが心地よい。
クッキーは甘くて、美味しい。
「ここにいると落ち着きます」
思わず口に出る。
「私もだ」
侯爵様の優しい返事。
二人で、しばらく黙って庭園を眺める。
風が優しく吹いて、花びらが舞う。
心が、満たされていく。
侯爵様の隣にいる。
それだけで、幸せな気持ちになる。
これは...何だろう。
尊敬?感謝?
いや、それだけじゃない気がする。
もっと、特別な感情。
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夕方、部屋に戻って一人になった。
鏡を見ると、顔がまだ少し赤い。
頭を撫でられた時の感覚が、まだ残っている。
侯爵様の手の温かさ。
あの優しい笑顔。
「大切にしたいのは...」という未完の言葉。
全てが、頭から離れない。
ことりに相談してみようかと思い、語り箱を取り出した。
【ことり】
*************
こんにちは。何かお悩みですか?
*************
[魔力: 70/70]
その表示を見て、ふと気になった。
> 私の現在の魔力を測定してください
少し待つと、返答が表示される。
【ことり】
*************
確率: 95%
測定結果:
魔力上限: 70
現在値: 70
前回測定(3週間前): 上限50
成長率: +40%
順調に成長しています。
*************
[魔力: 60/70] (-10)
「え...こんなに成長してたんだ!」
思わず声が出る。
3週間で、魔力の上限が50から80に。
前世のデバッグ思考が、魔法に活きたんだ。
システマティックに問題を解決するアプローチ。
それが、この世界でも役に立つ。
「やっぱり、私の前世の知識は意味があるんだ」
胸が熱くなる。
そして、もう一つ質問してみる。
> 侯爵様が頭を撫でてくれたけど、これは...どういう意味ですか?
少し待つと、返答が表示される。
【ことり】
*************
確率: 35%
申し訳ありません。人の感情に関する質問は私の苦手分野です。
ただ、その行為は通常、信頼と好意を示すものと考えられます。
*************
[魔力: 50/80] (-10)
やっぱり、恋愛は難しいのね。
確率35%では、あまり参考にならない。
でも「好意」という言葉が、心に残る。
好意...
侯爵様の、私への好意。
私の、侯爵様への気持ち。
「私、もしかして...」
自問するけれど、まだ答えが出ない。
認めるのが、怖い気がする。
ベッドに横になり、天井を見つめる。
リリアに相談したい。
彼女なら、何かアドバイスをくれるかもしれない。
窓の外を見ると、夕焼けが美しい。
心が温かく、少し甘い気持ちになる。
今日は、良い日だった。
魔法も成功した。
侯爵様に褒められた。
頭を撫でられた。
庭園で、二人きりの時間を過ごした。
全てが、特別な思い出。
そして、何かが変わり始めている気がする。
私の心の中で。
**次回予告**
夜中、奇妙な足音を聞くエリアナ。西棟から聞こえる機械のような音に好奇心を抱く。そして侯爵との深夜の出会いが...。夜会の告知もあり、新たな展開へ!
第12話「夜中の足音」をお楽しみに!




