第108話: 遺跡潜入
朝、馬車が止まった先に、古代遺跡の門が沈んだ色で立っていた。
苔むした石碑は半ば崩れ、読めない線だけが湿り気を帯びて残っている。空気は重く、土と古い水の匂いが喉に絡んだ。
私は無意識に息を浅くしていたらしい。侯爵様がそっと隣に立ち、肩が触れるか触れないかの距離で囁く。
「大丈夫。君は一人じゃない」
その一言で、胸の奥の強張りが少しほどける。
セレスティアさんも門を見上げたまま言った。
「私たちがついてる。焦らず行きましょう」
フィリップさんは周囲を見回し、短く頷く。
「後方警戒は任せてください」
私は端末を開き、ことりの生体チェックを確認した。
【ことり】
*************
確率: 88%
生命反応安定。周囲異常なし。探索行動を継続可能です。
*************
[魔力: 140/150 (-10)]
未知への恐れは消えない。それでも、四人で踏み出す一歩なら、怖さごと前へ運べる気がした。
---
門の内側へ進んだ先で、透明な壁のような揺らぎが行く手を塞いだ。
空間が脈打つように明滅し、痺れそうな圧力がある。遺跡全体を覆う魔法障壁は強固だった。
ことりに解析を依頼する。
> 障壁の位相を解析して。突破可能点と成功確率を出して。
【ことり】
*************
確率: 68%
障壁解析を実行します。
・位相弱点候補: 北東側第三節点
・同期推奨手順: 二重詠唱+位相ずらし
・突破成功確率(現状): 68%
注記: 外部干渉により誤差が発生する可能性があります。
*************
[魔力: 140/150 (-10)]
「私が解析を補助するわ」
セレスティアさんが詠唱補助に入る。
「背後は任せてください」
フィリップさんが通路側を警戒する。
侯爵様は私のすぐ左で守りの構えを取り、低く言った。
「君を信じている」
私は頷き、ことりの指示どおりに魔法を重ねた。位相を半拍ずらして解放すると、揺らぎはひび割れたガラスみたいに細く裂け、次の瞬間、障壁が音もなくほどける。
突破直後、ことりが即座に追通知を出した。
【ことり】
*************
確率: 41%
連携サポート実行。罠反応あり、注意推奨。
推定作動確率: 41%
*************
[魔力: 130/150 (-10)]
私は強ばる指を握り直した。怖い。けれど、支え合って進めば越えられる。
---
夕方、遺跡内部の通路は薄闇と湿気に満ちていた。
壁面の魔法陣は、どこか前世で見た回路図に似ている。空気には鉄錆びに似た匂いが混じっていた。
【ことり】
*************
確率: 66%
符号構造解析。前世技術との類似性を検出。
一致推定領域: 制御層・伝達層。
*************
[魔力: 120/150 (-10)]
FS-05とFS-24で追ってきた断片が現実味を帯びる。同時に床下の振動が罠の気配を告げた。
私は一歩踏み出しかけて止まる。守られている安心と、役立ちたい焦りが胸でぶつかった。
「エリアナ、無理しないで」
「何かあれば、すぐ言ってください」
侯爵様は私の前に半歩出て、庇える位置を保つ。呼吸を整えた。
【ことり】
*************
確率: 90%
全員の生命反応安定。探索継続可能。
*************
[魔力: 110/150 (-10)]
私は頷き、灯りを掲げる。
この先には罠がある。けれど、私たちは一人ではない。軋む音を聞きながら、次の一歩を選んだ。
---
しばらく進むと、通路の先に半壊した小部屋が現れた。
天井の亀裂から落ちる雫が石床に当たり、一定のリズムで澄んだ音を立てている。私はその音に呼吸を合わせ、肩の力を抜いた。
「二分だけ休もう」
侯爵様の提案に、フィリップさんも賛成する。
「足場確認と周囲聴取をします」
セレスティアさんは壁の紋様に触れず、目視だけで輪郭を追っていた。
「ここの術式、古いけれどまだ生きてる。刺激しないで」
私は水筒を一口だけ飲み、乾いた喉を潤す。冷たい水が胸の内側を通ると、焦りが少し引いていった。
休息は短かったけれど、四人で同じ空間に立っているだけで心強い。
私は灯りを握り直し、静かに言う。
「行きましょう。今度は、足音も合図にしながら」
侯爵様が「いい判断だ」と頷き、私たちは再び薄闇の回廊へ戻った。
**次回予告**
遺跡内部で罠が発動。仲間とはぐれるが、エリアナは冷静に対処。ことりの助言で方向を見つける。
第109話「罠と分断」をお楽しみに!




