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異世界の侯爵家に招かれた元SEの私、手のひらサイズの語り箱と秘密だらけの屋敷で溺愛されています  作者: プロンプト時雨
第IV部: 暗転と再起

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106/160

第106話: 潜入計画

朝の作戦室は、張りつめた静けさに包まれていた。


机いっぱいに広げられた地図には、昨夜決まった遺跡候補——北東山間部の峡谷跡——に赤い印が重ねられている。余白の「旧研究区画」「封印炉跡」という書き込みが、FS-06とFS-53の断片をひとつに結んでいた。


「侵入は南側の崩落口。脱出は西尾根の旧搬路を第一候補にします」


フィリップさんの説明に、侯爵様が短く頷く。


「合図は三段。撤退合図を最優先だ」


私は最後の確認として、ことりに簡易シミュレーションを依頼した。


> 遺跡A潜入時の接触確率と、撤退成功率を簡易計算して。


【ことり】

*************

確率: 74%

簡易シミュレーション結果を表示します。


・外縁部での敵接触確率: 38%

・内部封鎖発生確率: 42%

・第一候補経路での撤退成功率: 74%


注記: 地形変化により誤差が生じる可能性があります。

*************

[魔力: 140/150 (-10)]


数字を見ても、指先は震えなかった。怖さを抱えたまま、私は立てる。


侯爵様が全員を見渡し、静かに告げた。


「必ず全員で帰る」


その一言で、部屋の緊張は覚悟へ変わった。


---


中庭には、やわらかな朝の光が落ちていた。


出発前の私たちを、リリーとメイドたちが並んで見送ってくれる。リリーは笑おうとして、でもうまく笑いきれない顔で私の前に立った。


「……絶対、無事に帰ってきて。約束して」


「うん。約束する」


私が頷くと、リリーは小さく息を吐いて、目元をこすった。泣かないように堪えているのが分かる。


メイドたちは胸元で手を組み、静かに祈りの言葉を唱えていた。朝の風に白いエプロンの裾が揺れ、祈りの気配が庭全体を包んでいく。


マーガレットさんが一歩近づき、私の手をそっと包んだ。


「お嬢様、あなたなら大丈夫です」


短い言葉だった。でも、背中を押すには十分だった。


私は胸の前で手を重ね、皆の顔を順に見つめる。ここには、守りたい場所がある。帰ってくるべき人たちがいる。


「行ってきます」


温かな別れの中で、私の決意はさらに深く沈んでいった。


---


昼、馬車乗り場で最終の役割確認を行った。


先導と前衛警戒は侯爵様、地形解析はセレスティアさん、後方監視はフィリップさん。私は全体判断と緊急時の魔法対応を担う。


「連携は三十息ごとに状況共有。通信札は必ず二重で」


フィリップさんの確認に、全員が頷いた。


私は念のため、ことりに短いリスク予測だけを出させる。


【ことり】

*************

確率: 71%

最新予測: 主要リスクは地形崩落と視界不良です。行程前半は低リスク、日没以降に危険度が上昇します。

*************


侯爵様が私の手を取り、低い声で言った。


「君を信じている」


私は小さく頷く。


——私も、侯爵様を信じてる。


声には出さなかったけれど、その思いは伝わった気がした。


やがて御者が一度だけ合図を送り、馬車の車輪が静かに点検される光景が残った。


しかし、出発は翌朝未明に改めて設定されている――今は最終確認と見送りの時間だ。


リリーとメイドたちは門前で祈りを捧げ、短い言葉を交わして私たちを送り出す準備を整える。私は一人ひとりの顔を見返し、皆の祈りと願いを胸に刻んだ。


夜は屋敷で装備の点検を終え、短い休息をとる。明け方、再び集まって最終出発の合図を待つ──その瞬間に、私たちは改めて互いの無事を願った。


その夜、私は寝台に横になってもすぐには眠れなかった。


窓の外では、風が屋根を撫でる音がしている。遠くで交代の鐘が一度だけ鳴り、時間が確かに進んでいることを告げた。


私は目を閉じ、今日交わした言葉を思い返す。


「必ず全員で帰る」


侯爵様の声。


「絶対、無事に帰ってきて」


リリーの祈り。


「あなたなら大丈夫」


マーガレットさんの温かい手。


不安は消えない。でも、不安の中でも立てるようになったのは、きっと一人じゃないからだ。


私は毛布を肩まで引き上げ、深く息を吐く。


——明日、前に進む。


そして必ず、帰ってくる。

**次回予告**

侯爵とエリアナが二人きりで話す。「君を失いたくない」「私も、あなたを失いたくない」と想いを確認し合う。


第107話「出発前夜」をお楽しみに!

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