表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の侯爵家に招かれた元SEの私、手のひらサイズの語り箱と秘密だらけの屋敷で溺愛されています  作者: プロンプト時雨
第IV部: 暗転と再起

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

104/160

第104話: 説得と信頼

夕刻、私は侯爵様の書斎を訪ねた。


橙色の光が差す室内で、侯爵様は書類から顔を上げる。


「どうした、エリアナ」


「お話ししたいことがあって……」


私は椅子に座り、膝の上で手を握った。怖さはある。それでも、もう逃げたくない。


「私、守られるだけじゃなくて、侯爵様と一緒に戦いたいんです」


侯爵様は短く息をのみ、静かに私を見つめた。


「君を危険に晒したくない」


その言葉の重さに胸が痛む。けれど私は視線を逸らさない。


「分かっています。でも、私の意志で選びたいんです。侯爵様の隣に立ちたい」


しばらく沈黙が流れ、壁時計の音だけが響いた。


やがて侯爵様が立ち上り、低い声で言う。


「私はずっと、君にはまだ早いと思っていた。背負わせるには重すぎると」


それは、私を遠ざけるためではなく守るための言葉だった。


「だが、君の目を見れば分かる。怖さを知って、それでも進むと決めたんだな」


私は小さく頷く。


「はい」


「……君を信じる。私の隣で戦ってくれ」


胸の奥に、熱いものが静かに広がった。守るだけでも守られるだけでもない。互いを信じて並ぶこと。それが、今の私たちの答えだった。


---


夜、私たちは書斎を出て庭園を歩いた。


花壇の灯りが足元を淡く照らし、葉擦れの音だけが静かに揺れる。しばらく無言で歩いたあと、侯爵様が足を止めた。


「エリアナ」


振り向いた私の手を、侯爵様がそっと取る。


「君を信じている」


短い言葉なのに、胸の奥までまっすぐ届いた。私は握られた手に、そっと力を返す。


「……はい」


涙が滲みそうで、それ以上は言えなかった。


侯爵様の手が肩に触れる。守るためだけの距離ではない。並んで進むための、静かな約束。


細い月が庭園の古木を照らしていた。私は夜空を見上げながら、心の中で強く思う。


——私も、あなたを信じている。


言葉にしなくても、この温もりが答えだった。私たちはそのまま、同じ歩幅で夜の小径を進んだ。


---


庭園を一周して書斎の前に戻る頃には、夜気はさらに冷えていた。


侯爵様は扉に手をかける前に、ふと立ち止まる。


「エリアナ。明日から先は、君に判断を任せる場面が増える」


「はい」


「迷ったときは、正しさだけでなく、何を守りたいかで選べ」


私はその言葉を胸の奥で反芻した。正しいかどうかだけなら、きっとことりの分析や資料で近づける。でも、守りたいものを決めるのは、私の役目だ。


「私、ずっと『誰かの役に立ちたい』って思っていました」


侯爵様は静かに耳を傾けてくれる。


「でも今は、もっとはっきりしています。侯爵様も、リリーも、皆の笑顔も。失いたくないって、言えるようになりました」


「……それでいい」


侯爵様の答えは短い。それなのに、不思議なくらい力をくれた。


「君が選んだ道を、私は支える」


私は深く頷く。迷いが消えたわけじゃない。でも、迷いを抱えたまま進めることを、今夜ようやく知った。


---


その後、自室に戻った私は机に地図を広げた。


ランプの灯りの下で、北東山間部の地名を指先でなぞる。セレスティアさんの古文書にあった記号、フィリップさんの報告にあった崩落路、侯爵様が印をつけた補給点。点だった情報が、細い糸で結ばれていく。


窓の外では、風に揺れる枝の影が壁をゆっくり横切っていた。屋敷は静かだ。静かだからこそ、ここが守るべき場所だと実感できる。


私はペンを取り、余白に短く書き込んだ。


「先に行く。けれど、必ず戻る」


それは作戦メモであると同時に、私自身への誓いだった。


寝台に腰を下ろすと、肩に残っていた緊張がじわじわと抜けていく。侯爵様の「君を信じる」という声が、まだ耳の奥で温かい。


私は毛布を引き寄せ、明日の段取りを最後にもう一度だけ確かめた。


深く息を吸う。吐く。


恐れはある。でも、もう俯かない。


信頼を受け取った私は、信頼に応えるために進む。

**次回予告**

セレスティアの情報とことりの分析で、結社の本拠地候補を絞り込む。古い遺跡が怪しい。チーム全体で準備を進める。


第105話「調査開始」をお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ