第103話: 戦略会議
午後、会議室に私たち全員が集まった。
窓の外には柔らかな陽射しが差し込み、空気にはまだ前夜の静けさが残っている。私は深呼吸し、緊張を胸の奥に押し込めて席に着いた。
侯爵様、フィリップさん、リリー、マーガレットさん、セレスティアさん。皆の顔が揃うと、自然と背筋が伸びる。
「皆、集まってくれてありがとう」
侯爵様の声は落ち着いていて、部屋の空気を引き締める。その響きに、私は少しだけ安心した。
「まずは現状の確認から始めよう」
フィリップさんが資料を広げ、屋敷の警備状況やリリーの回復具合、外部の不穏な動きについて簡潔に報告する。
「リリーの傷は順調に回復しています。警備も強化済みですが、周辺で不審な動きが散見されます」
リリーが小さく頷いた。
「もう大丈夫。私も、できることをしたい」
マーガレットさんは静かに微笑み、皆の様子を見守っている。
侯爵様が全員を見渡し、静かに言った。
「この屋敷は私たち皆の家だ。どんな困難があっても、力を合わせて守り抜こう」
その言葉に、私は胸の奥が温かくなるのを感じた。同時に、守られるだけではいけないという思いが強くなる。
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会議の中盤、私はことりに意識を向けた。
【ことり】
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確率: 70%
現時点で最も危険度が高いのは北東の遺跡周辺です。敵の動きは約70%の確率で偵察段階にあると推定されます。魔法陣や古代技術の痕跡も一部確認されていますが、情報は断片的です。
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[魔力: 140/150 (-10)]
ことりの分析は完璧ではない。けれど、今の私たちには十分な指針だった。
魔力が少し減ったことを自覚しつつ、私は深く息を吐いた。
「……受け身では、また被害が広がるだけです。私たちから動きませんか?」
私の言葉に、部屋が静まり返る。
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「待ってくれ、エリアナ」
侯爵様が慎重に口を開いた。
「防御を固めるべきだ。敵の動きが不明なままでは、無用な危険を冒すことになる」
フィリップさんも資料を見つめながら言う。
「情報が不十分なまま動くのは危険です。まずは屋敷の守りを万全にすべきかと」
私は拳を握りしめた。
「でも、このままではまた誰かが傷つくかもしれません。私たちが主導権を握らなければ、状況は悪化するだけです」
セレスティアさんが私の方を見て、はっきりと言った。
「私もエリアナの意見に賛成。今こそ、私たちが動くべきだと思う」
リリーも力強く頷く。
「私も、皆の役に立ちたい」
議論はしばらく続いた。慎重論と積極策、どちらにも一理ある。けれど、私は自分の中の恐れと向き合いながら、もう一度口を開いた。
「私は……守られるだけじゃなく、皆と一緒に戦いたい。小規模でもいいから、先に調査隊を出しましょう。私がリーダーを務めます」
侯爵様が私をじっと見つめ、やがて静かに頷いた。
「分かった。エリアナに任せよう」
フィリップさんとマーガレットさんは屋敷の守りを、セレスティアさんとリリーは私と共に調査隊に加わることになった。
「皆で力を合わせれば、きっと乗り越えられる」
私の言葉で、会議は静かに締めくくられた。
会議が終わる頃、私は静かに決意を新たにした。
夕暮れ、廊下の窓辺で一人立ち止まる。
窓の外には、淡い夕焼けと静かな庭園が広がっている。
「……私が、皆を導く番だ」
胸の奥に、温かな責任感が灯る。
廊下を曲がると、リリーが壁にもたれて待っていた。
「会議、終わった?」
「うん。明日から、忙しくなる」
リリーは少しだけ眉を寄せ、それから私の手を取った。
「無茶だけはしないで。エリーがいなくなったら、私……」
言葉の続きを飲み込むように視線を落とすリリーの頭を、私はそっと撫でる。
「大丈夫。ちゃんと帰ってくる。約束する」
そのとき、食堂の方から温かいスープの匂いが流れてきた。フィリップさんの低い声、メイド長の落ち着いた返事。日常の音が、張り詰めた心を少しずつほどいていく。
「先に、夕食にしよう」
「うん」
私はリリーと並んで歩き出した。戦いの準備は始まったけれど、守りたい夜は、ここに確かにある。
**次回予告**
エリアナは自分の成長と覚悟を示し、侯爵様を説得する。「もう守られるだけじゃない、一緒に戦いたい」。侯爵様は「君を信じている」と応える。
第104話「説得と信頼」をお楽しみに!




