第101話: 帰還と余波
朝の光が、カーテン越しにやわらかく差し込んでいる。
私は、屋敷の居間でリリーの隣に座っていた。ふわりとした毛布にくるまれたリリーは、まだ少し顔色が青白いけれど、穏やかな笑みを浮かべている。
「エリー、紅茶、ありがとう」
リリーがカップを両手で包み込む。その指先が、ほんのり震えているのに気づいて、私はそっと自分の手を重ねた。
「無理しないで。今日はゆっくり休もう」
「うん……でも、こうして皆と一緒にいられるだけで、すごく安心するの」
メイド長が、静かにテーブルに焼きたてのパンを並べてくれる。バターの香りが部屋いっぱいに広がり、私は思わず深呼吸した。
そのとき、メイド長が静かに声をかけた。
「侯爵様が、リリア様の様子を見にいらっしゃいました」
扉の向こうから、侯爵様が静かに現れる。彼の瞳は、私たちを優しく見守っていた。
「リリアさん、体調はどうですか?」
「はい、もう大丈夫です。皆さんのおかげで……」
侯爵様は小さく頷き、私の方を見て微笑んだ。
「エリアナ、君も無理はしないように」
その言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなる。
【ことり】
*************
確率: 84%
リリアさんの経過は良好です。安静を続ければ、数日で完治する見込みです。
*************
[魔力: 140/150 (-10)]
ことりの声が、私の心にそっと響く。魔力の消費を感じながらも、安心感が広がった。
窓の外では、庭の木々が朝の風に揺れている。紅茶の香り、パンの温もり、リリアの笑顔——すべてが、戦いの余韻をやさしく包み込んでくれる。
---
昼前、居間に控えていたときのこと。
従者が、封筒を手に静かに近づいてきた。
「リリア様、ご実家からお便りです」
リリーは驚いたように受け取り、封を切る。中には、短い手紙が一枚だけ。
「……『屋敷周辺で不審な動きあり。外部の関与が疑われる。詳報を望む』……」
リリーの声が、わずかに震える。筆跡は冷静で、けれど行間に不安が滲んでいた。
侯爵様が手紙を受け取り、静かに目を通す。
「警戒を強めよう。何かあれば、すぐに知らせてほしい」
私は、リリーの肩にそっと手を置いた。
「大丈夫。私たちが、必ず守るから」
心の奥に、淡い不安が広がる。けれど、それ以上に強く「守りたい」という想いが湧き上がった。
【ことり】
*************
確率: 69%
外部状況、現時点で異常なし。警戒を継続します。
*************
[魔力: 130/150 (-10)]
ことりの短い通知が、私の背中をそっと押してくれる。
---
午後、リリーと私は庭園をゆっくり歩いた。
陽射しはやわらかく、花々の香りが風に乗って漂う。リリーはまだ少し足取りが頼りないけれど、時折、私に微笑みかけてくれる。
「エリー、あの花、去年も咲いてたよね」
「うん。リリーと一緒に見たの、よく覚えてる」
私たちは、色とりどりの花を眺めながら、静かに歩を進めた。
やがて、侯爵様が庭園に現れる。
「君がいてくれて、本当によかった」
その一言が、胸に深く染み渡る。
「私も……皆さんがいてくれて、幸せです」
マーガレットさんが、少し離れた場所で私たちを見守っている。
「皆様が無事で何よりです」
その穏やかな声に、私は心から安堵した。
花の香り、土の温もり、仲間の笑顔——すべてが、私の心を癒してくれる。
---
夕方、温室の中。
ガラス越しの夕陽が、植物たちを黄金色に染めている。
侯爵様と私は、静かに並んで立っていた。
「もう、無理はしないでほしい」
侯爵様の声は、低く、優しい。
「でも……私は、戦います」
私の声も、自然と強くなった。
短い沈黙。
「……分かった。だが、危険なときは必ず頼ってほしい」
「はい」
そのとき、マーガレットさんがそっと近づいてきた。
「お二人とも、どうかご無事で」
侯爵様が、私をそっと抱き寄せる。
その腕の温もりに、私は静かに目を閉じた。
「ありがとう、侯爵様」
「……君が無事でいてくれることが、何より大切だ」
安心ビート——静かな抱擁と、夕暮れの温室の香り。
---
夜。私は自室の窓辺に座っていた。
外には、静かな月明かりが広がっている。
私は、そっと日記帳を開いた。
——私は、これから何を守るべきなのだろう。
リリーの笑顔。侯爵様の優しさ。マーガレットさんの温もり。ことりの静かな支え。
私は、この場所、この家族、この絆を守りたい。
【ことり】
*************
確率: 62%
データ送信完了。遺跡の位置候補、報告を保留中です。
*************
[魔力: 120/150 (-10)]
私は、ことりの通知を胸に刻み、そっと目を閉じた。
窓の外の月が、静かに私たちを見守っている。
——明日も、きっと大丈夫。
私は、そう信じて眠りについた。
**次回予告**
戦いの疲れを癒す日々。侯爵がエリアナを気遣い、無理をさせない。二人で庭園を散歩し、平和な時間を過ごす。
第102話「休息」をお楽しみに!




