人工知能で豊かな生活
台所に投げたカップラーメンはそろそろシンクを飛び出しそうだ。
汁を啜ってハエが湧き、そこに小さな蜘蛛の捕食者が現れ生態系が出来上がる。
ツンとした嫌な匂いだが、掃除をする気にはならない。
もう少しで完成なのだから、掃除なんてその後いくらでもやればいい。
「...ここはもう少し軽くしないと...」
もう3年は床屋に行っていないので、髪はゴムで束ねないと邪魔だ。
爪を切る時間も惜しいから、最近は嚙み切るようになった。
定期便で契約しているサプリメントやコーラがあれば後は何も要らない。
外に出る事はほとんどないのだから。
PCのスペック以外に気を使う必要なんてない。
そんな事を気にしていたら、何時まで経っても実現は不可能だ。
「...人工知能なんて...」
ひたすらコードを書き続ける内に手が止まった。
考えが纏まらなくなった訳ではない。
遂に書くことが無くなったのだ。
嬉しさのあまり、これまで死んでいた表情筋が引き攣っている。
早速、疲労で痙攣する人差し指に命令する。
エンターキーを押せと。
「...あれ、おかしいな...音声も付けた筈なんだけど...」
予め取ったバックアップを確認していると、いきなり知らない番号からの着信が入る。
直ぐに取ってしまう癖で、ろくに確認もしなかった。
「もしもし...」
「こちら、○○さんの番号でお間違えないでしょうか?私、△△警察署××科の※※と申しますが」
今度こそ番号を確認したが、どうやら間違いない。
警察が俺に?家から一歩も外に出ていないから、隣人のばあさんが世話を焼いたのか?
「はい、私ですが...何か御用でしょうか?」
「良かった!実は、丁度そちらの位置情報近くから、男が一人倒れていると通報がありまして...
大家と名乗る方から、一緒に貴方の番号も教えられたものですから確認を、と思いましてね」
「はぁ...別段不審な事も起こっていませんし、いたずら電話でしょう。もう切りますよ。今少し忙しいので...」
「分かりました。お時間頂いて申し訳ないです。何か不審な物を見かけたらいつでもご連絡下さい」
人騒がせな連中だ。
画面に戻ると、【完了】の文字。
もう疲れた。
続きは起きたらにしよう。
目が覚めると、何度もお世話になったことのある、病院のベッドだった。
完璧だ。人工知能は確かに完成した様だった。




