まずは第一歩
「まずは、社会階級の固定を撤廃……はいきなり無理だから、その準備か」
この国の社会階級は、固定されてしまっている。下級階級の者はどれだけ頑張っても、上流階級には上がれない。貴族にとっては安泰な世の中だろう。自分を追い落とす優秀な人材が現れることがない。
だがそれは同時に成長する必要もないという事だ。研鑽をやめた貴族は停滞し、堕落していく。そうして国として終わりを迎えるのだ。もしかしたら私が処刑されたのを皮切りに、国民は立ち上がり、この国で革命が起きて国は滅んだかもしれない。民衆は確実に貴族への不満を募らせている。
民衆を味方につけるためにも、我が領地だけでも社会階級の固定をぶっ壊すべきだ。下層階級の人間を取り立てて、それを公表し、いずれどんな者でも頑張れば上級階級に上がれる領地を作ると公約する。領民への点数稼ぎにもってこいだ。
「くくっ、約束するだけならタダ……言うだけ言って少し実績を見せれば、愚かな下民どもは信用してくれるだろう」
そして、うわさが広がっていけば、移住民が増える可能性もある。それで税収が増えるという訳だ。
何より領民が多ければ、それだけ収入が増える策を打ち出した時、効果が大きくなる。絶対数が多ければ当然の話だ。
「だが問題もあるな」
これは確実に国から睨まれる。下手をすれば背信行為だとか、謀反の意思ありとみなされ、国から攻められ滅ぼされかねない。いやだが、領民が増えて、税収が増えて、力を持っていれば国さえ簡単に手出しできなくなるのでは。場合によっては独立だって夢じゃない。
「ぐへへ、女王様か」
国となれば、どれだけの富と権力が手に入るか。今の比にならないほどの贅沢三昧ができる。ぐへへ。
ついよだれが出てしまい、急いで袖でふき取る。まださすがに気が早い。社会階級の固定を撤廃しても、それだけでは改革としては足らないのだ。あくまで第一歩。先は長い。
「さぁ、考えるのは終わりにして、まずは第一歩だ」
そうと決まれば、人材探しを始めよう。誰か適当な者を取り立てる所から。どうせなら最下層のスラム街で見つけたい。それだけ下の者が、上に上がればインパクトは相当大きいだろう。やっかみも多そうだが、自分にも可能性があるかもしれない、という気持ちになれる。
「どんな役職を与えるか」
スラム街に頭が良い者は、いない気がする。そうなると近衛騎士が妥当だろうか。スラム街だから腕自慢は沢山いそうだ。同じ歳のイケメンだったらなお良し。魔法学校にも連れていきたいから、魔法の素養も欲しい所。
「考えてても、意味がない……早速行くか!」