反省しない贅沢の日々
混乱して鏡を眺めていると、お腹が鳴る。何も食べていない。いや、それは処刑される直前の話だが。そんなタイミングで、ドアがノックされた。
「なに?」
「失礼してよろしいでしょうか?」
誰だったかわからない。記憶にない。と思ったところで、ふと思い出す。メイドの声だ。これは子供の時の方の記憶が、呼び起こされたのだろう。
「入れ」
そう返すと、ドアが開かれメイドが入ってくる。
「お嬢様、おはようございます、朝食のご用意が出来ております」
「ちょーしょくぅぅぅ、いくいく! すぐ行く!」
夢でも何でもいいから、とりあえず食べ物だ。捕まってからの食事はひどい物だった。水のようなスープと、乾燥した固いパン。私が恐ろしかったのか、イジメの様に床に食事をこぼされたりとかは無かったが。それでも満足なんてできなかった。
すぐさま、ドアに向かって小躍りで進んでいく。楽しみで、体が勝手にこうなってしまうのだ。
「お、お嬢様!」
ちょうどメイドの脇をすり抜けようとした時、そう声をかけられた。そういえば、なぜか驚いた顔をしていたような気がする。面倒だな。この私の食事を先延ばしするだけの用事なのか。
「なんだ」
「ひっ……そ、その、身支度を……その様なお姿、はしたなく……存じます」
「あ? 指図する気? あなた程度の物が?」
「ひっ、滅相もございません! ヴィオラ様のお心のままに」
すぐさま頭を下げたメイドが、後退りながら頭を下げる。
「メイドごとき人間未満の物の分際で、高貴な私に指図するな……今日は朝食に免じて許すが」
「ありがとうございます! 申し訳ありませんでした」
頭を下げているメイドの脇をすり抜けると、廊下に躍り出る。食堂までの道のりを、収まりきらない気持ちで小躍りしながら進んでいく。
「豪華なちょっうしょくぅぅぅ、ふぅぅぅっ」
「……ハッ!」
正気に戻ると周りが真っ暗になっていた。自分の部屋。子供のままの自分の体。よかったと安心しながら、少し後悔する。数々の贅沢に身を任せて、一日が過ぎてしまったのだ。
豪華な食事に、呼びつけたマッサージ師やブティックの店員、大きな大浴場の貸し切り状態。そしてみんなにチヤホヤされた。
「なんて幸せな一日だったんだろう」
思い返して、幸せな気持ちになる。明日からもこの日々が送れる。毎日気兼ねなく浪費ができる。
それに誰もが私に怯えて、うざったい意見をしてくることもない。頭を下げて従ってくる。この優越感。この万能感。牢獄では相手が怯えてはいたが、さすがに従ってくるはありえなかった。