過去に戻った……?
「ッ……?!」
体が勝手に動いたのかと思うほど、恐ろしさで飛び起きた。
「い、いまの……ここは」
とっさに周りを見渡す。処刑台の上ではなかった。
「どういう事だ?」
まさか処刑の執行が無かった事になったのだろうか。
「それなら……よかったぁ」
処刑の時は何となく情けない姿を見せられないと思って、虚勢を張っていたけど、本当は死にたくないと泣きながら懇願したかったのだ。両膝がガックガクだったのだ。おもらししそうだったのだ。
「でも、私が許されるのか」
自慢じゃないがかなり領民を苦しめたし、領地の財政を傾けた。それで領民が泣きついたのが、遠縁であり名のある辺境伯の末息子であったオースティだった。
我が愚かな領民どもを味方につけたオースティの革命軍によって、我が領地はすぐさま陥落。私は処刑されてしまったのだ。
ふと気づくことがあり、部屋の中を見渡す。ここは見覚えはあるが、自室ではない。どこだったか。それに絶妙に調度品が子供っぽい気が。
「私の……子供だった時の部屋」
懐かしさと同時に、なぜだという疑問もわいてくる。罪を許されたとして、子供部屋に運ぶ意味が分からないし、そもそも私の子供の頃の部屋などもう残ってはいない。
「……あれ?」
混乱しているせいでよく見ていなかったが、視界に入る自分の姿に違和感がある。何がおかしいのか。自分の両手を見つめ、両足を見つめ、お腹のあたりに視線を移す。なぜ、お腹のあたりが見えるのか。
「胸が……小さくなっている」
いつもなら、胸に遮られて、お腹など見えないはずだった。だが今は見えている。そう思うと、手足も小さくなっているような気がする。
違和感が確信に変わり始め、急いでベッドから飛び降りる。そう、飛び降りたのだ。いつもならベッドから足を下ろせば、床に足がつく。これはおかしい。急いで鏡の前に移動する。
「これって」
黒い綺麗な髪に、ツリ目の十二~三歳くらいの女の子。とてもきわどい赤いドレスの様なネグリジェを身に着けている。
そこに映っていた姿は、完全に私の子供時代の姿だった。
「子供の私……なにこれ」
意味が分からない。先ほどまで処刑台にいて、断罪されていた。自分で見たわけではないけど、斬首は執行されたはずだ。感覚の話だが、首への衝撃があった瞬間に意識が途切れた。
夢という訳でもない。処刑台までの道のりを、裸足で歩いて足裏が擦り切れた痛み。木製の処刑台に膝をついた時の、膝の皿が動いた感触。そして手錠が食い込む感触。どれをとっても、夢だったとは思えないほどに、記憶が蘇ったたけで背筋が凍る。
「過去に戻ったという事か?」