自業自得の結果
空が曇っている。どんよりと。こういう時にすっきり晴れ渡らないのは、神がいてこの瞬間を見ているからなのか。そのシチュエーションに最適な景色ではある。
歩くたびに拘束の為につけられている手錠が、ガチャリと音を立てる。周りにいる複数人の兵士がそのたびに、警戒のために微かに体を強張らせた。怯えている。もう抵抗する力は残っていないのに。そんなに私が怖いのか。
「は、早く歩け」
必死で虚勢を張ったのであろう兵士の声が、間抜けだった。笑ってしまいそうになるのを、なんとか堪える。
処刑台が見えてきた。そしてその先に、集まっている民衆の冷たい視線が並んでいるのが見える。私が見えたであろう瞬間に、上手く聞き取れないくらいの怒りに満ちた声がぶつけられる。声によって圧を感じるのは初めてだった。周りにいる兵士が、自分に向けられた怒りでもないのに、一瞬慄いてしまう。
「早く処刑台へ」
処刑台の傍らの男、革命軍のリーダー・オースティが急かす様に声を上げる。罵声怒声にあてられてしまった兵士たちが、追いやる様に私を処刑台に上げて、そそくさとこの場から退散していった。
「ヴィオラ・グリム」
声を拡大する魔法で、オースティの清らかな声が響いた。罵声怒声が潮を引くように止まる。
「罪状を読み上げる」
覚えのある私の悪行が、読み上げられそれに対する罪状。これだけ並ぶと処刑は避けられない。改めてそんな事を感じて少し笑ってしまう。
「何がおかしい」
オースティが声を拡大する魔法を止めて、問いかけてきた。
「いや……これから君がこの領地の領主になるのかな?」
オースティは答えなかった。
オースティは私の遠縁にあたる人物だ。この領地を継げるとしたらオースティだけだろう。それがわかっていても、恐れて答えられなかったのか。
「これから領主になる人間は、欲望を抑えられるのかな? これだけの権力を、これだけの富を、誰なら正しく持ち続けられるだろう? 君ならどうだね? 高潔なるオースティ君」
オースティは顔を少しゆがめた。オースティの家は決して裕福ではなかった。だから革命がなった後、革命軍のリーダーとして、臨時で領地を動かしたであろう。そして実感したはずだ。権力という力を。富という誘惑を。初めての感覚だっただろう。それで顔をゆがめたのだ。
「魔法を再開させたまえよ、民衆にこの問いの答えを聞かせてやると良い」
「もういい……処刑を執行するんだ」
オースティが焦る様に周りに指示する。私の体に魔法の拘束が現れて、強制的に膝をつかされ、前傾姿勢にさせられた。
「次にここで処刑されるのが……オースティ君、君じゃないと良いね! はははははっ!」
足音がした。処刑人が位置についたようだ。
「ヴィオラ・グリムの処刑を執行する」
民衆にそんな声が響き渡る。それに呼応して歓声が上がった。そして、その歓声がブツリと途切れた。