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どうでもいい話

営業「できらぁ!」(できない)

作者: 穂高貴志

特定されたくないので色々丸めて有ります。

面白エピソードが山程有るので残念。

 私が就職した頃その会社は中小ながらも業界中堅、ごくごく狭い1ジャンルに限れば国内(事実上世界)最大のシェアを誇る開発系メーカーだった。

 入社当時は正直こんなフリーダムで良いのか?と不安になる程ゆるい会社だった。

 なにせ私に任された最初の仕事が、朝イチ社内で注文を取った競馬新聞を近所のキオスクに配達されると同時に買ってくる事だったし、昼休みが11時から始まる事さえザラだった。

 もちろん仕事によっては徹夜は当り前だったが、仕事が無ければ17時からその場で酒盛りが始まった。

 クセの強い人ばかりだったがとにかく、客にも技術力で文句を言わせないと云う雰囲気の会社だった。

 ただ、業績は安定していたが、1ジャンルに依存する限りそれ以上の発展は望めないと判断した社長が攻めに出た。

 出てしまった。

 業界大手から超大物営業職を引抜いてきたのだ。

 数々の大きな仕事で名の知れた彼は、業界では伝説的なスーパー営業職だった。

 当然普通の条件で引き抜ける筈も無く、株の半分やら副社長待遇やら何やら破格の条件だったらしいが、その辺は、まあ良い。

 副社長が入って1年程、私はあまり変化を感じていなかった。

 少しづつ新しいジャンルの仕事が入る様になったが大した利益も上げておらず、私の居た技術部には未だ影響が現れていなかったのだ。

 大きく変化していたのは営業部だった。

 古株の営業職が次々と辞めて、営業部は完全に副社長の物になっていた。

 営業部に配属された同期によれば、恐ろしい勢いで雰囲気が悪くなっていったそうだ。

 彼はその後1年と保たず心を病んで休職してしまう。


 2年目、状況は一気に悪化する。

 営業部がとんでもない勢いで仕事を入れ始めたのだ。

 しかも納期も予算もタイトな物ばかり。

 更に今までと違うジャンルの開発でもあって、スケジュールの遅延が続発。

 会社がマトモに回らなくなるまで1年もかからなかった。

 下っ端の私ですら常時複数の仕事+イレギュラーな出張全般と云う無茶苦茶である。

 この頃もう半日は工程会議と云う末期状態だったのだが、工程表の矢印が一人に5本とか引かれてる時点で会議自体無意味だったと思う。

 この頃私の残業時間を普通に計算すれば月200時間は超えていた筈だ。

 ただ、事前に副社長のハンコが無いと残業が認められない(しかし副社長はほとんど社内に居ない)とか、出張中は徹夜しても定時扱い等々の謎ルールによりほぼサビ残であったが。

 そんな状態になっても営業部は仕事を入れ続ける。

「営業は仕事取ってくりゃ成績になっかもしんねぇけど出来ねぇもんは出来ねぇんだよ!」

 ある日上司がキレた。

「納期もバカだし何だこの予算!バカにしてんのか?」

 小柄で温厚な上司が鬼の様な顔で強面の営業に掴み掛かかり、皆で必死に分けた。

 皆疲弊していた。


 その夜私は出張に向かう車の中で強面の営業に愚痴られた。

「俺等だってわかってんだよ!

 だから納期も予算もなんとか必死で調整して客と交渉してんのに」

 営業にも言い分が有る様だった。

「副社長が出て来て何でもかんでもハイハイ客の要求通しちまうんだ。

 あんで良かったら子供だって仕事とれるよ」


 つまりアレだ、副社長は所謂『できらぁ!』営業だったのだ。

 そりゃどんな仕事でも取れただろう。

 スーパーだったのは営業力ではなく『できらぁ!』の無理をなんとかし続けた大手企業の技術力と製造力だったのだ。

 道理であっさり引抜けた訳だ。

 などと納得したところで状況が改善する訳も無く(一時阿呆みたいな理由で一息つけたが)私は5年で身体をぶっ壊して長期入院、翌年逃亡(退職)に成功する。

 その頃には社長も持株全てを副社長に押付けて手を引き、子飼いの部下達を引抜いて別会社を起ち上げていたし、副社長(もう社長になっていたが)は更に2年程後、社員や協力会社に無理矢理株を買わせた挙句計画倒産をキメた。

 後に聞いた話では、最後の頃はかなりヤバい筋の融資を焦げ付かせてヤっぽい人達に会社を封鎖されたり、朝出勤したら社内の機材やら資材やら(かなり高価)がゴッソリ消えていたり色々面白かったそうで(退職を)一寸早まったかなと後悔しなくもなかった。


 ちなみに副社長はその後懲りずもせずに同業種の会社を起ち上げ、数年で新聞沙汰になる様な事件とともに潰している。

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