第62話 復路予選・スターティンググリッド
食事休憩を終え、小岩剣は再び復路に向けて準備する。
復路は単独走行と言う予定だが、そうはいかない。
坂口拓洋を見送って、自分も出ようと言うタイミングで、やはり、白雪アンナが一緒に付いてくるのだ。
(予選になりゃしねえ。)
と、小岩剣は思う。
復路は食事休憩を挟んだとはいえ、やはりロングコースの疲労からか、序盤からスピンやクラッシュが多発していた。
特に、アマチュアの多いクラスとクラスKはクラッシュ多発である。
金精トンネルを抜けると、今度はひたすらにダウンヒルだ。
復路はゴールまでの長い区間でダウンヒル。
故に、ブレーキやタイヤの熱ダレも発生しやすくなる。
坂口拓洋はそれを見越して、敢えて普段のレースで使用するアドバン・ネオバ09ではなく、グリップは弱いがライフが長くリスクの少ない、コンサバティブなタイヤを選んで来ていたが、それは、小岩剣が履いている、シバタイヤR23Tw280だったのだ。
一方、小岩剣も同じタイヤを使用しているのだが、今度は経験が物を言う状態になっていた。
坂口拓洋は金精峠を一気に下っていったが、後を走る小岩剣はラモットからの指示を受けながらなので、どうしてもペースが落ち、痺れを切らした白雪アンナにオーバーテイクされてしまった。
しかし、白雪アンナも経験は無い。
それでも、白雪アンナは白雪アンナなりの考えがあった。
自分の走る様子を目の前で見て、参考にしろと言うのだ。
「私なりのメッセージ。」
と、白雪アンナ。
湯滝を通過する時、目の前でイエローフラッグ。
何かと思えば、なんと、坂口愛衣のS2000GT1がタイヤバーストで走行不能になっていたのだ。
「三峯神社の狼、散った。」
と、玲愛。
「アレはね、エゴが強すぎる。雷鳥を骨まで喰らい尽くし、自分と同じ狼にしようとするから。」
「アンナ―。」
「分かってる。つるぎと言う大白鳥は、私達の物にしたい。でも、狼のような真似はしない。」
アンナは後を走る、小岩剣のS660に視線を飛ばした。
「現状、5位キープ。アンナは3番手。ポールは坂口拓洋。」
ラモットが順位を伝える。
「了解です。」
小岩剣、頷く。
「これは伝えていいかな。」
「何をですか?」
「いや、望月がアンナの無線を聞いたんだ。そしたら、お前の事を「大白鳥」と言っていた。それから、これは坂口拓洋の方だと思うが、「エゴが強すぎる。雷鳥を骨まで喰らい尽くし、自分と同じ狼にしようとするからだ」とか言っていた。何か分かるか?」
「分かりませんね。ただ、拓洋さんについては引っかかる事があります。前戦で、渋峠から西の方角を見てました。その方向には、立山黒部アルペンルートがあり、そこには雷鳥が生息していると聞きます。」
「雷鳥が坂口拓洋なら、何か関連あるかもしれんし、お前が大白鳥なのも関連するかもな。」
戦場ヶ原のロングストレートを駆け抜ける。
観客は決勝レースより、予選の方が多い。
その理由として、決勝レースでは動きが取れない割に、クラス別とは言え、一箇所でワンシーンしか見られず、価格の割に、観戦時間が短いからだ。周回コースなら複数回見られるが、往復コースでは、決勝レースだと割に合わず、予選に観客が集中するのだ。
小岩剣は、戦場ヶ原を通過して、竜頭の滝のダウンヒルに入る。
ガードレールに突っ込んでいるR35GTRを横目に駆け抜け、中禅寺湖畔をアンナに引っ張られる格好で走るが、いよいよ小岩剣も疲れて来た。
そして、疲れてきたところで、最後の山場、第一いろは坂のダウンヒルだ。
「頑張れ!」
と、ラモットが声援を送る。
つづら折りで、第2よりも狭い第1いろは坂は、まるでジムカーナだ。
疲れ切ったところでこれは、気が狂うだろう。
「下り切ったらゴール手前で3つ橋を渡る。それまで踏み止まれ!」
ラモットの指示。
小岩剣はとにかく、前のアンナの走りを見ながら、ペースを乱さないようにする。
皮肉な事に、小岩剣が嫌う方法で、小岩剣は走れているのだ。
そして、1つ目の橋、2つ目、最後の橋を渡り、ゴール。
そのまま、アンナと一緒に、金谷ホテルまで戻ってスターティンググリッドを聞かされる。
小岩剣は5番手スタートで変わらなかった。




