第58話 竜頭の滝
高速セクション。
三条神流のZD8型BRZと松田彩香のGR86の重連に続いて、S660とクリミアが特急列車のように駆け抜ける。
エンジンチューニングによりパワーアップしているとはいえ、坂口拓洋と小岩剣のS660は全力疾走でどうにか、重連に付いて行けている状態だ。
ボートハウスの高速コーナー。
三条神流と松田彩香の重連は同時にブレーキを同じだけ蹴飛ばして、同時にコーナリングしていく。
後に続く坂口拓洋と小岩剣はノーブレーキでクリアしていく。
BRZとGR86よりホイルベースが短いなどコーナリング性能の高いS660だから出来る事だ。
一方で、クリミアはやはりブレーキを蹴飛ばす。
(クリミアは直線ではS660よりも速いのだが、コーナリング性能は僅かにS660に劣るらしい。)
と、スポッターを務めるラモットや霧降要が分析。直ちに、小岩剣にそれを伝える。
「了解です。とにかく今は、拓洋さんに引っ張られる格好で進めます。」
「ペース維持しろ。集中して!」
ラモットは端的に、要点だけを伝える。
余計な事を吹き込む玲愛やアンナ以上に走りやすい。
菖蒲ヵ浜遊覧船乗り場の直角右コーナー。
事件が起きた。
小岩剣がコーナリング中、アンナが追突したのだ。
バランスを崩した小岩剣。この間にアンナが前に行く。
「ふざけるな!」
霧降要が激怒して、ブースに居る玲愛に怒鳴り込む。
直ちに、レース審議委員が、アンナに対し黒白旗による警告とペナルティーを科した。明らかに故意に追突したのだ。
「ペナルティーくらい平気よ。これは、一緒に走らないつるぎへの、お仕置きよ。」
と、アンナは言う。
「あいつ、ぶっ殺す!」
小岩剣も激昂。
「落ち着け!お前まで同じ事やったら泥沼だ!ただ、アンナのクリミアのケツは止めとけ。何かのタイミングで前に出て、坂口拓洋の後ろに戻れ。」
ラモットが冷静に言う。
霧降要も三条神流と松田彩香の重連のスポッターであるが、小岩剣に呼びかける。
「あいつ、明らかに故意にぶつけてやがった。海外レースではある事だが、予選でこんな事やるのはな。そして、あいつが前に居るという事は、走行妨害して来る可能性が高い。その辺のアンポンポロピェヤ見てえなプリウスみたいにな。」
「どうすればよいでしょうか?」
霧降要が小岩剣の後方から何かが来るのを見た。
「後から、GT500が来る。keeperスープラだな。これを利用しろ。Keeperがクリミアを抜く際、一緒に前に行け。Keeperがクリミアに追い付くタイミングは、竜頭の滝の先のワインディングエリアだ。」
「了解です。」
小岩剣は頷いた。
「スピード差がデカイぞ。気を付けろ。」
ラモットも付け加えた。
何しろGT500で活躍するスーパーGT車両だ。
その、Keeperスープラが竜頭の滝手前でバックミラーに写った。
竜頭の滝の信号の左コーナーでアウトからKeeperが小岩剣のS660を追い抜くと、それの背後に小岩剣が回る。
しかし、コーナーの先は直線。
一気に加速するKeeperは、あっという間にアンナのクリミアと坂口拓洋のS660を追い抜いて行ってしまった。小岩剣もKeeperが空けた隙間を通って、クリミアの前には出られたが、あまり大きな効果は得られなかった。
「まずったな。もう少し先なら、効果覿面だったのに。」
と、ラモットが苦笑い。
一方で、三条神流と松田彩香の重連はKeeperの処理に少々手こずってペースが落ちたらしい。
ストレートの先は少しワインディング区間になっていて、ここで、三条神流と松田彩香の重連はKeeperスープラと行き会ってしまったのだ。
その間に、坂口拓洋のS660が三条神流と松田彩香の重連に追い付いた。
小岩剣もそれに続いていたが、後ろのアンナが気になる。
「後ろに気を取られるな。前を見ろ。何かしそうなら、こっちから言うから、お前は前を見ろ。」
ラモットが言い、小岩剣も頷いた。




