第48話 安曇野
小岩剣は安曇野サーキットのパドックで後片付けをしていた。
安曇野サーキットは、グランツーリスモの「京都ドライビングパーク・雅」のようなコースだ。
TOYOTA・ヤリスCup中部ブロックの内、長野県安曇野市の安曇野サーキットは、群馬からも行く事が可能で、三条神流と松田彩香がメカニックとして随伴して出撃したのだが、結果は26台中15位と、微妙な結果だった。
しかし、初出場のヤリスCupでありながら、この結果を残せただけでも、小岩剣は一応満足していた。
何しろ、レースデビュー戦である富士スピードウェイでのS660ワンメークでは、最下位に近い順位だったのだ。
それから、走りに走って、公道レースでは7位という結果を残した。
「成長しているな。このまま行きゃ、俺の立場がディフェンディング・チャンピョンになっちまうぜ。」
と、三条神流は笑った。
「どうする?午前で終わっちまったが、昼飯はサーキットで食べるか?それとも、町に降りて食うか?午後は、N‐ONEオーナーズカップだって言うが、見てくか?」
「見ません。町に降りて、飯にしましょう。」
きっぱり言う小岩剣。
三条神流は「ふっ」と笑った。
「なら、松本に出て、ハルピンラーメン食って松本城でも見るか?或いは、安曇野そば食べるか?穂高神社の近くに美味い蕎麦屋知ってるぜ。」
「ああ、三条さんは―。」
「へっ!本音言えば、アルピコ交通に凸って汚名返上と、元カノにアヤと歩いてる姿見せ付けてやりてぇんさ。」
「つるぎ君。こんなバカにならないように。」
と、松田彩香は微笑んだ。
安曇野の町に降りて、三条神流のおすすめと言う、穂高神社近くの蕎麦屋で少し遅めの昼食にした後、穂高神社に参拝して、松本城を見るため、松本の町に出ると、ダイナミックストライプカラーの路線バスを多数見かける。かつて、三条神流が務めていた、アルピコ交通の路線バスだ。
「変わってねえな。オンボロで煙吐きまくってまったく。」
と、三条神流は言う。
松本城の堀に沿って歩きながら、松本城を眺める。
「まだ、不完全燃焼ですか?」
と、三条神流に聞く小岩剣。
「まぁな。」
「高速バス乗務訓練開始直前だったからね。」
松田彩香が補足する。
「ねぇ。さっき、あんなこと言っていたけど、もし、元カノの―。」
「名前も忘れちまった。仮に隣に居ても分からねえよ。」
「分かった。愚問だったね。」
松田彩香が項垂れるのを見ながら、小岩剣は松本城の向こうに見える北アルプスを眺める。
(すぐに帰れ)と言われたような気がした。
だが、なぜかは、分からなかった。




