第27話 反省会
「ふーむ。まずったね。」
三条神流は苦笑いを浮かべた。
「ヤリス買うのも良かったが、エスロクに関しては、エンジンに手を付ける前にタイヤと足回りやるべきだったな。タイヤ、お前がトチ狂って変なタイミングで交換しちまったから言わなかったんだがな。足回りも、モデューロのサスペンションだから、大丈夫かと思ったが―。」
霧降要も頭を抱える。
「少なくともタイヤは今回履き潰して、TW280入れよう。それで、300は予備にとっておけ。売ったって屁にもならねえんだから。」
「パワーアップを優先しました。自分のミスです。」
「いや。赤城レースウェイでの試運転が疎かだった。エスロクの方はギリギリだった上、ヤリスに慣れさせることを優先させたからな。」
霧降要、珍しく落ち込む姿を見せる。
「しかし、ヤリスでの訓練は、エスロクで走る際に走り方のバリエーションを増やす事につながりました。決して無駄ではありません。来月のAZサーキットで急遽ですが、ヤリスCupにスポット参戦することになってますから、今回のレースの経験を、ヤリスCupに活かせればいいと思っております。」
小岩剣は少し溜め息を吐きながらも、次戦の事を見据えていた。
光泉寺の石段を、湯畑を見降ろしながら降りた所、白旗源泉を引く共同浴場、白旗の湯に向かう小岩剣を、白雪アンナは石段を降りた所で捕まえた。
「少し話がしたい。」
「契約破棄ですね。結構です。一方的に貴女から結ばれた契約が足かせになっては、お互いに、良い結果になりません。」
「契約破棄も、破門もしない。逆に、貴方に首輪を付けることになるかも。」
小岩剣は(バカか)と思いながら白旗の湯に向かおうとする。
「今夜、寝る前、貴方の部屋でゆっくり刺し飲みしたい。」
「レース前夜のルーティンであるなら良いですが、変な事を話すのであれば、レース後に願います。」
そう言って、小岩剣は白旗の湯に入ったがすぐに出た。
中で、老人が入浴マナーを巡って怒鳴り合いをしていて警察が駆け付けていたからだ。
そこに、坂口拓洋もやって来たが、小岩剣は首を横に振りながら、「入らない方が良い」と言い、大滝の湯に向かう。こうして歩いている間、拓洋も一人の人間になる。
(拓洋さんの趣味って、温泉巡りと相撲観戦。レーシングドライバーとは繋がらないな。)
と、首を傾げながら拓洋と並んで歩く小岩剣。
闘う世界に足を踏み入れた者の宿命か分からぬが、リア充の住む世界では、例えどんな形で絶頂に達しても、闘って勝った時の喜びに勝る物は得られないと感じる。むしろ、リア充の世界にいると、心が乾いてしまい、何をしても満たされないで退屈に過ごすことになると感じる。
実際、今、観光地たる草津温泉の温泉街を歩いていても、何も感じないのだ。
一方で、拓洋は、温泉好きと言う一面もあって、楽しそうなのだが。
「常にエンジン全開か?」
と、聞く。
ここは大滝の湯の合わせ湯。順番にぬるい湯から熱い湯へ入って行く湯だ。
「そうして、エンジン全開でいるのもいいが、回し過ぎるとエンジンはどうなる?」
「-。オーバーレブからのエンジンブロー。」
「人間だってそうなる。何が言いてえか?お前は、ONとOFFを上手に出来るようになれ。常にエンジン全開にしていると、ぶっ壊れるぞ。」
と、拓洋は言った。




