反芻思考
目が覚めても、現実は遥か遠くにあるようだ。
嫌々朝食をつくり、嫌々服に着替えて、
今日も講義を受けなければならない。
こんなことなら見え張って受験なんて受けなきゃ
良かった。
そんな私を気にぜずに目覚ましは吠えている。
いい物件もないまま結局、格安のアパートに
住み着いたは良いものの、とにかく立地が
最悪だった。今から2時間の通学だ。だるい。
せっかくだから考え事でもして時間を潰そう。
桜が咲いていた。私は桜の美しさがイマイチ
よく分からなかった。日本のソメイヨシノは
複製体であるとテレビで言っていた。
複製体なら個性もクソもないじゃないか。
そう思って興味が消えた。
幼少期の記憶も曖昧なので、桜を見た思い出が
ない。もしかすると、私の生きていた土地は
桜の植林が条例で禁止されていたかもしれない。
そうこうしている間に、駅のホームに居た。
「ガタンゴトン」そんな擬音があるが、
聞こえてくるのは「ガガガガッ」とロボットが
階段から落ちたような音だ。
それよりもスマホを叩く音、足でリズムをとる音、
傘で地面を突く音の方が鮮明だった。
そういえば、天気予報では今日は雨らしい。
まずい。まあ、いっか。
今は、電車の中だ。
「次は◎◽︎△です。」
この人も大変だろう。同じ動作の繰り返し。
だけどミスは許されない...悪寒がする。
この人がカラオケに行ったら間違えて駅名を
連呼して赤っ恥をかくに違いない。
気がつくと改札の前に居た。
私の集中力は恐ろしい。そして誇らしい。
その後何事もなく一限が終わった。
一瞬で時が過ぎ、四限も終わった。
さて、同じ動作の繰り返しだ。
来た道を戻って、何も考えずに進む。
ただ、ひとつだけ変化が生じた。
帰り道、大学の親友に偶然出会った。
「アンタ、びしょ濡れじゃん」
「あっ、ほんとだ」
「折りたたみ貸したげるから使いな」
「お断りします」
「え?ちょっと...」
そうやって宗教勧誘を断るように帰宅した。
思考は布団を引き終わったとこまで
ショートカットされた。あとは寝るだけだ。
ふと議題が思い浮かんだ。
私が一番怖いものはなんだろう。
アンケートを取れば、「お化け」「上司」「税金」
「将来」「彼氏を狙ってくる女」などの意見が
出るだろう。
私はお化けが居てもなんとも思わないし、上司も
どうでもいい。税金なんてただの制度だし、
将来はどうでもいい。最後は知らん。
「私が一番怖いもの...」
嫌な記憶が中枢神経を通る。
私は「罵声」が怖いのだ。
罵声を聞けば萎縮するし、PTSDかは知らないが、
必ず手の震えが止まらなくなる。
そして何よりも、その時の記憶だけが鮮明になる。
そういえば、今朝のホームではサラリーマンが
若い男性に罵声を浴びせていた。
駅でも年季の入った顔の男性が若い女性に
罵声を浴びせていた。
気がついたらもう朝だ。枕が少し濡れていた。
今日も嫌々朝食をつくる。一限は必修科目だ。
急がなくては。
もうこの習慣を変えることはできない。