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05話 王女様の客人になったから甘やかして!


刹那の帰還(イピストゥロフィー)!!! 」


 ――魔法が放たれた瞬間(しゅんかん)、周囲が一瞬暗転(あんてん)し、気がつくと立派な城門の前に立っていた。


 『刹那の帰還(イピストゥロフィー)』ってなんか攻撃魔法っぽいのに移動系の魔法なんだな……。

 ……ってそんなことはどうでもいい。

 僕の目の前に広がるのは、エマの立派な屋敷……屋敷……ではなかった。なんというか……とても立派な城門である。

 ……って、アレ? いまから連れて行ってもらうのってエマの屋敷ではなかっただろうか。

 しかし、目の前の光景は、立派な城門とその奥にある中世ヨーロッパ風の美しい城である。とてもじゃないが屋敷とは思えない。

 屋敷と言うよりも王城というほうがしっくりくるほどである。


 ――あ! 分かった! これはアレだ。本当にこの城は王城で、エマの屋敷はこの王城近くにあるのではないだろうか。

 おそらく、帰還先をこの城門の前に設定していたのでここに転移しただけで、エマの屋敷はまったく別の建物なのだろう。

 そうだ。そうに決まっている。エマの言う屋敷がこの城を指すなんてありえない。

 だが、一応エマに(たず)ねておこうと思い、話しかけようとした。

 すると、城門の前に立っていた守衛(しゅえい)と思われる三人の中の一人が話しかけてきた。

 僕にではなくエマにだが……。


「ひ、姫様! 何度も申していますが、『刹那の帰還(イピストゥロフィー)』で急に目の前に転移するのはおやめください。心臓に悪いですぞ。そんなことよりも一体どこに行かれていたのですか? 国王陛下(へいか)様はさぞ心配なご様子で、国王陛下自ら姫様の捜索(そうさく)に乗り出したほどでしたぞ。いい加減、城を無断で抜け出すのはおやめください」


 三人の守衛さんのなかでおそらく一番ベテランだと思われる人がエマにそう話した。

 他の二人の守衛さんは『騎士(きし)』といった感じである。二人は中世ヨーロッパ風の(よろい)を装着しているが、この人は剣を腰にぶら下げてはいるものの、鎧は着ておらず顔がはっきりと分かる。

 この老熟(ろうじゅく)した顔や声からして、かなりの歳のようだ。

 

 それにしてもエマが姫様と呼ばれているのには驚きだ。

 とは言っても、屋敷を持っているというのだから貴族のお嬢様(じょうさま)であることは薄々(うすうす)分かっていた。

 しかし、国王まで捜索に乗り出すほどの高貴(こうき)な身分とは思わなかった。

 公爵家(こうしゃくけ)の一人娘とかだろうか。にしても城から無断で抜け出していたんだな。しかもこのペテラン守衛さんの言い方だとかなりの常習犯(じょうしゅうはん)っぽいな。

 まぁ、そのおかげでゾンビの群れから救われたと言っても過言(かごん)ではないのだけど……。


「ただいまです。(じい)や。今日はゾンビが異常発生したと聞いたので、ちょっと遠くまでゾンビ狩りに行っていたのです。この二人はリエちゃんとアオイくんです。ゾンビの群れに(おそ)われてたから、ちょちょっと助けたのです。二人から聞いてみたいこともありますし、何日かこの城で客人として迎えようかなって思っているのですが、爺やはどう思いますか? 」


 僕たちが客人としてこの城で迎えてくれるように頼んでくれているのだろうか。いや、これはどちらかというと相談に近いのかな。

 守衛さんでは、客人をどうこうするような権力などないだろうし、どうすればいいのか相談しただけだろう。

 そして、この爺やとやら、昔からの関係なのか、エマにかなり信頼されているようで、ただの主従ではない(きずな)のようなものが感じられる。

 祖父と孫のようで見ていて心がほっこりする。


「そうですな。客人として迎え入れることに問題はないでしょうが、一応、陛下にその旨を伝えておくべきでしょうな。今から姫様が見つかったことを捜索に出ている陛下にマジックアイテムで伝える予定ですので、陛下のことです。おそらく、すぐにここに来るでしょうから、そのときに姫様からお伝えください」


 ん? えっ?なんかあっさり決まったみたいだけど、ほんとにそれでいいのか?

 国王がここに来るということは、僕たちもお会いできると言うことだろう。自分で言うのも何だが、身元が不明な二人組である僕たちはかなり怪しいと思う。

 もっと僕たちについて調べるべきだろう。敵国のスパイとかだったらどうするのだろうか。

 まぁ、客人として迎えてもらえるのならば何の問題もない。

 

 しかし、この爺やとやら、王様に直接連絡できるとは、実はかなり権力のある人なのだろうか。

 改めてみると、かなりの歳であるのにもかかわらず背筋はピンと伸びていて、どことなく油断のできない雰囲気を(かも)し出ている。

 全盛期の頃は、腰にぶら下げているあの剣で、英雄とあがめられるような活躍をした冒険者だったのかもしれないな。

 そして、今はこの王国で剣術指南役(けんじゅつしなんやく)にでもなり、それなりの地位にいるのかもしれない。


「ありがとうございます、爺や。それでお願いします」

「承知しました。それでは、いったん失礼して……」


 爺やは僕たちからいったん離れて、トランシーバーのようなものに向かって話し始めた。

 トランシーバーもどきからは、小さい魔法陣のような物が出てきているので、さっき言っていたマジックアイテムなのだろう。

 そんなことより、守衛さんが二人いるものの、いないのとほとんど変わらないので、やっとエマに聞きたかったことが質問できる。


「エマ、聞きたいことがあるんだけどさ。屋敷ってこの城のこと? 」

「そうそう。私も気になってたんだよね。この城がエマちゃんの屋敷なの? 」


 そう。この城がエマの言っていた屋敷なのかだ。まぁ、おそらくここまでのことからしてこの答えは……


「あれ? 言ってなかったでしたっけ? 屋敷はこの城のことです。私はこの城に住んでいるので城ですが、屋敷です」


 ですよねぇー。エマの言う屋敷がこの城であることは薄々分かってはいたものの、ここに住んでいるというのは驚きだな。


 ――うーん。

 嫌な予感しかしない。

 いや、別に悪いわけではないのだけど……。

 高貴(こうき)な身分で、国王にまでも捜索(そうさく)に出るほど心配されていて、城に住んでいる。

 そして、この国の名前『ベルサイユ王国』とラストネームが同じ……。

 これほど条件がそろうとアレしかないように感じるのだが、心配しすぎだろうか。

 よし、さっきはきけなかったけど、もう一度きいてみるか。


「エマ、さっきもきいたけど、ベルサイユって……って、うわ!」

「エマ!!! あぁぁぁ、見つかって良かった。もう会えないかと思ったんだぞ。いったいどこに行っていたんじゃ」


 ふさふさな白いひげを生やした小太りなおじさんが突如として現れて、エマに抱きついた。

 あの頭に付けている王冠からしておそらく国王だろう。

 なるほど。さっき、爺やが『刹那の帰還(イピストゥロフィー)で急に目の前に転移するのはおやめください』といっていた意味が分かった。寿命(じゅみょう)が縮まる。本当に心臓によくない。


「やめてくだい。お父様。リエちゃんとアオイくんが見てます。……セイ! 」


 エマが回し蹴りをして国王を蹴飛(けと)ばした。

 ……ちょっと待てよ。エマが国王のこと『お父様』とよんでいたような……。国王をお父様と呼ぶと言うことは国王の娘と言うことだよな。

 ……ってことは……王女様ってこと!?


「姫様、国王陛下様に例の件を言わなくてもよろしいのですか? 」

「あ! 忘れてました。ってお父様、気絶しちゃってるじゃないですか! まぁ、叩けば起きますよね」


ビシ! バシ!


 エマが回し蹴りされて気絶していた国王の頬に往復ビンタした。荒治療(あらちりょう)にもほどがある。

 っていうか自分の主である国王が気絶しちゃってるのに爺やも守衛さん達も冷静だな。

 普通ならもっと慌てふためくような気もするのだが……。

 

 そして、今更なのだが国王は一人で来たようだ警備(けいび)は一体どうなっているのか。

 町の中とはいえ、普通は護衛(ごえい)に何人か連れ歩くものではないのだろうか。まぁ、魔法がある異世界では当たり前なのかもしれないが……。


 にしても、エマが王女様とは驚きだ。異世界の王女様と言ったら、もっとおとなしい姫様を想像していたのだが……。

 ゾンビの群れを一瞬で消し炭にしたり、親を回し()りしたり、往復ビンタするようなおてんばな姫様が王女様だったとは予想外だ……。


「は! ここはどこ? ワシは誰? 」

「はいはい。記憶喪失(きおくそうしつ)なんてあの程度じゃしないに決まってるじゃないですか。あと、そのネタ古いですよ」


 思わず僕とりえは目を合わせた。いや、別に何か重要なことがあったわけではないのだが、元の世界でも有名な『ここはどこ? 私は誰? 』のような“定番”がこの世界にもあるとはちょっと感動したのだ。

 りえと目が合ったと言うことは、同じようなことをりえも感じたのだろう。


「あ、そうそう。お父様に相談しようと思っていたことがあったのですが……」

「また婚約(こんやく)相手のユピテル王子のことか? いくらかわいいエマの頼みとしてもこればかりは(ゆず)れぬぞ」

「いえ。この二人についてです」


 エマはそう言いながら、振り返り僕とりえに指を指した。やっと本題に入るようだ。


「この二人はリエちゃんとアオイくんです。二人がゾンビの群れに襲われていたところを先ほど、ちょちょっと助けたのです。二人はかなり遠いところから来たようで疲れているようですし、聞いてみたいことがたくさんあります。なので、何日間かこの城で客人として迎えようかなって思っているのですが……」

「ほう。そんなことであったか。かわいい、かわいいエマの頼みとあれば、断るわけがないではないか。リエ殿とアオイ殿であったか。遠くから来たと聞くにかなり疲れたのではないか? 最高級のおもてなしをする故、この城でゆっくりとくつろいでいってくれ。ハンネスよ。この二人に客室を案内せよ」

「は!」


 あっさりと許可されたようだ。

 身元の怪しい二人組を即断即決(そくだんそっけつ)で城に入れるとは……。何度も言っているが、もっと警備は厳重(げんじゅう)にするべきだと思うのだが…….。

 それにしても爺やと呼んでいたベテランの守衛さんの名前はハンネスさんというらしいな。このハンネスさんが僕たちを客室に案内してくれるようだ。


「それでは、エマよ。ワシは政務(せいむ)をせねばならぬでいったんお別れじゃ。今日はずっとエマの捜索に出ていた故、政務がたまりにたまっているのじゃ。くれぐれも、今後また城を無断で抜け出すなどしないのじゃぞ」


 一応、少しは怒られたようであるが、王女様が無断で城を抜け出したというには軽すぎる。

 現にエマは返事をせずに無視をしている。あの顔は絶対にまた抜け出すだろう。

 まぁ、そんなことはおいておくとして、これから王女様の客人としての生活が始まろうとしているのだ!


 非常に楽しみだ。

 異世界で胸の躍る冒険も良いが、客人として豪華絢爛(ごうかけんらん)な生活を送るのも良い!そう思って、りえの方を向くと自然と目が合った。

 そして……。


「「イェーイ!!! 」」


 僕とりえはハイタッチをして、この喜びを分かち合った。


読んでいただきありがとうございます!

明日も合計2話アップ予定ですのでよろしくお願いいたします。

少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、

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