31話 頑張って練習します!
第二章の開幕です。
「それじゃあ、葵。さっさと例の魔法を使えるようになっちゃって」
『そうですね。それでは、葵さん。先ほど渡したの本の中から無秩序の世界について書かれたページを探してください』
僕の名前は立花葵。
ほんの数日前まではごくごく普通の中学生だったのだが、いろいろあって異世界に召喚され、勇者になり、現在チート能力を女神様からお教えしてもらっている最中である。
「――えーっと。無秩序の世界っと……。お! あった! 」
「どれどれ見せて! 」
『見つかりましたか? そこには私が考えたその魔法を放つための方法や意識をするべきことなどを書きました。まずはしっかりとよく読んでみてください』
好奇心旺盛なりえにも見せながら、僕はそこに書かれていることを一つ一つ黙読した。
女神様にもらったこの本は、なんというか体育の実技の教科書のようで、その魔法を使えるようになるために必要な踏んでいくべきステップや、意識するべきことなどが図やイラスト等を使用して分かりやすく説明されていた。
とても分かりやすい。
さすがは女神様である。
――えーっと、なになに……。
無秩序の世界とひとくくりにまとめても、六つの能力があり、それぞれの能力によって難しさが全く変わってくるらしい。
自分だけでの空間移動、自分と他者の同時の空間移動、他者の強制的な空間移動という三つの同じ世界内での移動に関する能力。そして、自分だけでの世界間移動、自分と他者の同時の世界間移動、他者の強制的な世界間移動という計六つの能力があるそうだ。
それと、世界間移動を使えるようになるには、まずは三つの同じ世界内での移動を完璧にする必要があるらしい。
ちなみに同じ世界内での移動は刹那の帰還と大差ないように思えるかも知れないが、全然違うらしい。
どうやら刹那の帰還は自分が一度その場所に行き、テレポート場所として設定しなければ、移動できないらしく、それに対して無秩序の世界は言ったことのない場所でも、特定の条件を満たせば移動することができるらしい。
まさに刹那の帰還の上位互換といった感じである。
そして、問題の使用方法だが、それぞれの能力による使用方法の差はほとんどないらしい。
大きく二つの使用方法があり、一つは行きたい場所を座標を計算して求めるて移動するというもの。そしてもう一つは、明確なその場所のイメージを完全に集中して、イメージして移動するというものだ。
女神様のおすすめはイメージを使用する方法らしい。
というのも、座標の計算は難しく、それをするためにさらに別の魔法を使う必要があり、なおかつ同じ世界の中ならともかく、世界間の移動となると計算の量が莫大なものとなり常人には使いこなすのが難しいらしい。
――うーん。
イメージするだけなら簡単にできるようになりそうだが、どうなのだろうか。
「イメージするだけで使えるようになるんだったら簡単なんじゃないの? 」
「ちょうどそれ思ってた。以外と簡単そうだけど、難しいのかな? 」
『そうですね。イメージは天性の才能の面が強いので、以外とすんなりとできてしまうかもしれませんね。どうです? さっそくやってみて、確かめてみませんか?』
――そうだな。
一回やってみるのも重要か。
「そうだな。一回やってみるか」
「そうこなくっちゃ! 」
『では、ガイアやエマさんが待つ家まで魔法で戻ってみましょう』
「分かりました。やってみますね」
『――それでは、葵さん。イメージはできましたか? 』
――家と言う名の城をイメージする。
集中して、集中して。
一切の雑念を抱かず……。
「無秩序の世界! ……って、あれ? 」
「え……失敗なの? 」
『うーん。どうしてでしょうか。実はこっそり葵さんの思考を読み取っていたのですが、イメージは完璧でした。特に問題ないように思えるのですが……あっ! もしかして、葵さん。魔力の流れは自分で分かりますか? 』
――魔力の流れ?
なんだそれ。いかにも異世界ファンタジーっぽい言葉だが、そんなもの分からない。
「え? 何ですか? それ……。まったく分からないですけど……」
『あー。完全に失念していました。ちなみにりえさんは? 』
「魔力の流れ七日は分からないけど、こっちの世界に来てから体の中の血液? 見たいなのの流れを敏感に感じるようになったのだけど、これのこと? 」
『えぇ。それの認識で間違いないと思います。……葵さん。はっきりと言います。葵さんは魔法を使うために必要不可欠な魔力をほとんど持っていないようです。これは生まれ持っての特性のようなものなので仕方がありません』
――え? 魔力を持っていない? 魔法が使えない?
ってことはチート能力は夢の中だけの力だったてこと……!?
『あ、いえ。魔法が使えないというわけではなくてですね、自分の力だけでは不可能だろうと言うことです。私が魔力を貸しますので心配はいりませんよ。その可能性を私が失念していただけです。それでは葵さん。魔力を貸させていただきますね。では、無秩序の譲渡』
そういうと女神様は僕の頭に手を触れながら魔法を唱えた。
おそらく魔力を送る時に使う魔法なのだろう。
「お! なんか体があったかくなってきた。ってアッツ! 死ぬ死ぬ。一回止めてください。あ! マジやばい。一回止めて、一回!」
『え? もう限界が来てしまったのですか? まだ全然……』
「なんか体が真っ赤になって、あからかにやばそうなんですけど! カオス、一回魔法使うのやめなさい! 」
『あ! そうですね。今やめます』
――ふぅ。
死ぬかと思ったぁ。
女神様が僕に貸してくれた魔力量が大きすぎて僕の体が悲鳴を上げでもしたのかもしれない。
女神様ならえげつない量の魔力を持っていたとしてもおかしくはないし、その可能性は十分にあるだろう。
「――ふぅ。危なかったぁ……」
「葵、大丈夫? 」
「心配ありがとさん。僕は大丈夫だよ。……それより女神様、さっきのって僕の体の限界を超える魔力量を貸してもらった代償みたいな感じなんですかね? 」
『うーん。その認識で間違いないと思うのですが、今送った魔力量はほんの微々たる量でしかないはずなのですが……。それこそ、魔法を数発しか放てない程しか……』
「――え? それって……」
「つまり、葵は魔法数発分の魔力量が限界なのね……。せっかくチート能力手に入れられたと思ったのに、数発しか撃てないという大きすぎる欠点を抱えてた……葵らしくていいじゃない」
――文章だけでは慰めて暮れてるようにも捉えられるりえの言葉だが、どう見ても笑いをこらえているのだ。
別にそれが悪いというわけではないけど、捉え方によっては煽りにも捉えられるので、本当に気をつけてほしい。
まぁ、でも、らしいといわれるのは悪くないな。
『ま、まぁ。体が慣れていけば、だんだんと持てる魔力量も増えるかも知れませんしね。それに数発は魔法を放てられるので、大丈夫ですよ』
――なんか、改めて慰められると悲しくなってしまうのは本当にどうしてなのだろうか。
はぁ……。まぁ、そうだよな。
数発は放てられる魔力量を持てるだけよかったということにしておこう。
「ちなみに、具体的に何発くらい撃てるのですか? 」
『使う魔法によって使用する魔力量が異なるのでなんとも言えませんが、合計で十発撃てるかどうかと言うところでしょうか』
「それじゃあ、もしもとの世界に戻ったとしたら、行きと帰りの移動用に二発が必要だから、八発しか向こうでは使えないってことか……」
――はぁ……。
せっかく異世界に来て手に入れたチート能力があるというのに、それを使ってもとの世界で無双するなんてことは不可能なのか。
それに、五大神との戦いとなったとき、僕は八発でなんとかしなければならないのか……。
そして、もし八発でなんとかできなかったときは、ごくごく普通のただの男子中学生に戻り、足手まといとなるのかぁ……。
まぁ、何も使えないよりは全然ましか……。
「――チッチッチ。私、完璧な作戦を思いついちゃった。私が今、女神様が使ってた魔法を使えるようになって、葵の魔力がつきそうになったら私が魔力を貸してあげる。これなら、私の魔力がつきない限り限界は来ないでしょ」
――どうやら僕の口でチッチッチという癖がりえにもうつったらしい。
ってそんなことはどうでも良い。
そうか。その作戦があったな。
りえなら簡単に魔法を使えるようになるだろうし、魔力量だってきっと強大なのだろう。
その作戦なら、僕の回数制限という大きすぎる欠点を埋められるかも知れない。
『――残念ですが、それは不可能です。りえさんの持つ魔力と葵さんが魔法発動に使う魔力が異なります。”無秩序の力”を使用するための魔力は、”無秩序の力”を持つ者の魔力しかいけません。なので、葵さんには、魔力がつきるたびにここに来てもらい私から魔力を供給する必要があるのです』
りえが顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。
自信満々に言ったからこそ、不可能だと知って恥ずかしくなったのだろう。
それにしても、何という欠点なのだろうか。
十発使うたびに女神様に魔力を分けてもらわなければならないなど、迷惑をメチャかけることになりそうだ。
「――なんか、すみません」
『いえいえ、謝ることなんて何もないですよ。それより、気持ちを切り替えて、もう一度家まで魔法で戻るのに挑戦してみましょう』
「そ、そうね。なにはともあれ、魔力は手に入ったのだものね」
――それもそうだな。
嘆いていても何も始まらないのだ。
よっし、今度こそ、やってやるぞ!
「――うん。そうだな。それじゃあ、もう一度やってみるよ」
――一回すべてを忘れよう。
集中だ、集中だ。
一切の雑念を抱かず……女神様の家、いや城をイメージする。
落ち着いて、より細かく、より鮮明に……。
そして……!
「無秩序の世界! 」
――魔法を詠唱すると周囲が一瞬暗転し、気がつくと先ほどまでイメージしていた家と言う名の城の前に立っていた。




