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30話 自由自在に異世界へ

今回で第一章完結となります。


『ただ、それを渡す代わりに、私を殺すことを約束してください』


 ——背中のあたりがぞわっとなった。

 うっわ。このパターンか……。

 ただより高いものはないとは、まさにこのことだろう。

 正直、この魔法の所は欲しい。

 夢だ。憧れだ。

 これさえあれば完璧な最強主人公になれるかもしれない。

 欲しい。なんとしても欲しい。

 

「うっわ。やっぱ性格悪いわね、あなた……」


 ……だけど、今回は忘れよう。

 こんな本などなかったのだ。

 そうやって思うとしよう。

 この本は欲しい。

 だけど、本欲しさに女神様を殺す約束などできるはずがない。


『お褒めいただきありがとうございます』

 

 ——そりゃ、今だけ適当に約束するとでも言って、本をもらって、その後はチート能力を満喫しつつ、女神さまを殺すのはのらりくらりとやり過ごし、女神さまが諦めるのを待ちつつ人生を謳歌するなんていう、したたかな作戦だってしようと思えばできる。

 ぶっちゃけ、はたから見れば、それが最善なのかもしれない。

 ゲスイ作戦とはいえ、本をもらえ、女神さまを殺さずにも済み、一石二鳥な作戦がこれなのだ。

 他人の目を気にしているわけではない。

 僕は他人の目など、時には気にせず自分勝手に行動する勇気も大事だと思っている人間だ。

 だけど、今回ばかりはダメなのだ。

 だって、隣にりえがいる。

 立った一瞬でさえ、どんな些細なことでさえ、りえを裏切るような真似は絶対にしたくない。

 だからこそ、僕の答えは一つしかない。


「はぁ……そんな感じならいら……」

『まぁ。……と言うのは少々意地悪ですよね。本音で言えば、そう迫りたいところですが、今無理やりそういわせたところで仕方がないですものね。それでは、無料でそれを差し上げます。ただ、判断をするときに多少はこの恩を加味してくれると嬉しいですけどね』


 女神さまは、そう言ってはにかんだ。

 一瞬僕の思考を読み、方針を転換したのではと疑ってしまったが、この純粋な笑顔を見てなお疑うような真似は僕にはできない。

 

 ——ふむ。

 この本は賄賂というわけか。

 まぁ、悪くはないな。

 今まではそんなの無理に決まっていると突っぱねてしまおうと思っていたが、ほかの打開策でも考えるとしよう。

 

「あぁ、賄賂ってことで受け取らせてもらおうかな。その代わり、いい打開策を考えるよ」

「『打開策? 』」

「そう、打開策。女神様は死にたいんだろ。だけど僕たちは命を投げ出すような行動はしてほしくない。ならさ、女神様が死にたいと思わなくても済むようにすればいいんじゃないかって」

「具体的には? 」

「女神様の死にたい理由は、五大神の暴走と孤独なんだろ? なら、五大神の暴走の静止と孤独をなんとかできれば、命を絶つ必要もなくなるんじゃないか。孤独は僕たちがちょくちょくここに遊びに来れば解消されると思うし」

『孤独は解決されるかもしれません。それは、おそらく無理でしょう。ガイア以外の五大神は、正気を失っています。話し合いなどでは絶対に不可能ですし、暴走を制止するのは殺すしかありません。ガイアと戦った二人なら分かつとは思いますが、五大神は強いですよ』


 ——そんなこと知っているに決まっている。

 今の自分が勝てるなど思っていないし、どれだけ強くなったとしても勝てる気はしない。

 あのレベルに達せれるとは思えない。

 同じ土俵にすら立てないような気がする。

 でも……


「でもさ、それって女神様を殺すのだって同じことが言えるでしょ。女神様はさっき、りえと僕の力が合わさらなければ、殺すことはできないと言った。つまりりえも僕も一人では不可能ってことなんじゃないの? てことはそれなりの理由があるんじゃないの? 」


 ――そう。

 女神さまを殺すのを用意と思っては大間違いなのだ。

 史上最悪の悪神だとしたら間違いなくラスボスだ。

 そんな存在を殺すのが容易なはずがない。


『はぁ……。確かにその通りです。私を殺すには、完全に私の力を操れるようになった葵さんと、りえさんの見た能力を一瞬にして自分の力にできる”冥護”で葵さんが再現した私の力をさらに再現し、二人がかりで”無秩序の冥護”を使用しなければならないでしょうし、それなら五大神の方が、まだ倒しやすいかもしれません』


 ——はぁ……やっぱそうだったか。

 それにしてもりえの力は半端ないな。

 何? 僕が完璧な最強主人公の力を手にしてもそれを簡単に再現できちゃうの?

 チート過ぎてやばいな。


「ねぇ、それと思ったんだけど。大前提として、あなたが死ねば五大神は正気に戻るみたいになってるけど、そんなうまくいくの? 」


 ——た、確かに……。

 言われてみるとそうだな。

 女神さまが死んだところで暴走状態にある五大神はそのまま暴走を続けるような気もする。


『確かに、それも希望でしかありません。五大神は暴走をそのまま続けるかもしれません』

「なら、やっぱ目の先の目標は五大神の暴走を直接なんとかする方がいいだろ。すぐには無理かもしれないけど、絶対に何とかして見せるからさ」

「そうね。あなたの自殺に付き合うのは絶対にごめんだけど、暴走した五大神をなんとかするのならいいわよ」


 ——勝てるか勝てないかではない。

 やらずに後悔するより、挑戦してみる方がいいに決まっている。

 情報収集をして、作戦会議をしても死ぬわけではない。

 どうしても無理ならほかの作戦を考えるしかないかもだけど、今はこれの目標に向けて挑戦してみるのがいいだろう。


『——。————。——————はぁ……。お二人の熱意に負けました。命を絶とうとするのはやめるとしましょう。確かに、それが最善ですものね』

「そういうこと! 」

「うんうん。そうこなくっちゃね!」


 ——よかったぁ!

 女神様も納得してくれたようだ。

 これで女神様を殺すという地獄は訪れずに済みそうである。

 はて、さて。

 次はどうやって五大神に勝つかだな。


『そうだ! 考えを改めさせてくれたお礼と言っては何ですが、葵さんにいい魔法を教えましょう』


  ——いい魔法?

 どんな魔法だろうか。

 チート魔法かな?

 ワクワクが止まらない!


『魔法の名前は無秩序の世界(カオス・イフィリオス)。いうなれば刹那の帰還(イピストゥロフィー)の上位互換の魔法で、空間だけでなく世界をも移動できる最強の魔法です』


 ——チート能力、キタァァァ!

 空間を一瞬で移動できる能力でさえ、もとの世界の常識で言えばチートだというのに、世界までも移動できるとはヤバすぎる。

 ……ん? ちょっと待てよ。

 世界を移動できると言うことは、もとの世界に戻ることも可能だと言うことだろうか。

 

「――それって、世界を移動できるって、もとの世界にも戻れるってことだったりしますか? 」

『えぇ。もちろんお二人のもとの世界にも戻れますし、そのほかにもこの世界を含めた六つの世界を行き来することができます』

「よっし! これで元の世界に帰れる! 」


 ――これでもとの世界に帰ることができる。

 この世界が嫌いなわけではないのだが、戻れるのだとしたら戻りたい。

 自由に行き来できるのなら、あっちの世界で主に生活しつつ、たまにこっちに来て冒険するなんて方法だってアリだろう。


「――葵……。葵はもとの世界に帰るの? 」

「いや、そういうつもりじゃ……」


 ――あっ……。

 そっか。そういうことか。

 その魔法を使えば二人とも帰れると思い込んでいたが、そうとも限らないのか……。

 はぁ……。

 そんな欠陥がある魔法なのだとしたら、使うことはないだろうな。

 りえをおいて自分だけ帰るなどという選択肢は僕にはないのだ。

 

『安心してください。無秩序の世界(カオス・イフィリオス)は複数人で同時に移動することも可能です。葵さんだけではなく、お二人で帰ることだってできるのですよ』


 ――お!よっし!

 これで二人で一緒に帰れる。

 さすがはチート能力だ。


「そういう話じゃなくて……。葵はもとの世界に帰りたいの? 」


 ――あぁ……そういうことだったか。

 完全に思い込んでいた。

 みんながみんなもとの世界に帰りたい物だと完全に自己中心的に考えてしまった。

 完全にやらかしだ。

 よくよく考えればそりゃそうだ。

 エマのおかげで衣食住は最高品質だし、娯楽だってりえからすれば、稽古などで体を動かせれば十分すぎるのだろう。

 そりゃ、もとの世界に帰りたいとは思わないわな。


「いや、僕は結構この世界のこと気に入ってるし、別に帰りたいとは思わない。さっきのことは忘れてくれ」

「そうなの? 本当にそれでいいの? 」

「あぁ、もちろんだ。りえだってそうだろ? 」

「そうね……」


 ――これでいいのだ。

 もとの世界に戻ったところで、何があるというのか。

 そんなまだ見ぬ何かより、目の前のりえを優先させるべきに決まっている。


『帰りたいかはともかく、五大神をどうにかするならお二人の世界にはいずれ戻ることになると思います。というのも、お二人のもとの世界は五大神の一柱である夜のニュクスの管轄する世界です。ガイアは特殊な例ですが、五大神に会うにはそれそれの管轄する世界に乗り込む必要があります』


 ――五大神をなんとかすると宣言した以上、もとの世界に戻るのは避けては通れないだろう。

 りえのことが心配だし、あまり気が乗らない。


『あくまで私の意見ですが、お二人は一度もとの世界に戻り、この世界ともとの世界を行き来しながら、学校生活を送りつつ、ニュクス戦に備え、力を付けていくというのが良いと思います』

「しっかりと力をつけてから、一瞬だけもとの世界に戻ってニュクスって奴をなんとかするのじゃダメなの? 」


 ――確かにりえの意見はもっともだ。

 別にわざわざ戻って学校生活との両立をする必要もない気がする。


『りえさんはともかく葵さんは、家族をどうするのですか? 今はともかく、ずっと放置しておくのですか? 幸いにもお二人は春休みの最中であり、行方不明者届などもまだ出ていません。戻るなら今しかないですよ』


 ――間違いなくその通りだ。

 戻るなら今しかないだろう。

 ただりえに僕のせいで辛い思いはさせたくはない。


『りえさん。余計なお世話かもしれませんがアドバイスをしましょう。何も家に帰る必要はないのですよ。葵さんの家に居候させてもらったっていいんですよ』


 ――確かにそれは良い案かも知れない。

 りえはあの家に帰りたくないようだし、無理に帰る必要もない。

 内に居候するのは名案かもしれない。


「え……でも、流石に迷惑になるんじゃ……」

「いや、別に大丈夫だろ。うち母親と二人暮らしなんだけど、今、母親入院中でほとんど一人暮らしみたいなもんだし、来たいなら全然歓迎するけど」


 ――そう。

 それが僕が帰らなくてはならない要因なのだ。

 異世界に来た時点で、僕は一回死んだと思っている。

 だからこそ、母親のことが心配ではあるものの今の自分を優先させようと思っていた。

 あのお母さんはいつも、私のことより自分のことを優先させなさいと言っていた。

 だからこそ、表向きにはその気持ちを出さないように心がけていたが、本当に心配だった。

 僕がこっちにいる間、病院に顔を出せなかったし、同化したのではないかと心配をかけているかも知れない。

 早く顔を見せてやるとしよう。


「え? 葵ってそんな感じだったの? ……まぁ、そう言ってくれるとうれしいけど……。でも兄妹でもないのに一緒に暮らすとか普通に考えてダメじゃない? 」

「いや、今とそう変わらなくね? 」

「え? 」

「だって今だって同じ部屋で生活してるし、あんま変わらなくない? 」

「た、確かにそうだけど……」


 ――どうやらりえは悩んでいるようだ。

 僕としてはりえと一緒にもとの世界に一度戻りたい。

 戻るのならば、僕の家で一緒に過ごすのが一番だろう。

 うーん。あとなにかきっかけさえあれば、落とせるような気がするのだが……。

 よし! この作戦でいこう!


「迷ってるようだし、僕から頼む。一緒に住もうよ。一人じゃ、さみしいわ」

「――ふふっ。そう? そういうことなら、居候。させてもらおうかな。それじゃあ、葵。さっさと例の魔法を使えるようになっちゃって」


 ――は!

 完全に忘れていた。

 もう使えるような気がしてしまっていたが、そういえば使えるようになるために今から練習を始めるのだった。

 やっとゴールしたと思ったのに、まだスタート地点に立っただけか……。

 いや、スタート地点に立てたのだ。

 それを喜ばしく思おう。




「うわぁぁぁ! え!?……もしかしてここって!? 」

「見たことがない景色です……」

「よっし! できた! やっと、やっと。ただいま! 我が家! 」


 ――僕は女神様に教えてもらった後、練習を重ね、もとの世界に帰還することにせいこうするのだった。


読んでいただきありがとうございます!

今回で第一章の完結となります。

物語はここからが本番です。引き続きお楽しみください。

明日からは二日に一話の投稿となります。

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