20話 (自称)かみちゃま、ガイアちゃまだぞ♪(りえ視点)
[速水りえ 視点]
「――あたちの可愛い子供達、ころちたのって……あんたたちぃ? 」
茶色の長い髪を風になびかせる幼稚園児のような見た目をした少女は、私たちに見た目に合わないきつい口調でそう尋ねてきた。
少女のその言葉からは尋常ではないほどの怒りの感情が感じられる。
おそらく少女の子供たちとやらが殺されたことに怒っているのだろう。
この少女は私たちが子供たちとやらを殺した犯人だと思い込んでいるようだけど、人間を、それも赤ちゃんを殺したことなんてないに決まっているので、私たちではない。
――まったく関係ない話にはなってしまうけど……よくその年で子供を産んだわね。
どう見ても私やエマよりずっと年下だ。
おそらく五、六歳くらいで、もとの世界で言えば幼稚園か小学校一年生くらいだろう。
……いくらなんでも早すぎではないだろうか。
いや、ここは現世と比べものにならない危険がいっぱいの異世界だ。
子作りがもとの世界よりちょっと、いや大分早くなっているのかも知れない。
いや、人間の体の仕組みからして早すぎな気もするけど……。
……ん? ちょっと待って。
もしかしてエマって……!
「――ね、ねぇ!? エ、エマって……こ、子作りとかしちゃってるの? 」
「い、いきなりなんですか!!! し、していませんよ、そんなもの。まだ、私、14歳ですよ。それに、まだ私、誰かとお付き合いしたことすらないですし!!! いきなりどうしちゃったんですか!? 」
ふー。よかった、よかった。仲間がいた。
てっきりこの世界は五、六歳で結婚して子作りを始めるのが当たり前なのかと思ってしまった。
生まれてから付き合ったことすらない私は、もうすでに置いてけぼりになっているのではないかと慌ててしまった。
エマがこういうということは、この少女が異常すぎるのだろうか。
「――ねぇねぇ、エマ。この世界で結婚するのって何歳くらいが平均なの? 」
「――うーん。そうですね。結婚は十六歳から可能ですが大体の人は十八歳から二十三歳くらいの間でしますかね……ってどうしてそんなことを? それに今は目の前の存在に集中してください」
もとの世界と比べれば少し早めな気もするがほとんど一緒と言って良いレベルだろう。
ということはあの少女が異常すぎるのだろう。
考えられるパターンとすれば、波瀾万丈な人生を送ってきたか、見た目が若いだけで実はそれなりの年齢であること、それと幼稚園児とかがするおままごとみたいな話をしているのかの三つのパターンだろう。
さて、どのパターンが正しいだろうか?
「――ねぇ? アンタたちさ、もうちょっと一般常識、覚えたら? こっちが聞いてるのに、無視ちて仲良くえろとーく始めちゃってさ。それに一人は、剣に手をかけながら怖い目つきでにらんでくるち、一人は寝ている彼氏をだきちめていちゃいちゃあぴーるちてくるし……恥ずかちいと思わないわけ? 」
エ、エロトーク!?
確かに子作りがどうとか言ってたけどエロトークというほどではないでしょ!
……たぶん。
基準が分かんないのでなんとも言えないけど……。
――それにこれは決してイチャイチャアピールしているわけではない。
葵が私の方に倒れてきたのでこうなったのだ。
しょうがない。しょうがないのだ。
……あぁ!言い訳をしたいけど、言い訳をするとどっかのだれかさんに『言い訳っていいわけ?』と煽られしまうのでもうしないと決めたのだ。
ここは言い訳をせず、ちゃんと聞かれていたことに答えてあげるとしよう。
「あなたの子供たちを殺したのは私たちじゃないわ。人違いよ」
「――」
きっぱりと言ってやった。
エマも同調して何か言ってくれると思ったのだけど、ただ静かに少女を見つめている。
いや、この表情はにらんでいるという表現が適切だろう。
一体どうしたのだろうか。
「――はぁ!? なにゆちゃってるの? ばればれなのよ。あんたたちのうそなんて。……っていうかうちょなんてよくつけたね。こんなちょうこだらけのこのばちょで! 」
「しょ、証拠って何よ?」
「いや、あたちの後ろに、可愛いそうなあたちの子供達の変わり果てた姿があるじゃない」
かわいそうな子供達の変わり果てた姿?
一体何のことだろうか。
少女の後ろにあるのは先ほど倒した鬼の軍勢の残骸だ。
……もしかして、この鬼の軍勢がこの少女の子供たちということなのだろうか。
「それにあんたたち、おにたちだけじゃなくて、あたしのかわいい、ごーれむやでゅらはん、きつねちゃんたちもたおちたわね。許ちゃないの。ゆるちゃないのよ。……覚悟ちなちゃい! 」
――確定だ。
今までエマと倒してきた敵を全員言い当てられた。
おそらく、全員がこの少女によって生み出された存在だったのだろう。
そして、それだから子供たちと表現したのだろう。
点と線がつながった。
……ん? ちょっと待って?
何かが忘れられているような……。
あともう一体倒した敵がいたような気がするのだけど……。
私にも生みの親のこの少女にも忘れられてしまうとは可愛いそうであるがしょうがない。
――ッキン!!!
「――ッ! 」
「――物騒なのは、あなたの方ではないのですか?」
いつの間にか刀を鞘から出したエマが私の前に立っていた。
「――ふーん。今のを受け流すなんてなかなかの実力じゃない。あたちもこの世界じゃ、力のほんの少ししか使えないち。 ……あ! これは逆にチャンスかな!? この世界で戦うことなんてめったにないち、少しは体をならしておきたちね! いいねぇ。それじゃあ、戦う前の礼儀ってことで名乗ってあげる」
うっわ。
見事なまでの自己完結である。
ここまで独り言が激しい人を見たのはなんだかんだ言って初めてかも知れない。
そりゃぁ、学校にはいろんな人がいるから独り言が凄い人もいるけどここまでひどいのはなかなかいない。
このレベルになるとちょっと怖い。
「――ふふーん! あたちは創造神、原初たる神カオスちゃまの忠実なる始まりの五大神が一柱、大地のガイアちゃま、その人だぞ♪ 」
少女改めガイアは、私よりもない胸を張りながらそう名乗った。
五大神とはなんとも強そうな二つ名である。
一体どういう意味なのだろうか。
「――ガ、ガイア……。ま、まさかあの、五大悪神の一柱、大地のガイアですか? 」
五大悪神とは何だろうか。
さっきガイアは五大神と名乗っていたが、五大悪神とは、似ているだけで全く違う存在なのだろうか?
「――五大悪神かぁ……。たしか……カオスちゃまが封印ちゃれちゃってからは、あいつらが暴走しちゃって、そんな風に呼ばれるようになっちゃったんだっけ? あんまり昔のことは覚えてないのからなぁ……。まぁ、でも、たぶんあんたの言う五大悪神のガイアはわたちのことだと思うわよ」
――うーん。
全く話しについて行けない。
結局のところ五大悪神は世間が付けた二つ名なので正直よく分からないと言うことなのだろうか。
話が難しすぎて、全くついて行けない。
「――五大悪神。正直、私ごときではとても勝てる相手とは思えませんね。むしろ、先ほどの一発すら防げたのが不思議なくらいです」
「だーかーらー。さっきも言ったけどこの世界だと、いつもの力の十分の一くらいしか出ちぇないの。まったく話聞いてないのね、あんた。それよりはやく戦いまちょうよ」
いや。
さっきの長い自己完結の独り言の内容をしっかりと聞いているような人などいないだろう。
よく聞いてなかったエマが普通だ。
「それが唯一の救いですね。リエ、アオイ君は任せましたよ! 」
「任せて!」
あえてそれをもう一度言ってきたと言うことは状況を見て、葵を連れここから離脱しろということだろう。
……はぁ。そんなこと、私がするわけないじゃない。
エマもまだまだ私のことを分かっていないわね。
「準備まだー? 早くしなさいよ」
「大丈夫ですよ。五大神が一柱、ガイア様! 」
「お!? いいねぇー。五大悪神より五大神の方が好きなのよねー。わかってるじゃない。じゃあ、先手は譲ってあげるから、どこからでもかかってきなさい! 」
「ありがとうございます。それでは行きますよ! 調和の大春車斬!!! 」」
私は、エマとガイアの戦闘が始まったのを見届けると、葵を抱きかかえたまま少し離れたところまでやってきた。
抱きかかえたままといってもハグしたままではとても動けないのでお姫様抱っこのような格好でだ。
――本当は逆がよかったけど、この際文句は言ってられない。
私は、エマとガイアとの戦闘場所から数十メートル離れたところまでくると止まり、近くにあった木の幹に葵をもたれかけさせた。
本当は私がゼロ距離で守ってあげたいのだけど、そうも言ってられない状況なのでしょうがない。
今、ここからでは戦闘の様子は見れないのでなんとも言えないけど、戦闘の音が聞こえると言うことはまだ継続中なのだろう。
……さっきのエマの反応が気になる。
五大神や五大悪神という存在はいったいどのようなものなのだろうか。
エマはとてつもなく強い。
一部の技は真似できている私でも、おそらく足下にすら及ばない。
そんなエマが五大悪神と聞いたとき、顔をしかめた。
一瞬のことだったけど、私が決断するには十分な時間だった。
――あの顔は負けを想定している。
自らが犠牲となって時間稼ぎをし、私達を逃がす作戦なのだろう。
しかし、私はそれを許さない。
――なぜなら……帰り方が分からないからだ。
まぁ、それは半分冗談で半分本気なのだが、一番の理由はもちろんエマを捨てるなんてことできないからだ。
葵を確定で救えるのならそれも辞さなかったかも知れない。
とは言ってもそれはタラレバの話だ。
そんなわけで、唯一の葵を救う方法がガイアをなんとかすることだけになったので、こうして葵を木の幹に預けることにしたのだ。
「またね、葵」
私はしゃがんで、木の幹にもたれかかって座っている葵と同じ背丈になると、葵の頬に手を当て、葵のぬくもりを感じながらそう笑いかけた。
――勇気をもらった。
――いける気がしてきた。
――葵がここにいる。
私は『絶対に私があなたを守り抜いてみせる』と葵に誓った。
――私が守ってあげなくちゃ。これまでも、これからも。
私、速水りえがあなたを、立花葵を守り抜いてみせる!
それに……。
「――葵……。少しくらい、私にも恩を返させてね」
――私はずっとため込んでいたことを口にすると、一度も振り返ることなくエマのもとへ全力で向かった。
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