01話 心に誓って!
初めての連載となります。
よろしくお願いします。
僕の名前は立花葵。高校入試の目前となる三年生にあと少しでなるごくごく普通の中学生である。
そんな僕は今、何をしてるかというと、
「春休みまで学校の“雑務”とかクッソだる! さっさと家帰ってゲームしたいんだけど! 」
春休みであるのにもかかわらず学校に登校させられ、“雑務”をやらされていた。まさに学校の奴隷である。
“雑務”とは生徒会の仕事のことだ。ごくごく普通な僕だが、いろいろあり、現在は生徒会に所属しているのだ。
「うるさいわね! 全く仕事してないクセに愚痴ばっかり言って。こっちまで嫌な気分になるじゃない。あと、何度も言ってるけど、これは“雑務”じゃなくて“書類仕事”! っていうかそんなに早く帰りたいんだったら仕事、ちょっとぐらい手伝いなさいよ! 」
こいつは速水りえ。生徒会副会長である。
性格は……一言で表すならば『真面目』だろう。まあ、抜けてるとこも多いんだけど……
「それは遠慮します」
食い気味で、丁重にお断りした。
当たり前だ。いくら早く帰りたいからと言って、自分から“雑務”をするバカがどこにいるというものだ。
『――僕を……僕たちを……あなたの世界に……!』
ん? なんだ? 耳鳴りだろうか? 変な声が聞こえた気がした。
いや、これは自分の声だろうか。いや、どうせ耳鳴りだろうし、どうでも良いか。
「っていうか、僕までいる必要あんの?」
「当たり前じゃん! そもそも、この仕事は生徒会長である葵の仕事でしょ。あくまで、私はそれを手伝っているのであって、本来はあなたの仕事なのよ。あ、な、た、の! 自分の仕事を人にやってもらっているのにも関わらず、自分だけ休みを満喫とかありえないから。そんなことより早く手伝ってよ」
それもそうだ。
確かに僕は、いろいろあって現在、生徒会長をしている。そして、今回の“雑務”は各委員会の活動報告の承認である。
活動報告の書類に目を通し『生徒会長 立花葵』と刻まれた、はんこを押していくというとても単純で何の面白みもない“雑務”である。
しかし、生徒会長がするべき“雑務”なのは間違いない。まぁとはいっても、僕は、楽をして楽しく生きていきたいのだ。
できるだけ仕事をせずに、さっさと家に帰り休みを満喫する。
それが今の僕の目標である。春休みに入ったばかりとはいえ、春休みは始まった頃にはもう終わりのカウントダウンが始まっているのだ。しっかりと楽しまなくてはなるまい。
『――あなたの力となり、この恩を……! 』
ん? まただ。また、さっきみたいな耳鳴りだ。本当になんなのだろうか。
まぁ、そんなことはどうでも良い。僕はとにかく帰りたいのだ。
「ねぇ、勝手に帰ったら先生に怒られると思う? 」
「さあ? 先生がおこるかどうかはわかんないけど、私は間違いなく怒るよ」
はぁ……。どうすれば、仕事をせずにさっさと帰られるのだろうか……。
「いい加減! ……手伝いなさい! 」
「ひぃぃぃ!!! 」
思わず情けない声が出てしまった。
そろそろ本格的にりえを怒らせそうだ。しょうがない……。りえをからかうのは、これくらいにして、僕も“雑務”をやるとするか。
「はぁ。やっと、終わったぁ」
あれから、約一時間。やっと終わり、今は帰り道が同じなのでりえと二人で下校している。
時刻は十八時をまわっており、あたりはすでに真っ暗である。春休みだというのにほぼ一日拘束されるなど、本当に学校の奴隷だ。
「それ、あんたが口にするセリフじゃないでしょ! ほとんど手伝ってくれなかったクセに」
りえが不思議なことを言いだした。あれから心を入れ替えて、ちゃんと『ガンバレ! 』って応援してあげてたというのに……。
それにしても、さっきの仕事をもって春休み中の生徒会の仕事は終了になったのだ。これで、これからは春休みを満喫できる。ガチでうれしすぎる。
「――ねぇねぇ、なんか今日、やけに静かじゃない? 」
ふむ。言われてみると、確かに静かに感じる。
とはいっても、ここは人がわらわら往来するような都会ではない。
かと言って、ド田舎というわけでもないので多少は車通りもあり、帰宅ラッシュに近い時間でもあるのでいつもはそこそこにぎやかではあるのだが……。
まぁ、こうやって静かに感じることもあるだろう。
「――けた。見つけた。カギィ! 」
その奇妙な声に思わず振り向くと、漆黒のドレスを身にまとった気味の悪い長身の女性が十メートルほど後ろにたたずんでいた。
どのような顔をしているのかは暗くてよく見えない。ただわかるのは、その存在が“不気味”であることだけだ。
「うゎ。ヤバあの人。急に発狂し出すとか、警察に職務質問されても文句言えないレベルでしょ。葵、あの不審者から急いで離れよ」
りえが耳元でささやいた。
あまりの気味の悪さから僕は一瞬、フリーズしてしまっていたようだ。
僕は静かにうなずき、早歩きでりえとともにその場から離れようとした。
「カギ、カギ、カギ……を……持っていくな! 」
先ほど聞いたばかりの奇妙な叫び声に驚き、後ろを振り返るとその場にはすでに誰もいなかった。
ドサッ・・・・・・!
右のほうから何かが倒れる音が聞こえた。
音の聞こえた方向を振り向こうとした時、体の異変に気が付いた。
――か……体が…動かねぇ
その後すぐに、全身の力が抜けていくのを感じ、倒れた。
「――ギ――った! 」
聞き覚えのある奇妙な声が聞こえる。何を言っているのだろうか……まったく聞き取れない。
意識がもうろうとしていくのを感じる。
どうしてだろう……いや決まっているな。
この奇妙な状態はおそらくあの気味の悪い女性によるものだろう。
――あの奇妙な声の女は、一体何者なんだ?
奴は何がしたいんだ?
なんで体に力が入らないんだ?
隣にいたりえは大丈夫だろうか?
意味不明なことが起こりすぎて、頭が追い付かない。
ここは冷静に、一つずつ分析していくべきだ。そう頭では分かっていても、脳がいうことを聞かない。
それに加えて、だんだんと眠くなってきた。もう一つのことしか考えられない。
――あぁ、このまま死ぬんだと。
おもえば、短い人生だった。
こんな早く死ぬんだったら、もっとやりたい放題しとけばよかった……。
『許しません! こんなところで死ぬなどあってはなりません! 』
もうろうとしていく意識の中で、今までに聞いたことのないほど美しい女神様のような声が聞こえた。そんな気がした。
「――なたさ――は」
『無秩序の治癒』
――なんだろう、そのかっこいい言葉は。まるで異世界ファンタジーのようだ。
思い返せば、子供のころは多くの夢を抱いていた。いや、過去形ではなく、現在進行形かもしれない。子供の頃からの夢は今も色褪せることなく抱いている。
勇者になって世界を救うこと、魔王となって全世界を支配することなどなど……。
今思えば、一つも達成することはなかった。
まぁ、異世界にでも行って、完璧な最強主人公にでもなければこんな夢をかなえるなんて無理なんだろうけど……
「――にを」
さっきまで、猛烈な眠気に襲われていたというのに、だんだんと意識がはっきりしてきた。
おそらく、さきほど、女神様のような声の持ち主にかけていただいた無秩序の治癒とかいう魔法の効果なのだろう。
――ってなんでこの状況に、僕は適応できているのだろうか。本当に意味が分からない。
アニヲタである僕からすれば、この展開はあるあるなのだが、普通に考えればあり得ないだろ!
……いや、この際どうでもいいか。流されよう。流されてしまおう。
今の僕はアニメの世界の登場人物だ。そういうことにしておこう。
『大丈夫……ではないですよね。今無秩序の治癒を使い、“お二人”の傷は治したので、このまま死んでしまうということはないと思います。ただ……』
………………。まさか、“お二人”ってことは……!
いや、正直うすうすは分かっていた。でも気がつかないふりをしていた。できるだけ他のことを考えるようにしていた。それを認めたくなかった。
女神様は“お二人”といった。僕はどうなったて良い。常に明日死んだとしても悔いが残らないようにと生きてきたのだから……。
――死にたくはない。死にたくない……。
でも、りえを救えるのならこの命を捨てたって構わない。りえを救いたい……。
あっ! やっと理解した。これはきっと夢なのだ。こんなのはアニメの世界でしかありえない。夢だったのだ。そうすればすべてに合点がいく。
そうだ。そうだったのだ。よくよく考えれば当たり前だ。魔法なんて普通の現実世界ではありえない。こんなにあっさりと殺されかけるなんてありえないのだ。
うん。うん。これは悪夢に違いない。
『私に残された時間は短いようです。このまま私が消えてしまえば、またあなたたちは……』
意識がはっきりとしてきた僕は目を開けようと試みた。
……開いた。
僕はどうやらうつ伏せになっていたようだ。
僕はどうにか右に向いた。
そうして振り向いた先には、僕の視界の先には大量の深紅の血を流したりえがいた。
――涙すら出ない。
これは夢なんかじゃない。そう理解した。いや、してしまった。こんな出来の悪い悪夢など存在するはずがない。
――これは現実なのだ……。
――涙が止まらない。
体が動かないから? 恐怖が頭を支配しているから? 悲しさが限界を超えたから?それとも、自分に嘘をついてるから? 自分のくだらないキャラをこんな時でも維持しようと馬鹿げたことをしているから?
――心配する言葉すら出ない。
口が動かないから? 外に流れる予定だった水色の玉で頭のなかがいっぱいだから? りえよりも自分のことの方が内心では心配だから?
――あぁ、どうして泣けないんだろう。
どうして心配する言葉すら言えないのだろう。今の僕にはそんなことさえ許されていないのだろうか。
『だから! あなたたちに二つの選択肢を渡します。このまま悪神と化したニュクスに殺されるか、私の世界に一緒に行くか、です。さあ、私に残された時間は、残りわずかです。急いで、どちらかお選びください 』
えっ?
なんだそれ。そんな都合のいいことあるわけない。そう頭の中では分かっている。
しかし、この声には不思議と説得力がある。
それもそうか。先程、謎の力でこの声の主たる女神様に助けられたばかりなのだ。
だとすれば、本当に……!?
ならば、答えは決まっている。
どうやらこの世界は出来の悪い悪夢ではなかったらしい。出来の良い悪夢でもない、いい夢でもない。これは、奇跡という言葉が存在する、この現実だ。
りえを救いたい。りえの笑顔をもう一度見たい。女神様が言っていることの意味は分からない。
でも一つ確かなのは、このままここにいれば死ぬ運命しかないことだけだ。
しかし、女神様の世界に行けば助かるという保証があるわけでもない。選択肢をくださったということは、諦めて死を受け入れるのも一つの答えだと言うことだろう。
でも、僕はりえを救いたい。だから僕は現実にしかない奇跡というものにかけると決めた。
――僕を……僕たちを……あなたの世界に連れて行ってください!
声を出そうとしたが、口が開かない。
絶対に伝わらないだろうと思いつつも、一縷の望みにかけて、心の底から声にならない声をあげた。
『分かりました。それがあなたたちの選択ならば、一緒につれて行かせていただきます! 』
伝わってくれたようだ。……よかったぁ。
そして、今僕は……
――あなたの力となり、この恩を必ず返してみせる
そう、僕は強く心に誓った。
『――ただ。その代わりに、……あなた方二人に……お願い……したいことが……あります……』
お願いしたいこと? 任せてください!
――あなたの願いならば僕はどんなことだってやり遂げて見せる。
僕に希望を与えてくれたから。自分の命を守れる希望を。大切な人をもう一度会える希望を。
あなたの力となり、この恩を必ず返してみせると決意したから。
僕は、楽をして楽しく生きていきたいと思う人間だ。……だけど。 恩に報いたい! その気持ちはだれよりも強い!
あなたの力になりたい! だから!
『――いえ。変なことを言ってしまいましたね。……あなたを私の望みに付き合わせるわけにはいきません。どうか、忘れてください……。あなた方が永遠に。笑顔でいられることを、心から願っています。それでは……。……無秩序の世界』
ま、待って! 僕はあなたの望みに付き合いたいんです。付き合わせてほしいんです。
恩を返したい……。あなたに……。ただ……それだけ……なん……で……す……。
――気づくと、意識は虚無の世界に呑み込まれていた。
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今日中にあと2話アップ予定です。
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