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【一般】現代恋愛短編集

お兄ちゃんだから我慢してたけれど、我儘を言っても良いようです

作者: マノイ

 高校二年のゴールデンウィーク少し前の平日。

 その日もいつもと同じような平凡な目覚めだった。


「ふわぁあ」


 眠気眼のまま階下に降りて洗面所で顔を洗っていると、ドタバタと階段を慌ただしく降りてくる音が聞こえた。


「カズ(にい)邪魔」

「おはよう、すぐ退くよ」


 妹の心猫(ここね)に追い出されるのが分かっていたため高速で準備完了済みだ。

 中学二年になり思春期真っ盛りな心猫は、最近俺を邪険にしてくることが多いけれど多少ツンケンしている程度で普通に話をしてくれるので特に気にしていない。


 寝起きの姿をじっと見ていると怒られるので、そうなる前にリビングへと避難する。

 すると途中で階段から降りて来た弟にぶつかってしまった。


「おっと悪い。おはよう、狼樹ろうき

「……はよ」


 まだ眠いからなのか機嫌が悪そうにしているものの、少しでも挨拶を返してくれるのが心猫との違いだな。

 狼樹は心猫の双子の兄で、もちろん同じ中学二年生。こちらも思春期真っただ中にも関わらず大きな反抗も無くスクスクと成長している。

 双子だけれど顔が少し似ているだけの普通の兄妹かなというのが俺の感覚だ。


「ちょっと来ないでよ!」

「いつまで使ってるんだよ!」


 背後で毎朝恒例の言い合いをしているのをBGMにリビングに入ると、朝食の準備をしている母さんと父さんの姿があった。


「おはよう」

「おはよう一翔(かずと)

「おはよう一翔」


 食卓にはもうほとんど料理が並べられていたので手伝うことも無さそうだ。

 そのまま自分の席に座って全員が揃うのを待つ。


 我が家のルールとしてなるべく家族全員で揃ってご飯を食べるというものがあるから、先に食べてしまうなんてことは無い。狼樹と心猫なんかは待てなくて先に食べちゃうことがあるけれど、それはそれで可愛らしいものだ。


 そのまましばらく待っていると狼樹と心猫がやってきて全員が揃い、いただきますを合図にご飯を食べ始める。


 これが俺の家、金森(かなもり)家の毎朝の風景だ。


 そしてこの食卓は静けさに満ちているなんてことはなく、話好きの母さんの力により何らかの話をしながら進んで行く。


「誕生日に何が食べたい?」


 俺達兄妹の誕生日は全員がゴールデンウィーク中にある。

 だから誕生日パーティー的なものも毎年休みの間にまとめて実施している。


「あたし高い寿司」

「俺はピザ」


 心猫と狼樹は毎年違う料理をリクエストしているけれど、今年は寿司とピザか。


「一翔は?」

「寿司とピザなら俺もそれで良いよ」


 ケーキも用意してくれるし、お祝いならそれで十分だろう。

 それに狼樹(おとうと)心猫(いもうと)が喜ぶならそれで十分さ。


 だって俺はお兄ちゃんだからな。


「そうだ誕生日で思い出した」


 そう話に割って入ったのは父さんだ。


「誕生日とは関係無いんだが、会社の人からサッカーのチケットを貰ってな。行きたい人いるか?」


 プレゼント繋がりで思い出したのかな。

 地元にサッカーチームがあるから、時々こうしてチケットが手に入ることがあるんだ。


「それってどの試合のやつ?」

「次の土曜日の試合だったかな」


 確か対戦相手に凄い有名選手がいる試合だったような気がする。

 クラスのサッカー好きの男子がそれで盛り上がってた覚えがある。


「俺行く」

「おお、そうか。狼樹はサッカー好きだもんな」


 そりゃあ小さい頃に父さんがあんなに試合に連れて行ったら興味持つだろうさ。


「心猫と一翔はどうする?」

「俺は別に良いや」

「あたしも~」


 余ってたら行こうかなとは思うけれど、父さんが貰ってくるチケットはいつも二枚だから別に良いや。父さんと狼樹で楽しんで来てくれ。


「それじゃあチケットは後で渡すとして当日は……おっとゆっくりしている時間は無いか、話は後でな」


 休日とか夕飯時ならたっぷり話をする時間があるけれど、朝はそうはいかない。

 話をしながらもテキパキと食べて食事を終え、俺達一家は学校や会社に向かって家を出た。


――――――――


「カラオケの割引チケット欲しい人!」


 学校に行くと、クラスメイトの男子が割引チケットを配ってた。

 朝の父さんのサッカーチケットと言い、今日はチケットデーなのだろうか。


 うちのクラスはイベント好きな人が多くて、カラオケに誘われる機会もそれなりに多い。


「金森はどうする?」

「え、俺の分もあるの?」


 近くに居たからか名指しで聞かれてしまった。

 かなりの人が手を上げてたから無いと思ってたんだが。


「おっとそうだった。いち、に、さん……あ、たりねぇ!」

「え~!」

「そりゃないぜ!」

「最初に枚数言えよな!」


 どうやら需要に対して供給がかなり足りてなかったらしい。

 手を挙げたクラスメイトからのブーイングが凄い。

 本気で怒ってるわけじゃなくて、こいつの普段の扱いがこんな感じなのだ。


「んじゃ、俺は良いよ。欲しい人にあげろって」

「悪いな」


 誘われたら行く程度で自分からカラオケに行くことは無いから別に良いだろう。

 欲しい人が貰えるのが一番だ。


 俺も、こいつも、他のクラスメイトもそれで問題が無いはずだった。


 だが……


「どうしてそこで退いちゃうの?」


 俺の遠慮を良しとしない人物が居た。


瀬川(せがわ)さん、また?」


 瀬川(せがわ) 莉子(りこ)

 美人で可愛くて巨乳という男子の夢が詰まったかのような女子で、今年からクラスメイトになった。瀬川さんとは中学も一緒で存在は知っていたが、一緒になるのは今年が初めてだった。面識も全く無く、これからも話す機会などほとんど無い雲の上の存在だろうと思っていたのだが、どういうわけか何のきっかけも無いのに俺に食ってかかってきたのだ。


 まだ四月だというのに、これで三回目だ。


「遠慮しないで争奪戦に参加しなよ」

「別にどうしても欲しい訳じゃないから良いよ」

「どうしてもじゃなければ欲しいってことだよね」

「揚げ足取るなって。本当に要らないんだって」


 何故か彼女は俺が欲しがらないのが気に入らないらしい。

 争奪戦に参加してない奴なんて俺以外にもいるだろうに、どうして俺にだけ絡んでくるんだ。


「じゃあ金森君が欲しい物って何?」

「なんでそんなこと聞くんだよ」

「良いから教えて」

「…………とくに思いつかない」


 別に隠している訳じゃないぞ。


「普通は欲しい物の一つや二つあるよね」

「いやいや、急に言われても出てこない奴の方が多いだろ」

「じゃあ時間あげる。いーち、にー」

「それ急かしてるだろ!?」


 やっぱり俺は揶揄われているのだろうか。


「じゃあ金森君の趣味は?」

「だからなんでそんなこと聞くんだよ」

「趣味があれば欲しい物って思い浮かびやすいでしょ」


 あくまでも俺が欲しい物を知りたいのか。

 プレゼントでもしてくれるのかな。でもそれはそれでほぼ他人が突然プレゼントを寄こして来るのは怖いぞ。


「特に無い。強いてあげるなら漫画とかかな?」

「やっぱり変」

「いやいや、それこそ変じゃないだろ。世の中の趣味が無い奴に謝れ」

「……それもそうね。ごめんなさい」


 そこは素直に退くのか。


「本当に何なんだって。どうして俺の欲しい物がそんなに気になるんだよ」

「…………」


 勘違いされそうだが、瀬川さんは決して気難しいタイプじゃない。

 普段は明るくて誰ともすぐに仲良く出来る快活な女の子だ。


 だがどうしてか俺が相手だとこんな風に顔が強張って詰問するかのような雰囲気になってしまうんだ。

 俺としては普段の感じで接してくれた方が気が楽で助かるのだが。


「決めた。それじゃあ私が金森君の欲しい物をプレゼントしてあげる」

「え?」


 マジでプレゼントの流れになるのか。

 本気で怖いんだが。


 でも俺が欲しい物を言わなければそれも無いよな。


「勝手に押し付けるから覚悟してね」

「やめて!?」


 俺の制止もむなしく、瀬川さんは席に戻ってしまった。


 気付けばさっきまでチケット争奪戦で盛り上がっていたクラスメイト達が、俺らの奇妙な会話を不思議そうに観察していた。解散しろ。


――――――――


 覚悟しろと宣戦布告? してきた瀬川さんが何もしてこなかったことに安堵したのも束の間、ゴールデンウィークに入る前日にそれは起こった。


「ふわぁあ」


 春の陽気に誘われて思わずあくびが出てしまった休み時間のこと。


「金森君、眠いの?」

「……暖かいからつい」


 瀬川さんが話しかけて来たからつい警戒してしまったけれど、失礼かと思い普通に対応した。

 だがそれが大失敗だった。

 俺は警戒を解かずに誤魔化してさっさと寝るべきだったのだ。


「じゃあ少し寝ようよ。はい」

「え?」


 瀬川さんは空いている隣の席に座って手を広げて『はい』と言って来たのだが、意味が全く分からない。そうして困って硬直していたら、彼女は広げた手で俺の顔を挟み、強引に引っ張った。


「うわ、何だ。止めろって!」


 彼女の力は結構強く、振りほどけずに俺の顔はとある場所へと移動させられてしまった。


「まてまてまて、何してんだよ!」

「何って膝枕?」


 俺の顔は彼女の太腿の上に乗せられていたのだ。


「冗談は止めろって!」


 すぐに体を起こそうとするものの、彼女はなんとも悪辣なる手段でそれを防ぎやがった。


「動くと危ないよ」

「うっ……ま、まさかこの感触は」


 彼女が俺の耳に何かを突っ込む感触を感じ、俺は動けなくなってしまったのだ。


「はい耳掃除しましょうね~」

「ひひゃっ!」

「くすくす、かわいい」


 耳の中をゴソゴソされる感触がくすぐったくて思わず変な声が出ちまった。


「あれ、結構綺麗なんだね。おっきいのが取れた~ってやりたかったのに」


 そりゃあ毎日ちゃんと掃除してるからな。

 じゃなくて。


「マジで止めろって」

「じゃあ反対側をやるね」

「ほんと勘弁してくれ」

「そんなこと言って嬉しいくせに」

「腰が痛いんだよ!」

「あ」


 椅子に座っている状態から強引に横倒しにさせられているから、腰が宙に浮いて負荷がヤバい事になってる。


「ごめんごめん」

「ってて……」


 ようやく解放された。

 全く何だったんだ。


「いきなりマジで何なんだよ」

「だって可愛い女の子の膝枕って嬉しいでしょ」

「自分で可愛いって言うな。それに恥ずかしいだけだ」

「え~そうかな。ねぇねぇ、私に膝枕されたら嬉しいよね?」

「え、ぼ、ボク!?」


 周囲で唖然としていたクラスメイトの男子にいきなり話を振りやがった。


「いや恥ずかしいだろ。な?な?」

「う、うん……」

「ほらみろ」

「でも嬉しいよね」

「…………うん」

「ほらぁ。喜ばない男子なんていませーん。ということでほらほらどうぞ」


 瀬川さんの言ってた欲しい物の押し付けってこういうことだったのか。

 マジで迷惑なやつじゃねーか!


 そりゃあ健全な男子なら嬉しい奴の方が多いかもしれないけれど……


「もう放って置いてくれ……」

「どこ行くの?」

「ト・イ・レだ。ついてくるな」

「じゃあ手伝ってあげる」

「おい」

「冗談冗談。それじゃあ今度は昼休みね」


 まだ何かあるのかよ。

 本当に何がどうなってるんだ。


「あ~ん」


 だから何がどうなってるんだよ!!!!


「なぁ、こういうのは本当に止めてくれよ」

「あ~ん」

「俺は静かにご飯を食べたいんだ」

「あ~ん」

「別に欲しい物無くても良いだろ」

「あ~ん」

「恥ずかしいだけだからやむぐっ!」


 こいつ無理矢理押し込みやがった。


 もぐもぐ、案外悪くないな。


 じゃなくて。


「マジで、勘弁、してくれ」

「はいあ~ん」

「なぁ、俺が本気で喜んでいるように見えるか?」

「見えない」

「なら止めろって!」

「でも面白いからあ~ん」

「なるほど、さては瀬川さん性格わるむぐっ!」

「酷い事いうから止めてあげない」

「ぐうっ……」


 やっぱり性格悪いじゃないか。

 こうなったらご飯終わりにしてトイレにでも逃げ込んでやる。


「ね、ねぇ瀬川さんって金森君のことが好きなの?」


 逃走の算段を立てていたら、クラスメイト女子が瀬川さんに質問して来た。

 そりゃあ膝枕したりご飯を食べさせようとしてればそう思っても不思議ではないだろう。


「ううん」


 知ってた。

 甘やかしてはくれるが雰囲気は決して甘くはない。

 むしろ母親を演じているかのような感じに近いし、クラスメイトにもそう見えていたはずだ。




「でも金森君が本気で(・・・)私が欲しいって思うなら良いよ」




 ただでさえ分からない瀬川さんの気持ちが更に分からなくなった。

 ただ一つ言えることは、その条件を満たすことは現時点ではあり得ないということだろう。


 だからそんな目でこっちを見るな男子どもめ。


――――――――


「金森君、一緒に帰ろう」


 その日の放課後、瀬川さんはまた俺に構おうとしてきた。

 これを耐えればゴールデンウィークなのでしばらくは解放されるけれど、流石に疲れ果てたので本気で止めて欲しいと強くお願いすることにした。


「なぁ瀬川さん……」

「なんて冗談。今日は困らせてごめんなさい」

「え?」


 だがその前に彼女は今日のことを謝って来て拍子抜けしてしまった。


「これからはもう変なことしないから。本当にごめんなさい」

「あ、ああ、それなら良いんだが……」


 彼女の行動の理由が分からないので釈然とはしないが、これから普通ならまぁ良いやと思い何も言わなかった。疲れていて言えなかっただけというのもある。


 彼女はそのまま先に帰ってしまったが、まだ少し疑いがあったのだろう。

 帰り道で仕掛けられたらたまらないと、念のためいつもとは違うルートを通って帰ることにした。


「あ……」

「あ……」


 そのせいで彼女に再会してしまったのは完全に自爆だった。

 彼女はバス停に並んでいて、その横を通り過ぎる時にお互いに気付いて目が合ってしまったのだ。


 流石に気まずくて愛想笑いをしただけで会話もしなかったけれどな。

 でももしかしたらこの失敗をして良かったのかもしれない。


 あの愛想笑いをした雰囲気だけは、ここしばらくの妙な感じでは無くて自然なやりとりだったから。これから先もこのような雰囲気で接してもらえるのかもと思うと、大分気が楽になった。


 足取りも軽く、ゴールデンウィークを気持ち良く迎えられる。

 そう思っていた俺の目に、ある光景が飛び込んで来た。


「パパあれ買って!」

「僕はあれが欲しい!」


 小学校低学年くらいの幼い兄弟が、父親にゲームソフトをねだっている姿だ。

 ただでさえそれなりのお値段がするゲームソフトなのに、兄弟で欲しいのが違うだなんて父親も大変だな。


『お兄ちゃんなんだから我慢しなさい』


 両方とも買わないか、あるいは弟の分だけ買ってあげるのだろうな。


「仕方ないなぁ。二人ともお母さんのお手伝いをちゃんとするんだぞ」

「は~い」

「は~い」


 え?


 まさか両方とも買う気なのか。

 そんな馬鹿な。

 そんなことってあり得るのか。


 きっとそれだけ裕福ってことなのだろう。

 お金があるならそうなるよな。

 うん、きっとそうに違いない。


 でもなんかもやもやする。

 懸念事項が無くなって晴れやかだった気持ちが重くなっていた。


 どうしてだろう。

 あの兄弟は、あの家族は幸せで良かったはずなのに。 


 いかんいかん。

 せっかくの休みが待ってるんだ、気持ちを切り替えて家に帰ろう。


 俺は何かから逃げるようにその場を急いで後にした。

 そしてその姿を見られていたことに全く気付かなかった。


――――――――


 ゴールデンウィーク前半。

 家で誕生日会をする前日に、クラスメイトに誘われてカラオケに遊びに行くことになった。


 こんなことなら割引券を貰っておけば良かったと思ったが、どうやら例の割引券を使った上で割り勘にしようって話になったようだ。


「なぁなぁ、お前結局瀬川さんと付き合うのか?」


 どうやらクラスメイト達はゴールデンウィーク直前の出来事について聞きたかったかららしく、カラオケの合間に聞かれることになってしまった。とはいっても、元から尋問みたいなことをするつもりだったわけではなく、普段は間違いなく参加する瀬川さんが珍しく不参加になったので、それなら聞いてみようと聞きやすい男の俺をターゲットにしたとのこと。


「ないない。そもそもあの日の帰りに、もうあんなことしないって謝られたからな」

「なんだよ。つまんねーの」

「じゃあアレは何だったの?」

「教えてくれなかった。お前らが聞き出してくれよ」

「そういうセンシティブな話は触れにくいよね~」

「俺には聞いた癖に!」

「男子は別に良いじゃん」

「ひどっ!」

「あははは」


 この感じだと穏便に済みそうだな。

 ゴールデンウィーク明けのクラスで妙な空気にならず、普通の学校生活を送れそうだ。


 そう思っていた。

 この時までは。


 カラオケを終えて家に帰る途中、俺のLI〇Eにメッセージが届いた。




『先に謝っておきます。ごめんなさい。憎んでくれて良いよ』




 差出人は瀬川さんだった。

 お互いクラスのグループLI〇Eに入っているからあて先は知っている。


 あまりにも不穏なメッセージに、猛烈に嫌な予感がする。

 クラスメイトを憎むだなんて余程の事だぞ。

 一体何をしたんだ?


『何のこと?』

『すぐに分かると思う』

『どういうことだ?』


 だが俺の最後の問いかけは既読にはならず、そのまま瀬川さんからの返事が無いままに家についてしまった。


 部屋に戻ってから再度問い詰めようと家の中に入る。


「ただいま」


 靴を脱いで手を洗いに洗面所に向かったら廊下で父さんと出くわした。


「お、おかえり……」

「ただいま。どうしたの?」


 父さんが挙動不審でそわそわしてる。

 しかも何故か俺と目が合うと露骨に逸らして来る。


 これまでに見たことが無い様子に、先程感じた嫌な予感が膨れ上がって行く。

 いやいや、いくらなんでも俺の家族と瀬川さんが関係あるわけないだろ。


「な、なぁ一翔」

「何?」

「…………」

「変な父さん。何なの?」


 話しかけておいて黙ってしまうなんて、やっぱり変だ。

 一体何を言いたいのだろうか。


 父さんが何も言わないから、先に洗面所に行って良いかと聞こうとしたら切り出してきた。

 タイミングが悪いな。


「か、一翔は将来何をやりたいんだ?」

「え?」


 遊びから帰って来た直後の息子に聞くような質問か?

 そういうのは団欒の時にさりげなく話題に出すような話だろ。


「特に考えて無いけど……」

「っ!?」

「父さん?」

「な、何も無いのか!?」

「うわ、どうしたの父さん」


 突然父さんが俺の両肩を掴んで詰め寄って来た。

 そういうのは女性にやってもらいたいんだけど。


「落ち着いてよ。高校生でやりたいことが決まっている方が珍しいでしょ」

「…………お、おう。そうだな」


 クラスメイトの感じを見ても、とりあえず自分の成績に合わせて大学や学部、あるいは最近話題の分野の学部に行くって適当な感じが多いし、大半はそんなもんだと思う。父さんだって普通のサラリーマンだし、そうだったんじゃないのかな。


「突然どうしたのさ」

「いや、まぁ、その……じゃあどうやって大学選ぶつもりなんだ?」

「そりゃあ学力にあったところだけど、ああ、ちゃんと国公立に行くから心配しないで」

「ち、違うそういうんじゃ……!」


 あれ、焦ってる。

 もしかしてお金のことが気になってるのかな。


 まさかお金のトラブルでもあったのか!?


 それで大学進学の費用を確保するのが難しくなって、でもそれを俺に言うことも出来ずに俺の気持ちを探ってるとか。

 なら安心させてあげよう。


「元々奨学金を狙って勉強を頑張ってたから、お金は気にしなくて良いよ。俺の成績知ってるだろ?」

「だからそういうんじゃないって……え、お前が勉強頑張ってたのってそれが理由だったのか?」

「うん。三人もいると進学費用が大変だと思ってたから」


 だから奨学金で学費免除を狙って、生活費はバイトして出来るだけ稼ぐつもりだった。


「そんな……それじゃあお前は……お金を心配して遊んでないっていうのか?」

「大袈裟だよ。ほら、今日だって友達と遊びに行っただろ」


 漫画だって読んでるし、ゲームだって時々やっている。

 そんなに青褪めるほどに驚くようなことじゃないと思うんだけどな。


「ああ、でも父さん。困ってたら遠慮なく言ってくれよな」

「え?」

「俺別に大学にどうしても行きたいってわけじゃないから、お金に困ってたら高校卒業してからすぐに就職するぞ」

「なっ……!?」

「狼樹と心猫が大学に行けるように頑張って働いてお金入れるからさ」


 そうだ。

 俺はダメでも弟と妹が幸せな道を歩けるならばそれで良い。


『お兄ちゃんなんだから我慢しなさい』


 だって俺はお兄ちゃんだからな。


「ふざけるな!」

「父さん?」


 びっくりした。

 父さんが本気で怒っている。


 俺、そんな怒らせるようなこと言ったのか?


「俺達はお前たち全員を…………くっ!」

「ごめん」


 そうか、父さんは俺達三人が大学に入れるように頑張って働いてくれてたんだ。

 それなのに簡単に諦めるようなことを言われたら、父さんの頑張りをダメ出ししているようなものだもんな。侮辱していると言っても良い。本当に悪い事をしてしまった。


「いや、違う。そうじゃないんだ、悪いのは俺達で……」

「父さん?」


 悪いのは父さんの気持ちを考えなかった俺だろう。

 お金についても俺の思い込みだったかもしれないし、もっと落ち着いて考えて発言するべきだった。


「…………」

「…………」


 まずい、気まずくなってしまった。

 父さんとケンカなんてしたことないからどうすれば良いか分からない。


 謝れば良いと思ってたけれど、謝ったら父さんが凹んじゃったし、どうしよう。


「あ……一翔、おかえり」

「母さんただいま」


 父さんの叫び声に反応したのか、今度は母さんがやってきた。

 母さんは父さん程あたふたしてはいないけれど、やはりどこか申し訳なさそうな不安げな表情をしている。


 母さんは悔しそうに俯く父さんをチラりと見ると、そのことには全く触れずに関係ない事を聞いて来た。


「ねぇ一翔。誕生日のことなんだけど」

「誕生日?」


 そういえば明日は誕生日会だった。

 え、この空気でやるの。

 狼樹と心猫に申し訳ないから速攻で仲直りしないとマズいな。


「食べたいものは無いのかしら」

「え?」


 その質問は前に答えたと思うんだけど。


「寿司とピザで良いって言っただろ」

「それは狼樹と心猫が食べたいものでしょう。一翔が食べたいものは無いの?」

「いやいや、俺だって寿司もピザも好きだからそれで良いって言ったんだよ」

「でも……」


 なんでそれで納得してくれないんだ。

 寿司もピザも大人気の食べ物じゃないか。


「毎年、狼樹と心猫と同じもので良いって言ってる気がして……」

「…………」


 そう言われてみるとそうだったかもしれない。


『お兄ちゃんなんだから我慢しなさい』


 でもそれは仕方ないじゃないか。


「兄妹だから好きな物が似てるだけだよ」


 そうだ。 

 ただそれだけのことだ。


 あいつらが食べたいものを主張して、それを聞いて俺も食べたいと思ったから便乗しているに過ぎない。

 それだけなんだ。


「じゃ、じゃあ誕生日プレゼントなんだけど……」

「誕生日プレゼント?」


 今年のプレゼントはあるゲームソフトをリクエストした。

 明日がパーティーなのでもう買ってくれているはずだ。


「あれで本当に良かったの?」

「うん」

「本当に?」

「本当だって」

「本当にあれが一翔が欲しい物なの?」

「そうだよ」

「狼樹が欲しい物じゃなくて」

「あはは、何を言ってるのさ」


 変な母さん。

 自分の誕生日プレゼントに弟が欲しい物を選ぶわけないじゃないか。


「だってこれまで一翔に買ってあげたゲーム。ほとんどやってないじゃない」

「…………」


 そう、だったかな。


「それどころか狼樹が夢中になってやってたわ」


 偶然だよ偶然。


「プレゼント貰っておいて悪いけれど、いざ遊んでみたらいまいちだなって思って遊ばなかっただけだって」

「高いデザートを買ってあげた時、それを心猫にほとんど分けてあげたでしょう」

「それも悪いけれど、いざ食べてみたら好みじゃなかったから、心猫にあげたんだよ。無駄にしてごめんね」


 それ以上の理由なんて無い。


『お兄ちゃんなんだから我慢しなさい』


 俺は自分が欲しいと思うべきもの(・・・・)をリクエストしただけで、何も問題は無い。


「狼樹や心猫は関係なく、お前が欲しい物は無いのか!?」

「と、父さん?」


 これまで黙っていた父さんがまた詰め寄って来た。

 一体何がどうなってるんだ。


「そんなこと言われてもなぁ。本当にあのゲームで良いんだけど」

「他にあるだろ。なぁ、あるだろ!?」

「本当にどうしちゃったのさ」

「ゲームとか楽器とか時計とか靴とか食べ物とか高校生なら欲しい物の一つや二つあるだろ。あるよな!」

「そう言われても……」


 改めて考えても何も思いつかない。


『お兄ちゃんなんだから我慢しなさい』


 というか、考えようとするとどうしても弟と妹の顔が思い浮かんでしまう。


「やっぱり俺の事は気にしなくて良いから、狼樹や心猫が喜ぶものを考えてくれって」


 欲しい物と言うのならば、あいつらが喜ぶ物で良い。


『お兄ちゃんなんだから我慢しなさい』


 理由なんて決まっている。


「俺はお兄ちゃんだから」


 欲を出してはいけない。

 我慢しなければならない。


『お兄ちゃんなんだから我慢しなさい』


 それが当たり前なんだ。


「あ……ああ……俺はなんてことを……」

「父さん?」

「うう……」

「母さん?」


 それなのにどうして二人ともそんなに悲しそうな顔をしているのだろう。


 父さんの言いつけを守っているだけなのに。

 ずっと守って来たのに。


 ちゃんと『我慢』し続けて来たのに。


 どうして今になってそんな反応をするんだ。


「一翔、もう我慢しなくて良いんだ」

「え?」


 今なんて言ったの?

 我慢しなくて良いだなんて聞こえたけれど、聞き間違いだよな。

 父さんがそんなことを言うはずがないもんな。


「遠慮もしなくて良いんだ。好きな物をねだってくれ、我儘を言ってくれ、狼樹や心猫のことは考えずにお前自身が欲しい物を言ってくれ」


 遠慮しなくて良い?

 我儘を言ってくれ?

 弟や妹のことなんて考えなくて良い?


 今度はそれが父さんからのお願いなのか。


 何だよそれ。


 それじゃあ今まで俺がやってきたことは何だったんだ。


『お兄ちゃんなんだから我慢しなさい』


 食べたいものがあっても全部譲って来た。


『お兄ちゃんなんだから我慢しなさい』


 欲しいものがあっても全部譲って来た。


『お兄ちゃんなんだから我慢しなさい』


 やりたいことがあっても全部譲って来た。


『お兄ちゃんなんだから我慢しなさい』


 それも全てはたった一つの言いつけを守るため。

 それが正しい事なんだって教えられたから。

 だから俺は……


「今更そんなことを言わないでよ!」


 あ、あれ?

 俺、今何を言ったんだ?


 父さんと母さんに何を言ったんだ?


「一翔……」

「ごめんね……ごめんね……」


 何やってんだよ。

 父さんを困らせて、母さんを泣かせて。


 絶対やっちゃダメなことなのに。

 どうして俺は……


「ごめん!」


 これ以上両親の姿を見ることが辛くて、自分の部屋に向かって逃げてしまった。


――――――――


 どうしよう。

 どうしよう。

 どうしよう。


 これからどうやって父さんと母さんと顔を合わせれば良いんだよ。

 よりにもよってゴールデンウィークの真っ最中で明日は誕生日会の予定だぞ。


 ベッドの上で悶々としてても、いずれは下に行かなきゃならない。

 せめて平日なら学校があるから多少は気が紛れるのに。


 どうしてこんなことになってしまったんだ。

 どうして父さんと母さんは突然あんなことを言い出したんだ。


 考えられる理由は一つ。


『先に謝っておきます。ごめんなさい。憎んでくれて良いよ』


 瀬川さんが何かをしたんだ。

 俺がクラスメイトとカラオケをしている間に、父さんと母さんに何かを吹き込んだんだ。


 単なるクラスメイトの家に突撃して両親に何かを伝える?

 そもそもどうして俺の家を知っている?


 突拍子もないことだとは思うけれど、先程のメッセージと今の状況を照らし合わせれば瀬川さんが何かをやったとしか思えなかった。


『一体何をしたんだ』

『ごめんなさい』

『説明して』

『ごめんなさい』

『説明してって言ってるでしょ』

『ごめんなさい』


「説明しろよ!」


 どうして俺の家庭をぶち壊すような真似をしたんだ!

 どうして俺の大切な日常を滅茶苦茶にしたんだ!

 どうしてこんな酷い事が出来るんだ!


 そう叫んで怒鳴りたい、詰りたい、それこそ彼女が言うように憎んでしまいたい。


「くそ……どうしてだよ……」


 だがそれが出来ないのは、俺が甘いからなのだろうか。

 いや違う。

 きっと何がどうなっているか分からなくて、その戸惑いが大きいからだ。


 怒るにしても憎むにしても、理由が分からないからどう気持ちをぶつけて良いか分からないのだろう。


『説明してくれないと怒れない』

『言い訳をしてくれ』

『怒らせてくれ』


 流石に定型文が返って来るということは無かった。


 瀬川さんも悩んでいたのだろう。

 少し時間が空いてから、ようやく返事が来た。


 そしてついに俺は、彼女の暴挙の理由を知ることとなった。


『私のお父さんが、金森君と似ているの』


 俺と瀬川さんのお父さんが似ているだって。

 どういうことだ。


『お父さんは少し前までプラモデルが趣味で自分の部屋に沢山プラモデルを置いてたの』

『でもお母さんはお父さんの趣味を理解出来なくてプラモデルをゴミだと思ってて、お父さんがプラモデルを買ったり作るのを良く思ってなかった』

『そしたらある日、お母さんはお父さんのプラモデルを全部捨てちゃった』

『お父さんは怒らなかった。でも抜け殻みたいになっちゃった』


 抜け殻?


『持っている物をほとんど捨てちゃって、部屋の中にはほとんど物が無くなっちゃった』

『休みの日は何もせずにただ座っているだけ』

『何かをしたらとお母さんが勧めると、自分の事は気にしないでやりたいことをやりなさいって言うだけ』

『何か欲しい物が無いかって聞くと、自分の分は要らないからお前達が欲しい物を買いなさいって言うだけ』

『優しくて家族との時間を取ってくれるのは変わらないのに、存在感が全く無いの』


 それが瀬川さんの家庭が抱えている問題。

 瀬川さんのお父さんの現状。


 それ自体は悲しい話だと思うけれど、今重要なのはそこではない。


『お父さんの雰囲気と金森君がとても似ていたの』


 それが瀬川さんが俺に絡んで来た理由だったのか。


『自分が無くて、抜け殻みたいで、消えてしまいそう』


 そんな風に言われたのは初めてだよ。


『お父さんみたいになって欲しくなかった』

『だから迷惑をかけちゃったの』

『本当にごめんなさい』


 学校で絡んで来たのはそれが理由だったのか。

 欲しい物は無いのか、欲はないのか。

 俺の中身が空虚であることを見抜いて、お節介を焼きたかった。


 でも彼女はそれを一度諦めた筈だ。

 ゴールデンウィークの直前にそう宣言していた。


 それなのにどうして止めるどころかもっと酷い事をしてしまったんだ。


『学校でのことは流石にやりすぎって思った』

『暴走してお父さんに向けるべき気持ちを金森君にぶつけちゃってたって気付いて止めようと思った』

『でも見ちゃったの』

『金森君が街で家族連れを羨ましそうに見ていた姿を』

『そしたら我慢出来なくなって……』


 俺の家にまで押しかけて、俺が我慢し続けてきたことを、俺が本当は我儘を言いたかったということを、あるいは甘えたかったということを、両親に伝えた訳か。


 ああ、なるほど。

 そういうことだったのか。 


 まったく酷い話だ。

 自分勝手な思い込みで人様の家庭と心にずけずけと踏み込み荒らして行く。


 そりゃあ確かに俺はおかしかったかもしれない。

 我慢し過ぎだったのかもしれない。


 彼女が自分の家で父親の姿に胸を締め付けられるような悲しみに苛まれていたのは同情に値する。

 そしてその姿と俺が被って見えたから暴走したのも分からなくはない。


 でもだからといって許せるわけがない。

 平穏無事な家庭を壊されて冷静でいられるわけがない。


 怒りのメッセージを返そうか。

 電話をかけてクレームを入れようか。

 それとも彼女の家に押しかけて彼女の両親に訴えかけてやろうか。


 俺にはそれだけのことをする権利があるだろう。




「はぁ……結局俺は我慢しか出来ないのかな」




 怒ることなど出来る訳が無いだろう。

 それが出来るならばとっくに父さんの言いつけを破って我儘を言いまくってるさ。


 結局のところ、これは俺の弱さが招いたことでもあるんだ。


 怒られるのが怖くて、嫌われるのが怖くて我儘を言えなかった。

 自分の気持ちを必死に押し殺して、お兄ちゃんだから我慢する、ことが正しい事なのだから仕方ないと思い込もうとしていた。


 勇気を出して自分の気持ちを家族にちゃんと伝えていればこんなことにはならなかった。


 それに瀬川さんの懸念も分からなくは無いんだ。

 薄々気付いていた。

 俺は将来やらかしてしまうんじゃないかって。


 大学に進学して就職した俺は、やりたいことが無いから仕事をして家に帰るだけの毎日になる。

 でも家族から『結婚』について話をされて相手を探すものの、俺の中身の無さがつまらなく思われて誰と付き合っても長続きしないんだ。

 仮にうまく結婚まで辿り着けたとしても、結局は瀬川さんの父親と同じような感じになって結婚生活が上手く行かずに離婚をしてしまう。


 それを不審に思った父さんたちが改めて俺の事を見つめ直して空虚なことに気付いてしまうんだ。

 そしてそれを俺に問い詰めて、その原因が『我慢』にあったと知って苦しんでしまう。


 そんな地獄のような未来が待っている。

 その地獄の一端を身をもって知っているからこそ、そうはならないで欲しいと願いこんな暴挙に走ったと思えば、瀬川さんを問答無用に怒ることなど出来るはずが無かった。


「でもそれじゃあどうしろって言うんだよ……」


 何をどうすればこの問題が解決するのか。

 俺にはその答えが見つからない。


 俺が『我慢』を止めれば良いのだろうけれど、止め方がもう分からないのだから。


――――――――


 コンコン。


 誕生日会当日の昼。

 俺の部屋の扉を誰かがノックした。


「兄貴、さっさと降りて来いよ。兄貴が来ないと食べられないだろ」


 どうやら狼樹が催促に来たようだ。

 家族一緒にご飯を食べるルールはこの状況でも一緒で、階下では家族が俺を待っているのだろう。


「分かった。すぐ行く」


 狼樹と心猫は昨日のことを知っているのだろうか。

 詳しくは知らなくても、大声を出して言い争ってしまったから何かを察しているかもしれない。


 それでもこうして呼びに来ると言うことは、食卓の雰囲気が重くないように両親が頑張って振舞っているのだろう。狼樹と心猫も表には出さないが本心ではかなり楽しみにしているはずだ。せっかくの誕生日会を台無しにして弟達を悲しませるのは問題外だ。今は『お兄ちゃん』として冷静に振舞えるよう頑張ろう。


 階下に降り、洗面所で手を洗ってボサボサの髪を梳かし、ふぅと少し息を吐いて気合を入れてからリビングへと進む。


「え?」


 扉を開けて直ぐに目に入ったのは家族四人の姿。


 乾いた不自然な笑みを浮かべている父さんと母さん。

 あんな表情だと狼樹と心猫が不自然に思うだろうがと感じたが、弟達は俺に背中を向けているから表情が見えず様子が不明だ。


 だがそれよりも何よりも気になったのは、食卓の上に並べられた料理だった。


「何してんだよ兄貴。冷めちゃうから早く座れよ」

「お、おう」


 狼樹の声に誘われるかのようにフラフラと歩き自分の席に座る。


「じゃ、じゃあ食べようか」

「そうね。三人とも誕生日おめでとう」


 両親の震える声を皮切りに全員がカトラリーを手に持った。

 だが俺は状況が理解出来ず、そのまま固まってしまった。


「兄貴食べないのかよ」


 そう狼樹が声をかけてくれて、ようやく我に返ることが出来た。


「あ、ああ、ちょっと驚いてな。ピザと寿司だって話だったのに違ってたからさ」


 食卓の上に並んでいたのは、これまでに話題にすら挙がらなかった料理だった。

 それどころかこれまで家で出たことすら無く、出るはずがない料理だったのだ。


 その料理とはオムライス。


「狼樹ってオムライス苦手だっただろ。誕生日会なのにどうして?」


 オムライスと言えば子供が大好きな料理という印象があるかもしれないが、狼樹は珍しくオムライスが苦手なのだ。それなのにめでたい席でそれが出て来るなんてどう考えても変だ。


「あのなぁ。俺はもう中二だよ。好き嫌いだって変わってるっての。そんなのどうでも良いからさっさと食べたら?」

「そういうものか……」


 釈然としないが、本人がそう言うのなら俺からは何も言えない。

 確かに狼樹は嫌そうな顔をせずに食べてるしな。


 しかしよりにもよってオムライスか。

 まさか……いや、余計なことは考えないようにしよう。


 卵とチキンライスを一緒にスプーンで掬い、それを口に入れた。

 甘酸っぱさと卵のふんわりとした食感が口の中に広がった。


 オムライスってこんな味だったのか。

 久しぶり過ぎて忘れてたな。


「兄貴。美味い?」

「え?」


 ここにきてようやく俺は狼樹の異変に気が付いた。

 いや狼樹だけじゃない。

 食卓について両親が開始の合図をした以外、口を開いたのは狼樹だけだった。

 それにそもそも思春期突入により最近会話が減って来た狼樹が先導して俺に声をかけてくることが妙だったのだ。


 この食卓は何かがおかしい。


「ああ、美味いぞ」

「普通に美味い?」

「普通に美味いな」


 このオムライスは手作り感があるから母さんが作ったものだろう。

 母さんは料理が得意だからどれを食べても美味しいんだ。


 このオムライスも他の料理と同じく普通に(・・・)美味しい。


「ふ~ん、普通なんだ」


 だが狼樹は俺の答えが納得出来ないのか不満そうだ。

 しかも何故か会話に入って来ていない心猫もだ。

 父さんと母さんなんか辛そうな顔を隠そうともしていない。


 どう考えても誕生日会の浮かれた雰囲気では無い。


 何故だ。

 美味しいって言ったのにどうしてこうなってしまう。




「兄貴はオムライスが一番好きな時に食べられなくなっちゃったんだな……」

「え?」




 俺の人生でオムライスが一番好きな時。


『僕オムライスが食べたい!』

『僕オムライス嫌い! お寿司が食べたい!』

『あたしもお寿司が良い!』

『じゃあお寿司にしようか』

『やった!』

『やった!』

『え~! 次はオムライスにするって言ってたじゃん!』

『二人がお寿司が良いって言うから仕方ないでしょ』

『そうそう』




『お兄ちゃんなんだから我慢しなさい』




 ああ、そうだ。

 オムライスが好きだったのはあの頃だった。


 全てを諦めるきっかけになったのはオムライスが原因だった。


 狼樹の言う通りだ。

 確かにあの頃はオムライスが大好きで、一口頬張るだけで幸せな気持ちになれた。

 でも今は普通に美味しいとしか思えない。


 オムライスを最高に楽しめる時間はもう終わってしまっているんだ。


 そして狼樹がわざわざこんな回りくどいことを言っているということは、そして俺が我慢するきっかけとなったオムライスをわざわざ誕生日会でメニュー変更してまで出したということは。


「兄貴ごめん。俺のせいで兄貴をずっと我慢させちまった」

「あたしもごめんなさい」


 狼樹と心猫は俺が抱えている問題を知っているということだ。


 最早これは誕生日会って雰囲気じゃないな、なんて案外冷静な自分が居る。

 そしてこれだけは言っておかなければと思った。


「別に狼樹や心猫が謝る必要なんて無いだろ。何も悪い事なんかしてないんだからさ」


 二人とも大きな我儘で俺達を振り回したなんてことは無かった。

 ただ普通に欲しい物を口にして、それを両親が二人を優先して叶えただけのこと。


 そんな当たり前のことを悪いだなんて思って欲しくは無かった。


 だが二人の口から語られたのは俺が想像すらしていない事実だった。


「違うんだ。俺、俺……」


 狼樹が泣きそうになりながら苦しそうに何かを言おうとしている。

 一体何があったって言うんだ。


「あの時、寿司って言ったのはわざとだったんだ……」

「え?」


 あの時?

 寿司?


 まさそれは俺がひねくれてしまったあの日の事を言っているのだろうか。


「カズ兄やお父さん達に意地悪しようって、わざとお寿司って言ったの。次はオムライスにするって話をしてたの覚えてたから。ごめん……なさい……」

「ここ……ね?」


 心猫までも泣きそうな顔になって懺悔するかのように語り出した。

 まさかあの時のことを二人とも覚えていただなんて。

 それにいたずらだっただなんて。


「兄貴はそれから何もかも全部俺達に譲ってくれるようになった。でも俺達はそれが嬉しくて喜んでた。兄貴は我慢して苦しんでたのに!」

「しかもあたし達はそのことにずっと気付かなかった。昨日カズ兄がお父さん達とケンカしているのを聞いてようやく分かったんだよ。最低だよね」


 もしかしたら今日のこの誕生日会の変更は狼樹達が言い出したことなのかもしれない。

 父さんも母さんも取り繕うので精一杯なタイプな気がするし、これが想定外の事態ならば『今日はめでたい日だからそういう話は後にしなさい』なんて言いそうだから。


「俺達これから我慢するから。兄貴がやりたいことを遠慮なくやってくれ」

「それで罪滅ぼしにはならないとは思うけど……本当にごめんなさい」


 確かに俺はずっと『我慢』し続けて来た。

 それが本心では苦しくて寂しかったと言われれば嘘とは言えない。


 でもいくらなんでも幼い子供がそんな『我慢』をこんなにも続けられるわけがないだろう。

 そこまでしてしまった理由なんて一つしか無いんだ。




「何言ってるんだよ。我慢なんてするもんじゃないぞ」

「でも!」

「でも!」

「狼樹と心猫が我慢したりそうやって悲しそうな顔をする姿なんて見たくない。それに俺は我慢してたけれど楽しかったんだぜ。だって二人が楽しそうにしてる姿を見れたんだからさ」


 大切な弟と妹が幸せそうに楽しんで生きている。

 その姿を間近で見られるのはお兄ちゃんとして最高の気分だった。

 俺は毎回その姿が見たくて『我慢』出来ていたんだ。


 だから俺から弟達にお願いすることは『我慢』じゃない。


「だからさ、俺達三人とも我慢しないで我儘言って誰かさん達を困らせてやろうぜ」

「お兄ちゃん!」

「お兄ちゃん!」


 二人が胸に飛び込んで来たので優しく抱き留めてあげた。


「ごめん……ごめん……」

「ごめんなざああああい!」


 まったく、もう中学二年生だというのに泣き虫だな。

 こんなんじゃまだまだ心配だから面倒を見てあげるしかないじゃないか。


「俺もごめん。心配、かけちゃったな……」


 涙声になっちゃってる俺が言えた事じゃないか。




「うう……良かった……良かったよぉ」

「本当にごめんなさいね」


 俺達の兄妹愛にあてられたのか、何も出来ずオロオロしていた父さん達が泣いていた。


「いや、父さん達は許さないし」

「え?」

「え?」


 どうしてそこで疑問形になるんだよ。

 当然だろ。


「一番悪いのは親父達なんだから当然だろ」

「カズ兄に我慢させた元凶じゃない」


 例え狼樹と心猫がいたずらをしようと、俺にトドメを刺したのは『お兄ちゃんなんだから我慢しなさい』の一言だ。しかもその後の俺の変化に気付かず狼樹と心猫を常に優先した。


「しかも親父は前に『一翔は我儘を言わないから助かる』とかって言ってたよな」

「あれあたしたちが我儘ばかり言ってるって意味になるから腹立ったんだからね」

「兄貴が我慢してたのを正当化する言葉でもあるし、最低だよな」

「マジありえない」

「う゛……そんなこと言ったかなぁ……」


 まて、俺はその話知らないぞ。

 というか覚えてないだけか?


 案外弟達の方が良く周りを見ていたのかも。


「ということで誕生日会は俺達だけでやるからどっか行ってくれない?」

「金だけ置いといて。出前頼むから」

「プレゼントもね。さ、どっか行った」

「うわああああん! 子供達が冷たい!」

「あなた、流石に私達の自業自得よ」


 別に俺だって今更本気で怒っている訳では無いさ。

 ただ家族が元の明るい雰囲気に戻るために敢えて茶化した感じで冷たくしただけだ。

 そして弟達はそれに便乗してくれたってこと。


「よし、夜はピザ頼もうぜピザ」

「お寿司もだよ」

「まぁまて、慌てるな。せっかく自由に頼めるんだからいつものところじゃなくて高い店を探そうぜ」

「それだ!」

「流石カズ兄!」


 少しわざとらしい感じはあるが、この調子なら大丈夫そうかな。

 いや、それは俺が我儘を言えるようになるか次第だろう。


「おっとその前にオムライスを食べちゃうか」

「俺腹減ったよ」

「食べよ食べよ」


 まだちょっとしか食べてないんだった。

 そりゃあお腹も減ってるよな。


 あれ、でも何かおかしくないか?


「狼樹ってオムライスやっぱり嫌いなんだよな? まさか無理してる?」


 話の流れ的に狼樹は俺のために我慢しようとしていたわけだから、オムライスが平気ってのは嘘で本当は苦手ってことだよな。


「いや……それは……」

「カズ兄聞いてよ!」

「?」


 焦って言い淀む狼樹と何かに憤慨している心猫。

 ここにきて反応が分かれたけれど、どういうことだ。


「ロウ兄ったら、あの時勝手に『オムライスが嫌い』なんて言ったのよ。信じられない!」

「だ、だってそう言った方が寿司になるかと思ったんだよ」

「余計なこと言うからあれからずっとオムライス食べられなくなっちゃったじゃない。あたし好きだったのに!」

「俺だって好きだったのに……ほんとごめん」

「あははは! なんだそうだったんだ!」


 いたずらのためにとっさに出た嘘のせいで、父さん達は狼樹がオムライス嫌いだって思い込んで食べに連れて行ったり作ったりしてくれなくなっちゃったんだ。心猫はそのとばっちりを受けちゃったと。


 それじゃあいつか一緒に美味しいオムライスを食べに行こうか。


 そこに父さん達もいるかどうかは、努力次第だな。


――――――――


 これにてハッピーエンド、というわけにはいかない。


 やらなければならないことが一つだけ残っている。


「あ……おはよう」

「……おはよう」


 瀬川さんとの関係をどうするかだ。


 ゴールデンウィーク明けに教室に入ったらいきなり目が合ってしまいお互い気まずそうに挨拶をしたものの、それ以降は近づくことすら無い。

 LI〇Eの方ではもう謝罪のメッセージを送って来なくて良いとは言ってある。これ以上言われても何を返して良いか分からないからだ。


「どうすっかな……」


 自席に座って思わずため息が漏れてしまうくらいには困っている。


 別に俺としては瀬川さんに対して激怒しているなんてことはない。

 かといって兄妹仲が良くなったことに感謝することもない。


 彼女の行いに対して良い印象は無いけれど、だからといって憎むような印象も抱いていない。

 じゃあ普通のクラスメイトとして自然に振舞えば良いのだとも思うけれど、普通では無いことをされた相手にそうするのは難しい。


 そのもやもやとした気持ちが俺の中から抜けてくれないんだ。


 ただでさえ、今は考えるべきことが山積みで大変だと言うのに。


 あの誕生日以降、狼樹と心猫との関係は少し変わった。


 例えば朝起きて洗面所で身だしなみを整えている時の事。


『カズ(にい)まだやってるの?』

『おはよう、すぐ退くよ』

『別に退かなくて良いよ。二人くらい入れるでしょ。ちょっと詰めて。それとおはよう』

『お、おう』


 心猫は俺を邪険にすることは無くなり距離が近くなった。


『おはよう兄貴』

『おはよう。早いな』

『偶然早く目が覚めただけだよ。それより兄貴、週末の試合のこと忘れて無いよな』

『もちろんだって』


 狼樹は積極的に話しかけて遊びに誘ってくるようになった。


 どちらも俺の事を気遣ってくれているのだろう。

 二人を早く安心させてあげるためにも俺は変わらなければならない。

 好きな趣味を見つけるために色々なことに手を出してみようかとも思っている。


 今はそのことで頭が一杯なので、瀬川さんのことを考える余裕はないのだ。

 単に考えるのが面倒なだけとも言う。


「最近の金森って溜息多いな。好きな人でも出来たか」

「ば~か、そんなんじゃね~よ。ちょっと家の事でな」


 傍から見ていると恋煩いをしているように見えるのか。


 しかしそうか、恋か。


 趣味を見つけるだけじゃなくて、恋愛に挑戦してみるのも良いかもしれないな。

 成功しても失敗しても将来の役に立ちそうだし。

 なんて考えの時点で恋愛する資格なんて無さそうだが。


 それにそんなリハビリみたいな理由で恋愛したいだなんて相手様に失礼……


 え、マジ?

 そういう流れになるの?


 いやまぁ確かにうってつけの相手だとは思うがマジで?




「金森君、話って……」


 その日の放課後。

 教室で全員が帰るのを瀬川さんに待っててもらった。


 誰も居ない放課後の教室に男女二人っきり。

 どう考えても甘酸っぱい展開が待っていそうなものだが、瀬川さんの顔は暗い。


 恐らくは例の話について俺から沙汰が下されると思っているのだろう。


 なんとなくだけれど、瀬川さんは罰を受けたがっている気がするんだ。

 憎まれても良い、などと言って来たけれど、本当は憎んで欲しいのだと思う。


 そんなに罰を受けたいのであれば、辛い罰を受けて貰おう。

 単に怒られて憎まれて楽になりたいだなんて甘すぎる。


 自分がやらかしたことの責任をとって、俺が真っ当になるのを支援してもらうんだ。


「俺の彼女になって欲しい」

「へ!?」


 驚いてる驚いてる。

 この間抜けな顔を見られただけでも溜飲が下がるってもんだ。


「別に俺は瀬川さんのことが好きって訳じゃない。というかあんなことされて好きだなんて思える程ドМでもない」

「……う、うん」

「かといって瀬川さんが脳内で考えているようなことでもないぞ」

「!?」


 やっぱり勘違いしてたな。

 真っ赤になっているが、俺が弱みにつけこんでやらしいことをするような人間に見えるのだろうか。ちょっと悲しい。


 いやまぁ瀬川さんって見た目は抜群に良いし男子からそういう目で見られているだろうから仕方ないかもしれないけどさ。


「瀬川さんは俺が空っぽだって知ってるんだろ。だったらそれを埋める手伝いをして欲しい」

「あっ……」


 瀬川さんの顔に理解の色が浮かんだ。


 俺が望んでいるのは単なる彼氏彼女の関係では無いということを。

 敢えて恋人関係を求めたのも恋という感情で俺の心を埋めてみてくれという意味だということを。


「分かった。頑張って惚れさせるね」

「簡単じゃないぞ。何しろマイナスからのスタートだからな」

「うん知ってる」

「罪悪感とかで頑張ったら多分ときめかないぞ」

「うん分かってる」


 彼女は罰を受けたがっているが、ネガティブな感情で行動しても俺を惚れさせるだなんて出来る訳が無い。恋愛をするにはお互いに幸せな気持ちにならなければならないはずだ。つまりどうしても楽しいと思わざるを得ない。


 辛い罰を受けたいのに、それをさせてもらえない。


 それこそが俺が彼女に科した罰。


「それじゃあこれからよろしくな」

「うんよろしく」

「笑顔が硬いぞ」

「……少しくらい手加減してくれない?」

「手加減した方が良いのか?」

「金森君ってもしかして案外ドS?」

「なんて失礼な」


 困らせられた意趣返しをしているに過ぎないさ、多分。


「それじゃあ今週末……は予定が入ってるから、来週末に瀬川さんの家に行くからな」

「え!?」


 危ない危ない。

 ダブルブッキングしたら狼樹にブチ切れられて心猫からも冷たい目で見られるところだった。


 これから色々やるならスケジュール管理をしなきゃな。


「ちょっと待って。どうして私の家に来るの!?」

「そんなの決まってるじゃないか。娘さんを貰いますって言いに行くんだよ」

「ええええええええ!?」


 戸惑ってる戸惑ってる。

 なんだか楽しくなってきた。


「そうすれば流石のお父さんもびっくりして感情豊かになるんじゃないか?」

「別にお父さんは家族に関しては優しいままだもん! ってあれ、それってどういう……」

「じゃあそれは止めて『いつまでウジウジしてんだよ』ってぶん殴ろう」

「はいぃ!?」


 瀬川さんのお父さんは可哀想な被害者で全く悪くないが、だからと言って家族から腫物扱いされてたって治らないだろう。

 こういうのは大きな刺激が必要なんだ。

 俺がされたようにな。


「どうして金森君がお父さんのことを考えてくれるの?」

「そりゃあ俺の家族にちょっかいだされた仕返しに決まってるだろ」

「あっ……」

「それにこれから瀬川さんの彼氏になるんだろ。彼女が困ってるなら解決してやるのが彼氏ってもんだろ」

「~~~~っ!」


 顔色がコロコロ変わって面白いな。

 なんだかクセになりそう。


「金森君ってもしかして恥ずかしい台詞気にしない系?」

「気にするさ。ただ『我慢』しないと決めただけ」

「その『我慢』はして良いと思います!」

「俺そういう細かい違い分からないし~」

「やっぱり金森君ってドSだ!」


 だから違うって。

 でももし本当にそうなら大変だけど頑張ってね。


 マイナスからのスタートだからどうせ普通にやっても好きになんてなれやしない。

 だったら少し強引にでも揺さぶって瀬川さんの良い所や可愛らしいところを見つけて好きになる努力をしてみる。


 ただそれだけのことだ。


「うう、どうしよう、こんなに強敵だなんて思わなかったよ……」


 でも真っ赤になってそう呟く彼女の様子を見ていると、心の穴が埋まる日は案外早く来るのではないかと思えた。

 

こんな話を書いておいてなんですが作者は末っ子です。

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