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僕は今日死ぬ 30代男性書記

作者: 尾形押下

先々月唯一の家族である母が死にました

去年の冬から体調を崩し入院。

一人暮らしの僕を気にかけてしょっちゅう顔を見せに来てくれていた母、僕のアーティストになりたいという漠然とした夢を応援してくれた母、いつどんな時でも僕の味方でいてくれた母はもう居ないのです。

元々友達も少なくこの歳になっても恋人もいない僕の家にインターホンを押してくれる人はおらず、ピーンと音が張りつめるような一人暮らしのワンルームで僕は1人ただただ時計の秒針を眺めていた。

流れる涙は枯れ、最近はあんなに弾いていたギターも歌も興味がなくなってしまった。

母の事は仕方ない事だと頭では分かっている。

だが母の居なくなった生活は人と関わることも避け、このやり場のない気持ちを話すこともない、毎日毎日日が出ては沈んでいく。死ぬまでこれが続くのだ。

Amazonで頼んだ煉炭のダンボールだけがぽつりと僕の隣にある。

夜中3時、1階に住む僕は何気なくカーテンを全開にして外を見ていた。

車も通ってない一通りの無い道。正面にある廃れたバッティングセンターの所々剥がれかけた水色の壁、僕が死んでもきっとこの風景は何も変わらない。

明日も明後日も来年もずっとこのままなのだ。

そんな事を耽っていると、ベランダから見えるオートロックに向かって20代ぐらいの女性が歩いている。

見覚えがある、隣に住んでいる女性だ。

ふと彼女がこちらに視線を送る、機嫌の良さそうな顔、お酒でも飲んでいたのだろうか。

何かを言いかけた彼女を尻目にカーテンをいきよいよく閉めた。

あの人の人生も僕が居なくなろうと何も変わらないのだ。

そんな鬱々とした気持ちのままダンボールを抱えお風呂場に進む。ふとギターが目に入る。

僕が死んでしまったら使われることなく処分されるんだろうな、そんな気持ちから玄関を空け階段下の誰のものか分からない家具が置かれている所にギターを立てかけた。

部屋に戻った僕は睡眠薬を手に取り飲み干す。

お風呂場に行き中から目張りをする。作業のようだ。

僕は1呼吸おきバーナーに火をつける。

練炭にひをあてる、ジリジリと日が当たっている部分が赤く光り始める。ああ、綺麗だな。

そんな事を思っていた僕は今から自分が死ぬなどもう頭にはなかった。

白い煙がゆらゆらと上がり始める。

お風呂場のタイルが熱され嫌な匂いがする。

眠くなってきた。それが一酸化炭素中毒の初期症状なのか、それとも先程飲んだ睡眠薬のせいなのか、意識もおぼろきはじめた僕にはもう分からない。目の前が白い。

遠くで微かに家庭用火災報知器の音がする。僕の家じゃない、もう少し遠く、隣の家だろうか。

ふと上を見上げる、お風呂場の目張りはしたが換気扇までは考えつかなかった。排気口から隣に流れているのだろう。

もう体は痺れて動かない。目眩もする、口から込み上げた胃液がながれている。家庭用火災報知器の音もいつの間にか僕の耳には届かなくなった。

ふと外を見た時彼女と目が合ったのを思い出した。

あの時彼女は何を言いかけていたのだろうか。

もしも僕の人生と彼女の人生が繋がっていることがあるのなら。

一緒にこのまま死んでくれるだろうか…ーー。


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