いじめられっ子に優しいヤンキーの姉さん
僕は学校が嫌いだった、毎日休めたらいいのにと思う。
朝8時に登校して教室の扉をゆっくりと開けると大声で談笑していた
男女のグループの笑い声が止まり僕の方に目を向ける。
狩りやすい獲物を見つけたかの様に男女がニヤリと笑う。
他のクラスメイトは自分達は無関係であるとわざとらしく僕から視線を外す。
この教室に僕の味方はいなかった。
「お〜篠原じゃん、おはよ〜」
茶髪の男はニヤニヤしたまま声を張り上げて挨拶してきた。
彼の周りにはいつも取り巻きの女子が2人いて僕を睨み付けてる。
僕はなるべく彼らと関わりたくないが無視するわけにもいかず萎縮しながら挨拶を返す。
「お……お、おはよう……ございます」
「はぁ〜〜!!声小せえよ!!
もっとでけぇ声で言えや!!」
飄々としてた茶髪の男は
急に怒鳴り出し僕はビクッと
震えて更に縮こまる。
僕が困ってると教室の扉が勢いよく開き
金髪の女子が現れる。
「おい、私の席の前でうるせえぞ邪魔だ!」
彼女は宮森さん、この学校で一番有名な不良だ。
威圧感のある180以上の高身長で目付きの悪い彼女はヘラヘラしてる茶髪男達を睨み付ける。
「また篠原に手ぇ出してんのか?
こいつ弄るのは私だけって言ってんだろ」
「あー……わかったよ」
舌打ちをした茶髪の男と仲間の
女子は渋々去っていった。
「おいお前」
「はっ、はい!!」
「昼になったら焼きそばパン買ってこい、もちろんお前の金でな」
「了解……です」
僕は彼女の弄り対象でパシリを
命じられるが嫌な気持ちにはならなかった。
宮森さんは僕が学校で唯一
対等な話相手になってくれる優しい人だからだ。
◆◆◆
昼食の時間になると僕は購買で自分と宮森さんのパンを購入して
教室に戻ると茶髪男達の
バカ笑いの声が教室中に響き
僕の机はあのグループの椅子代わりに使われ占領されていた。
弱気な僕があのグループに
退いてほしい言えるわけもなく
僕はもじもじその場に留まっていると
宮森さんが教室に戻ってきた。
「どけやゴミ共」
「ひぃ!!」
ノータイムで胸ぐらを掴まれ
茶髪男と仲間は一目散に逃げ出す。
「お前も黙ってねーで言い返せよ、あいつらの思うツボじゃねえか」
「ごめんなさい……」
「すぐ謝るから舐められんだぞ……まあいいか」
彼女は僕から焼きそばパンを受け取った後、僕に市販のチョコを投げつける。
「ほれバレンタイン、嬉しいだろ」
「あはは………結構前に終わってますよそのイベント」
このチョコが僕が買ってきた焼きそばパンとパシリのお代ということなのだろう。
素直じゃない彼女なりの優しさを感じる。
それにしても母親以外の女性からチョコをもらえるなんて初めてで嬉しかった。
もちろん義理チョコなんだとわかっていながら僕は変な質問をしてしまう。
「あの………このチョコってどういう意味ですかね?」
「なんだお前?あたしと付き合いたいのか?」
「そ、それは!ち、違いますけど……ちょっと気になって聞いてみたくて」
「そんなん認めてるのと変わんねーぞ!………そうかぁ」
両手を組んで何か考え込む宮森さん
ま、まさか本当に脈有りだったりするのだろか………?
僕みたいなダメ男が彼女の様な強くてカッコいい女性と釣り合う訳がないのに……
期待するだけ無駄なのに……
「よし!!お前が強くなったら考えてもいいぜ!!そしたら彼女になってやるよ」
「え?えっ!?」
「学校にいるバカ共に失せろ!!って言い返せる度胸を身につけて告白なりしてこいよ!!………あはは、待ってるぜ〜!」
「は、はい………」
恥ずかしい話をしたせいか
宮森さんの頬が少し赤くなっていて
教室から早足で出ていき
数分間僕の頭は真っ白になった。
長年一人ぼっちでいじめられっ子の僕に
恋人なんて夢の様な話だ。
学校は嫌いだしいつも休みたいと
思ったけど自分には頼れる宮森さんが応援してくれている、いつも自分を揶揄う奴らに負けたくないと
僕は拳を握りしめた。
◆◆◆
放課後帰りの準備をしてる僕の前に
茶髪男がリーダーの男女グループが声をかけてくる。
「おい篠原〜最近金困ってんだけどよ〜〜貸してくんね?」
「あっ、えっと……その……」
「は?出せよ金!!逆らったらどうなるかわかってんだろうな?」
いつもののことの様に脅しをされる、僕なんかが逆らったら酷いことになるのは目に見えていた。
「…………」
「黙ってんじゃねーぞ」
教室に宮森さんはいない、もう帰ったのだろうか?
僕一人勝ち目はないのはわかる……
でも……宮森さんの言葉が僕の心に響く。
お前が強くなったら考えてもいいぜ
ずっとずっとやられっぱなし
僕はこんな最低なやつらに負けたくなかった。
「嫌です………絶対に渡しません!!」
「はぁ?なんつった今」
「お金は渡せませんって言ったんです」
「てめぇなめてんのか?」
僕は勇気を振り絞り精一杯の強がりを見せる。
「なめてるのは……貴方達でしょうが!!僕のこと毎日バカにして見下して……!
そんな人達に渡すものなんて何もありません!!」
「あーそうかい……おい!こいつの抑えろ」
「了解〜」
リーダー格の男の指示で取り巻きの女が
僕の両腕を掴み拘束する。
「いっ……たっ……!」
「オラッ!!罰ゲームだからな篠原!!
公開処刑決定〜」
男は僕の顔を殴り始める。
痛い、痛い、痛い、ムカついてきた
僕は頭突きで反撃をする。
「ぐふっ!?てめえ!!」
完全に怒り狂っている茶髪の男が拳を握りしめ殴りかかるが僕の頬に届くことはなかった。
教室に戻ってきた宮森さんが
茶髪男の腕を掴んでいたからだ。
「こんなひょろガキに集団リンチとか
ダッセー奴らじゃねえかオイ」
「……てめえには関係ねえだろ!!」
茶髪男の全力の拳を宮森さんは綺麗に回避して男の顔を掴み勢いよく床に叩きつける。
「あぐっ………お、覚えとけや!クソ女ァ!!」
捨て台詞と共に男女グループは逃げていった。
「大丈夫か?お前」
「はい……ありがとうございます……
なんで教室帰ってきたんですか?」
「いや帰る前に職員室でセンコーに怒られてただけ」
「あはは宮森さんらしい理由……」
「お前があんなこと言うなんてな……少し見直したぜ」
彼女は照れくさそうに頬を掻いていた。
◆◆◆
宮森さんと下校することになり二人で並んで歩いてると彼女はいきなり立ち止まり
真剣な表情で僕を見つめる。
「今日のお前カッコよかったぜ、これはお礼な……」
彼女は僕に急接近して顔が近い
こ、これってき、キス!?
咄嗟に僕は目を瞑るが
唇には何も触れない、恐る恐る目を開けると
彼女の人差し指が僕の口元に少し
触れていただけだった。
「な〜んてな、もっと頑張らないと
恋人にはなれないぞ〜〜ははっ!」
不意の彼女の笑顔にドキっとしてしまう。
宮森さんはいつも怖い顔をしているけど時々笑う顔はすごく可愛いくて太陽みたいに眩しい。
やっぱり僕は彼女のことが好きなのだと自覚する。
「は、はい!!これからも頑張ります!!」
「おう!期待してるぜ!」
今日僕が勇気を出して喧嘩をしたおかげで先に手を出した茶髪の男とその仲間は停学処分になったそうだ。
僕はこれからも宮森さんの彼氏を
目指して強くなろうと誓った。
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