すれ違っただけなのに
「なんなんだよ…………!」
男は小声で漏らしながら逃げる。
やってくる何かから。
それが何で追いかけてくるのかもわからず。
何て事の無い日だった。
いつものように会社にいって仕事をして。
その日は寄り道もせずに家へと向かっていった。
久しぶりに定時で仕事を終える事が出来たからだ。
周りの者達が残業やらなにやらで会社に残らざるえないのに。
そうして最寄り駅まで帰ってきた。
それなりに賑わってる駅前を抜けて駐輪場へ。
とめてあった自転車にのって、家へと向かう。
そのはずだった。
その途中、それとすれ違った。
人気の少ない住宅地に入った時だった。
相手は歩道に立ったまま。
その横をすれ違うように走っていく。
妙に印象に残る者だった。
体が大きいとか、特徴的な何かを身につけてるとか。
そういったわけではなかったのだが。
ただ、何となく気になる存在だった。
夜中で顔もよく見えない。
そもそも、相手の後ろを通ったのだから、顔が見えるわけもない。
なのに、なぜか頭に残る。
背中に届くくらいの長さの髪。
頭にかぶった帽子。
低くも高くもない背丈。
長袖にズボン。
特徴らしい特徴のない格好だ。
生別も分からない。
なのに、妙に記憶に残る。
印象が消えない。
その背中側を通っていった。
ただそれだけだ。
特に危険なくらい接近したわけではない。
相手に何かしたわけでもない。
なのだが、その直後に凄まじい威圧感を感じた。
殺気と言っても良いかもしれない。
それを感じて後ろを振り返る。
暗がりの中、街灯もなかった。
はっきりと見えるわけもない。
しかし、そこに立っていた何者かは、確かに男の方を見ていた。
「なんだあれ……」
気味が悪かった。
何で自分の方を見てるのかわからなかった。
だが、そこから不可解な追跡が始まった。
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