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第1話「婚約破棄」


『ミティーナ・ララディール! 君との婚約を破棄する!』


愛し合うことを誓い合った伯爵家の若き令息ユードル・ガラムは婚約破棄を宣言し、

妹のプリシラがほくそ笑む。


突然のことにミティーナの頭の中は混乱した。


「そなたの父上はよくもガラム家を騙してくれたな!」


「騙した? お父様がガラム家の方々を?⋯⋯そんなはずは。何かの間違いです。お父様に限ってそのようなこと」


「とぼけるな! ミティーナがララディール家の実の娘ではないこと。

ここにいるプリシラがすべて教えてくれたぞ」


「⁉︎」


ミティーナが敬愛し尊敬した父トバイ・ララディールは実の父親でなかった。

その事実が強い衝撃となってミティーナを襲う。


「プリシラ⋯⋯」


「あら?」


ショートの金髪をツインテールにまとめた碧眼の小柄な少女はとぼけた表情で答える。


「お姉様、本当に知らなかったのかしら。お姉様はララディール家の血を引いた本当の家族ではないのですよ」


「私が⋯⋯家族じゃない? そんなのウソよ」


父トバイと楽しく過ごした日々がミティーナの頭の中に溢れかえる。


娘を目に入れても痛くないというような表情で4歳の自分を抱き上げる父。


王都の名門学院に入学したときのうれしそうな父の顔。


運動会のかけっこで1等をとったときにはお祭りを開くほどはしゃいでいた父。


積極的に進めていたはずのユードルとの婚約が決まるとどこか寂しそうな顔をする父。


ミティーナはどの父の姿を思い出しても自分が実の娘でないことが信じがたい。


「あろうことか娼婦が産んだ娘だったとは。伯爵家であるガラム家の血統に卑き血を混ぜようとしたトバイ殿は大罪人。この結婚は蛮行に他ならない!」


「そんなはずはありません! お父様は私を愛してくださいました。ユードル様もプリシラもお父様を悪く言うのはやめてください」


ユードルとミティーナの結婚を積極的に推し進めたトバイ・ララディール子爵。

そんなトバイ子爵もミティーナの結婚式を楽しみにしたまま(やまい)で半年前にこの世を去った。


「見苦しいですわよお姉様。いや、姉の振りをした他人でしたわね」


「プリシラのお陰でミティーナと子をもうけずにすんだ」


「おふたりともさっきからなんの冗談なのですか! 私ばかりかお父様のことを侮辱までして。私は許せません」


『プリシラの話していることはすべて真実ですよミティーナ』


「お母様!」


「17年前、領内にある教会が全焼する大火がありました。

焼けあとからたったひとり生き残った赤子がミティーナ。あなたでした。

そのとき主人はあなたを抱き上げ『奇跡』だと言って私たちの子としたのです。

あなたの本当の両親はわかりません。定かなのは大火の前日に娼婦が、産み落とした我が子をあろうことか

教会の前に置き去りしていったということだけ」


「そんな⋯⋯」


「私は反対だったのですよ。どうしてプリシラではなく出自不明のミティーネを格式高い伯爵家に嫁がせるのかと」


そう言って母ヘレン・ララディールはミティーネを睨むような目つきでミティーナの顔を見やる。


「主人も自分の死期が近いことがわかっていたので焦っていたのかもしれませんが許されることではありません。

ミティーナ。悪いことは言いません。あなたは今日でララディール家から去るのです」


「⁉︎」


「安心して。ユードル様は、私と結婚することになったから」


プリシラはユードルの腕にしがみついて頬を寄せる。

そしてまんざらでもないユードルの顔。


「そういうことだミティーナ。プリシラこそれっきとした貴族の血をひく才女。穢らわしき娼婦の娘などに居場所はない」


「さぁ、近衛兵たち。なにをボサっとしているの! さっさとこの娘を連れ出してちょうだい」


「お母様! ウソだと言ってください! 私はお父様とお母様の娘です! 離してください! 離して!」


抵抗するミティーナを兵士5人がかりで取りおさえる。


***


翌日ーー


ララディール領の門の扉が閉じられていくのをミティーナは呆然と見つめているしかなかった。


手荷物はカバンひとつと数日の生活費。


山道をとぼとぼと歩くミティーナ。


もちろんララディール領の外をひとりで歩くのははじめてだ。


ミティーナは考える。


(いただいたお金だけでは2、3日でなくなってしまいます。

どうしたら良いのでしょうか? お金をふやす方法⋯⋯そうだわ!

“はたらく” ───使用人たちがお金をたくさんもらうために働くと、屋敷で話しているのを立ち聞きしましたわ)


ミティーナの記憶


休憩室で会話をする使用人たちとメイド。


「この仕事きっついな」


「夫人が飼っている犬の散歩で朝4時起きだぜ」


「それならまだましよ。こっちはプリシラ様のわがままに振り回されてクタクタ。

おとといなんて怖い夢を見たって真夜中に叩き起こされたのよ」


「まぁこの仕事がいちばん稼ぎいいから仕方ないな。職業紹介所に行っても他はさっぱりだ」


『みなさま。いつも私たち家族のためにご苦労いただきありがとうございます』


「お、お嬢様⁉︎ なにをおっしゃっているんですか頭をおあげください」


そんなやりとりがあったことを思い出したミティーネ。


もちろん⋯⋯


『そうだ!職業紹介所ですわ』


当然、こうなる。



***


「もし?ここははたらくところを紹介してくれる場所であっていますか?」


ミティーナは建物の入口の前に立っていたスキンヘッドの屈強な男性に声をかけた。


「ま、まぁ⋯⋯一応そうだけど」


「ならよかった。はたらけばお金もくださるのですよね」


「も、もちろん⋯⋯成果が出ればだけど」


スキンヘッドの男は不思議そうな顔で建物に入っていくミティーナの顔を見つめた。


『いらっしゃいませ。ようこそ冒険者ギルドへ』


「ミティーナ・ララディールと申します。さっそくですが私にはたらくところを紹介していただけませんか?

できればどこかの貴族のお屋敷を。メイドたちに家事や掃除を教わっていましたからそういったことは得意です」


「は?」


受付嬢のシャーレは困惑した。


(ちょ、ちょっと待ってなんなのこの子⁉ お嬢様︎? どこからどう見ても冒険者って感じじゃないし⋯⋯)


「あ、あのここは危険なお仕事しかありませんよ。モンスターを退治するとか」


「調理? もちろん得意ですよ」


「いや、だからそうじゃなくて」


やりとりを見ていた男3人組が下衆な笑みを浮かべながら話しかけてくる。


「お嬢さん。よかったら俺たちのパーティーに入らないか。おじさんたちがじっくり丁寧にお仕事を教えてやるよ」


「パーティーにご招待してくださるんですか? 嬉しい。だけどドレスがありませんわ」


「そんなものはいらないぜ。じゃあさっそく俺たちと行こう」


「ちょ、ちょっと待って! 私の担当よ。離れなさい」


シャーレは言った。見渡すとギルド内に滞在するすべての男たちが鼻の下を伸ばしてミティーナに視線を送っている。


シャーレはぐるっと見渡しながら男たちを睨みつけながら心の中で言う。


(下衆どもが。股にぶら下がっているもん引きちぎるぞ)


「さぁ、こっちに来て」


シャーレはミティーナの腕をひっぱって掲示板の前まで連れてゆく。


「さぁ、選んで。この掲示板に貼ってある紙が全部お仕事の依頼よ。ここではクエストというの」


シャーレはわざとらしく”あっ!“と、叫ぶ。


「こんなところにミティーナさんに向いているお仕事が!」


そう言ってシャーレは掲示板の隅っこに貼ってあった依頼書を手に取った。

1ヶ月近く、誰も手に取らなかったクエストだ。


(これならとりあえず安全か)


「それじゃあさっそく依頼主のところに行きましょう」


「はい」


つづく





日射しが照りつける中、畑の草刈りをしていて書きはじめた作品です。

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何卒よろしくお願いいたします。

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