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Dearest~ある男女の哀歌~  作者: 令月和邦
リーガンの謁見
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第一章 リーガンの謁見(2)

第二話

朝食を摂った後、リーガンは身支度を整えた。正直言って弟と謁見するのには気が向かなかった。自分は城の生活が嫌になって町に出た身である。母親の違う自分と弟は折り合いが悪く、また権力闘争繋がる恐れもあったが故に、一介の兵士として下野したのだ。それ以後、王に即位した弟とは一度もない。それが今になって突然、弟は何を理由に自分を呼び出したのか。まるで見当がつかなかった

 準備が整うと、フィリップを従えて愛馬のブレーに跨り、城へ向かった。城に向かう途中、町では何やらひそひそと噂話をする人々の声が耳に入った。

「またやられたのか」

「今度は陛下の衛士隊長様だそうじゃ」

「やはり帝国の仕業か」

「おそらくは」

「顔も分からず、男か女かも分からぬとは」

「いずれにせよ、かなりの手練れであることは間違いないわい」

 その話を聞きながら、リーガンはフィリップに声をかけた。

「何やら街の雰囲気がおかしいな。いつもなら賑わってる市場も今日は静まり返っているし、人通りも少ない。増えているのは目を光らせてる兵士ばかりじゃないか」

「恐らくは例の暗殺者の対策でございましょう。今年に入ってはや王国の関係者が十人以上も殺されているのでございますから、警備も厳しくなろうものです」

「フーム。まあそうなるかな」

リーガンは頷きながら聞いた。彼は外征向けの兵の指導を担当しているので、中央政治の情勢には疎いが、帝国の暗殺者の話は已に耳にしている。今年に入って、国内の官僚、軍人、有力大臣が次々と殺された。彼らには全て凄腕の護衛が附いていたが、それらはまるで役に立たなかった。殺されたものは護衛も含めれば已に百を優に越しているとも言われている。敵にしてしまえば非常に厄介な相手だが、国内警備を担当にしていないリーガンには関係のない話であった。

 城門まで来て、リーガンはフィリップに、

「では、謁見に行ってくる。お前はここで待っていてくれ」

と言った。フィリップは、

「分かりました。弟君にはくれぐれも失礼のなきよう」

「分かっている。心配するな」

こうして、リーガンは城の中へ入っていった。


王座の間で、弟であるエドワードはリーガンを出迎えた。彼は今年十六になるが、父親が二年前に他界し、位に就いた。目つきは狼のようであり、兄であるリーガンを睨みながら言った。

「久しぶりだな、リーガン」

「お会いできて、恐悦至極にござります、エドワード陛下」

「フン、慇懃無礼な物言いだな、弟に王位を奪われた事がそんなに不愉快か」

リーガンは、異母弟のこの嫌味にあふれた言い回しを嫌っていたが、そんな感情はおくびにも出さず、

「滅相もござりませぬ。お父君の亡き後、国の繁栄を任せられるのは、貴方様だけというものを」

と言った。

「フン、まあよい。ところで話は変わるが、例の暗殺者の話を聞いたか」

エドワードは急に話題を変えて、リーガンに尋ねた。王からいきなりその話題を振られるのは、リーガンにとって意外であった。

「ハイ、聞き及んでおります。已に王国の人間を多数手にかけているとか」

「奴め、手始めに我の股肱の臣たる財務総監を殺した後、我が家臣を次々殺戮しておる。数日前は、この国で五本の指に入るであろう衛士隊長を殺しおった。奴には我の為にもっと働いて欲しかったが・・・」

そう言ってエドワードは口を噤んだ。どうやら、彼はリーガンに何かを頼むために呼んだようだ。

「言葉もありません。あの方はこの国で一番の手練れともいわれておりましたものを」

「謙遜だな。奴はお前との手合わせでは一度たりとも勝てはしなかったそうだが」

こう言われて、リーガンはぎくりとした。彼は無用な誤解を避けるために、自らの実力を曝け出さぬようにしてきたのである。

「買いかぶりにございます。私は国の大会では一度も優勝してはおりませぬ。あのお方は、何度も勝っておりまする」

「表向きには、な。だが火の立たないところに煙は立たぬというもの。お前が剣術に於いて手加減をしているという噂は兵たちがしきりにしているぞ」

リーガンは冷や汗をかいた。この男は自分をまだ疑っているのか_____。

「まあ良い、今日はそんな話をする為に、貴様をわざわざ呼び出したのではないからな。貴様に配置転換を、と思ってな」

「配置転換?」

「このような情勢じゃ。我とていつ命を狙われるか分からぬ。だから腕のある護衛を附けねばならぬと思って、お前を新たな衛士隊長にしようと思ってな」

「お待ちください!私の腕は素人です。それに外征の兵士の教育の務めもございます!」

「そんなものは他の者に任せておけばよい。それにあの宰相めもしばらくは攻めては来ぬだろう。だからこそ、こうやって刺客を放っておるのだろう」

「ですが、貴方様は私を・・・」

「フン、我とてお前を目にするだけで腹立たしい。しかし、我の命には代えられぬのでな」

リーガンは黙った。務めは口実だった。本当はこの弟の傍で仕事をするというのが、耐えられなかったのである。

 エドワードは。更に続けて言った。

「それに、もしかしたらお主の本懐を遂げることが出来るかもしれぬぞ。我の傍にいるというのは」

こう聞いて、リーガンは合点がいった。弟は自分を目につく場所に置くことで、あわよくば自分をも始末しようとしているのだ。リーガンは、

「もしお望みならば、今すぐにでも」

と低い声で言った。

「貴様!!」

傍で王を護衛していた兵士たちが一斉に剣を抜こうとすると、

「まあ、待て。今は我が嗾けたのだ。あのような返答をするしかあるまい。剣を収めよ」

と、エドワードが言い、兵士たちは剣を収めた。リーガンは、その様子を見ながら、

「では、私が本当に陛下のお命を頂戴仕り申したら」

と尋ねた。

「フン、その時はその時だ。我も天意と思って甘んじて受け入れよう。もっともお前がこの国をまとめられればの話だがな・・・」

これを聞いてもはや拒否は出来ぬと思った。リーガンは退出しようとすると、

「出仕は一週間後よりだ。家もすぐに引き払い、城で寝泊まりしてもらう」

とエドワードは念を押した。


 城を出ると、フィリップが待っていた。この男にどう話すべきか。これまで、弟の嫉妬から逃れるために、父の死後は城を出て生活してきたのだ。それが今になって再びあの息苦しい城に呼び戻されるとは___。あの老人はその事をいつも案じていたのに____。

 リーガンは暗澹たる思いに包まれた。


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