第一章 リーガンの謁見(1)
第一話
朝の優しい光がカーテンを通して部屋に差し込んでいる。リーガンはその光を浴びながら、ゆっくりと目を開け周囲を見渡した。この部屋には、時計と粗末なベッドと仕事用の机と箪笥ぐらいしかない。この部屋に住んでいるリーガンが無駄を嫌う性格だからだ。彼は調度品は必要最低限に済ませ、他の飾りなどは、一切部屋に置こうとはしなかった。
トントントンと扉を叩く音がした。
「リーガン様、起きてくださいませ。今日はお城に行く日取りでございましょう」
扉の向こうから、使用人のフィリップの声がした。
「う~ん、もうあと三十分くらい寝かせておくれ、フィリップ。まだ仕事の時間には早いだろ」
「何をおっしゃいます。今日は弟君との謁見がございましょう。服装等の支度をしていたら、間に合わなくなります」
フィリップは即座に反論した。するとリーガンは、
「弟君では無い、国王陛下だ。私はただの兵士で王国に仕えている身だ。そんな下っ端が約束をすっぽかしたところで、何も問題あるまい」
「何を馬鹿な事を。弟君は、兄である貴方様を頼りにしているからこそ、こうしてわざわざお呼びになられたのでございましょう。甘えた事を言わずに、さあ起きて支度を!」
「断る。せめてあと二十分」
いつまでも起きてこようとしないリーガンに苛立ったフィリップは、ついに扉をこじ開けて、部屋に踏み込んで来た。
「さあ、リーガン様!朝食と出かける支度を!」
フィリップはベッドに蹲っているリーガンを揺さぶった。
「ば、馬鹿者!!ドアを壊したらカギが掛けられんでは無いか!」
「フン、そもそもこの家は私が管理しておるのですから、他人が入ってくるはずがありません!わざわざ鍵をかけて閉じこもる必要も無いのです。」
「お前、俺のプライバシーってもんを知らないのか!?」
リーガンは憤慨した。
「フン、そんなものは恋人の一人や二人でもお作りになられてから仰るのですな。貴方様は部屋に入っても所用の手紙をお書きになるか、さもなければベッドで寝ておられるだけではありませんか?」
「あのなあ…」
リーガンはこの使用人の言い分に呆れた。元々幼少期から自分に仕えているだけに、これ以上取り合っても無駄だと思っていた。