プロローグ
戦乱の世で二人の愛が世界を動かす______。
敵対する国家に生まれたリーガンとコーデリア。彼らは何度も激突するが、ある事をきっかけに距離を近づけていくが・・・・・・
プロローグ
____いつの世も争いが絶えない。人間の歴史は戦争の歴史と言っても過言はないであろう。戦争は家族や恋人の命を引き裂き、残された者たちの心をも引き裂く。それでも、そのような乱世の中にあって、なお力強く生き抜いていこうとする者も数多いる。これは、そんな時代のある二人の男女の愛と哀しみに満ちた物語である____
或る時、二つの国家が存在した。ランカスター帝国とヨーク王国である。元々ヨーク王国は広大な領土をもちながら、封建領主が各地方を治め緩やかな王政を敷いていた。だがそんなある時、ヨーク王国に仕えていた諸侯の一人、ウィリアムが突如反乱を起こした。その原因は王国の徴税問題にあった。時の王、ヘンリーは浪費家であり、王国の財政は破綻寸前であった。彼は財源確保のために、これまで諸侯に要求していた王国への上納金を大幅に増額したのである。これには多数の諸侯が反発を示した。ウィリアムはそんな諸侯等の声を糾合し、王国からの独立を宣言した。
「もはや国王には諸侯の総合者たる資格は無い!今こそ新たな君主を立て、その下で新秩序による支配体制を構築すべきだ」
彼は新国家建設の名の下に、次々と王国の諸侯を支配下に治め、わずか半年ほどで王国の西半分を占領することに成功した。機は熟したとみたウィリアムは皇帝に即位し、ランカスター帝国の建国を宣言した。
「ヨークの時代は終わった。これからは新帝国の下で西側の民は再び安寧を得ることが出来よう。そしてやがては東側をも解放し、名実ともにランカスターを大帝国とするのだ!」
こうして帝国は残る東側の王国に侵入し、ここにヨーク王国とランカスター帝国の血みどろの争いが始まったのである。始め、王国側は帝国を侮っていた。相手は所詮にわかずくめの反乱集団である。こちらは数百年の長きにわたり、この領土を支配していたのだ。本気を出せばすぐに鎮圧できる______。
ヘンリーは、帝国討伐にあたって、兵たちにこう捲くし立てた。
「苟も我が代で王国が滅亡するような事態があってはならない。所詮は相手は烏合の衆ではないか。我が国が即座に迎え撃てば、反徒どもは必ずやすぐに霧散するであろう!」
こうして王国軍は帝国軍を国境付近の町であるグロスターで迎え撃った。しかし、結果は王国の大惨敗であった。帝国軍の指揮官は彼らが思う以上に有能であり、また度重なる重税によって兵の士気が下がっていたことが原因であった。この勝利に沸いた帝国は破竹の勢いで進撃し、ついに王都にまで迫った。当時の記録はこう語っている。
「王の徳の無さがこのような事態を招いたのだ。あと少しでヘンリーは亡国の君主になるところであった」
しかし、ここでヘンリーに天運が巡ってくる。帝国軍を率いていたウィリアムが急死したのである。彼の跡継ぎは幼いチャールズしか残っていなかった。また帝国側の補給も限界に達し、そのまま帝国領へと軍は全面撤退したのである。ヘンリーはこの戦いを教訓に財政改革、及び軍事増強を図り、王国の勢いは盛り返した。その後、この二つの国家の戦いは国境付近で膠着状態に陥り、周期的に小競り合いを続けながら、百数十年という長き時が経った。
この間帝国側には大きな変化があった。帝国は幼帝チャールズが即位した際に、帝国宰相が実際の政務を行った関係上、世襲の皇帝を非世襲の宰相が支えるといった体制が取られた。この結果、必然と皇帝の権力は弱められ、かつてのカリスマ的な存在から、宰相の傀儡に成り下がっていった。そして、建国から百年程経ったある時、大事件が起きた。帝国宰相であったオリヴァー・チェンバレンが皇帝一家を殺害したのである。時の皇帝リアは、衰えつつあったランカスター家の復興を企図して、オリヴァーを宮廷から排除せんと、クーデターを決行したのである。
「オリヴァーの帝位簒奪の意思は明らかである。余はこのような屈辱には耐えられない!」
こうしてリアは、数百人の兵を率いて挙兵した。しかし、すでにクーデターの計画が密告されており、彼の前にはオリヴァーの手勢が待ち受けていた。オリヴァーはリアを殺害するよう命じ、同時に皇帝一家を処刑するよう軍勢に命じたのである。皇后・皇太子・皇帝の兄弟姉妹が一挙に誅殺された。その後、オリヴァーは自らの手勢を「皇帝陛下を弑逆した大罪人」として全員処刑し、証拠の隠滅を図った。こうして国政を完全に掌握したオリヴァーであったが、皇帝の遺児であり、四歳になるコーデリアの行方だけは杳として知れなかった・・・・・・
そんなことがあった十四年後からこの物語は始まる。主人公の一人はリーガン。彼はヨーク国王の長男であったが、妾腹ゆえに後を継げず、王国軍の兵士として鬱屈した人生を送っていた。彼には野心は持ち合わせていなかったが、一方で弟が治める王国には強い不満があった。
もう一人はリアの遺児コーデリア。彼女はオリヴァーによる暗殺の手を逃れ、密かに帝国の復興の野心を抱いていた。彼女は正体を隠し帝国の諜報組織"機関”の一員となり、王国に潜入した。
時代はこの二人を巡って大きく動き出したのである。時に、リーガンは二十歳、コーデリアは十八歳であった・・・・・・