おいしさが武力で決まるおとぎ話
むかし、むかし、パティシエ様は空にきらめく天の川に向かって小麦粉と卵とバターを流し込んだ。そして、星の回転を利用してコロコロと材料を混ぜ、太陽の熱で生地を焼いた。更に長い年月の果てに、暗闇の中に金色の海を持つ菓子の星を誕生させた。
パティシエ様は、次に海に浮かぶ大陸を作り。そして、人間とそっくりな小麦の人形に魂を込めたことで菓子という知恵を持つ生命を誕生させる。
パティシエ様は、菓子たちに地球の菓子の名を与え、菓子の作り方を教えた。菓子たちはレシピを学び自分と同じ名の菓子を作ってパティシエ様に届けた。
菓子たちはパティシエ様から「おいしい」と言われることに大きな喜びと誇りを感じていた。菓子たちはパティシエ様と共に平和にお菓子作りを楽しみながら暮らしていた。
ある日、平和な菓子の世界からパティシエ様が消えてしまう。
慌てふためく菓子たち。人間の美味しさの基準は菓子には分からない。菓子の中でも高名な貴族たちがパティスリーの町にあるショコラーテ宮殿に集まり、自分たちの美味しさについて話し合いで決めようとした。
けれども、話し合いはすぐに紛糾する。
「よろしい、ならば決闘だ」
菓子たちは、おいしさを勝負で決めようと言い出す。宮殿にいた全員が自分こそは最高の菓子だと言い出したため、全員で一斉に戦うことになった。
戦いはなかなか決着がつかない。疲れた一人が、翌年に持ち越ししようと言う。
庶民たちはこの貴族たちの決闘を面白がった。だから、噂になって参加者が集まり、どんどん大きな戦いとなった。いつしか、これらの決闘は数百の兵隊で行うようになる。意地と意地がぶつかるように、毎年けが人が増えて行った。
これはいつしか戦争となり、年中行われるようになる。
時代が流れ、画期的な「写真機」が発明される。この特殊な写真機は、人の魂を菓子の世界に召喚できるという。
菓子たちは喜んだ。長年戦いで決めていたスイーツキングの座であったが、パティシエ様を呼ぶことができれば、美味しさに正しい基準が生まれ混沌とした世界に秩序が戻ると考えた。
しかし、菓子は、人間が一人ではないことを知った。数えるのも難しいほどたくさんの人がいた。菓子たちはまたも困った。人によって意見が違いすぎるからである。
けれど、菓子の貴族たちは、人がたくさんいることを利用して、自分こそが一番だと言ってくれる人間を召喚することにした。そうして、人間と菓子は結託する。有力貴族たちは自分の都合の良い人を召喚し、パティシエ様の頑固な職人気質も相まって菓子世界の美味しさ戦争は一段と激しくなった。
ある時、シュー・ア・ランシエンヌ侯爵(シュー・クリーム)は考えた。
「どうせ戦争で決めるなら、戦争の専門家を呼ぼう!」
彼はパティシエではなく軍事学の専門家を探す。シュー・クリーム好きな戦争に詳しい人間を探す。そして、甘いものが大好きという一人の軍事顧問の女性が承諾する。
彼女の指揮するよく訓練された国民軍の前に、菓子職人の兵隊など歯が立たなかった。将軍は何百もの国を数年で滅ぼし、小麦大陸のほぼ全土を掌握する大帝国を構築した。
この快進撃は歴史になり、一つの時代を作った。
シュー・ア・ランシエンヌ侯爵は、彼女を真なる菓子の皇帝として即位させ、侯爵は宰相として帝国を統治した。
また、彼は宣言する。菓子世界においては皇帝こそが最も美しく、自身が最もおいしい菓子であると。
ここに、しばらくの平和な季節が誕生した。やがて、国土が割れ、帝国が滅んでも、召喚した人間を王に据え菓子が統治する文化は残る。
シュー・ア・ランシエンヌ帝国の栄枯盛衰から菓子たちは学び、戦争で勝つために国を豊かにし、科学を学び、軍事力を高めた。美味であるために最強国家の形成を目指した。
そして、何度も大戦争を行いたくさんの菓子が傷ついてようやく彼らは学ぶ。
「戦争の原因って人間では?」
菓子はついに気づいてしまった。
早速、彼らは国際会議にて、十八歳以上の人間を呼び出すことを禁止し、世界の争いに終止符を打とうと考えた。人間は本来心優しい生き物であり、人の子こそが優しい君主であり続けるという期待も込めた。
この頃から、菓子世界では王号に王女や王子を用いるようになる。
しかし、武闘国家となった彼ら菓子の民は、今でも密かに人の君主に期待している。この君主こそが自分たち菓子を世界一に導くのであると。スイーツ世界の覇権はまだ争われているのだ。
そして、また一人の姫君がこの世界に迷い込み、新たなおとぎ話を作ろうとしている。
今週もスイーツ世界をご堪能いただきありがとうございます。遥海 策人です。
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カクヨム 月曜日投稿 ちょっとだけ早く読めます。
本サイト 水曜日投稿 あとがきに小ネタが入ります
更新情報(稀に)配信 ツイッター @harumi_sakuto
物語内で登場するスイーツを紹介する「姫君のスイーツ辞典」始めました。
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