2話 我が名は・・・
数本の電車を乗り継ぎ、妃沙は名古屋の地に降り立っていた。すでに太陽が沈みはじまり、辺りが薄暗くなっていた。彼女は立ち止まり上を見上げ、左右を見渡した。
(…前世から、40年経っているわね。景観も随分変わっています。まずは高いところから、視て見ましょうか…)
駅のロータリーを目指い歩いていく、タクシー乗り場に来ると彼女はそれに乗り込んだ。
「ご乗車ありがとうございます。どちらまで?」
「テレビ塔までお願いします」
「テレビ塔ですね。わかりました」
自動で閉まるタクシーの扉、妃沙は深く座りなおすとタクシーは出発した。
目的地に到着し、タクシーから降りる時。領収書を貰おうとしたが、会社を辞めた事を思い出して止めた。タクシーを降りて、目的地まで歩いていく妃沙。
しばらく歩いていた妃沙は、前方から彼女を見ながら笑顔で、近づいてくる男性を目で追っていた。その男性は妃沙の前に来ると、彼女の前で止まった。
「コト…ワルッ!」
「は?」
妃沙に声を掛けようと、彼女の前で止まった男性。彼女に声をかける前に断られて、驚きの表情をしていた。その男性は、自分の前を通り過ぎる彼女を、口を開けながら目で追っていた。
(…ふふふ、私の予知能力は絶好調ね! )
妃沙はテレビ塔に上り、展望スペースを歩き回っている。適当なベンチを見つけると、彼女はそこに座る。腕を組み目を閉じ、彼女は集中して大きく息を吐いた。
(…北側の離れた位置に、強い力を感じる。強いけど、私の夫よりは弱い。…ほかは? あれ、北側の人が移動した? テレポートかな? まずい、視ているのバレたかな・・・そんな事より、我が夫が名古屋に居ないとは、移動したのかな? となると、探すのは骨が折れるわね)
妃沙は立ち上がると、エレベータに乗り込み地上を目指した。テレビ塔から出ると、周辺を見渡した。
(…先程の強い力の人は、どこに? でも、この人込みでは、私を見つけられないかもね)
妃沙は周囲の人込みをかき分けながら、繁華街の方へ進んでいった。しばらく歩いていると、先ほどの強い力の持ち主が、つけていることに気が付いた。彼女は立ち止まり、歩道の端によると鞄から携帯電話を出した。電話を掛けるふりをして、彼女はそれが通り過ぎるのを待った。
(…あの男の人ね。私の予知が働かないと言う事は、私より能力値が上と言う事ね。あまり、関わりたくはないわね・・・)
その男性は、妃沙の前に来ると歩みを止め彼女と向かい合った。身長は妃沙より20cmほど高く、180cmは越えているだろう。ネクタイをしていない黒のスーツを着ていた。髪は短く、顔の感じから20代後半と言ったところだろう。その男性は、妃沙にさらに近づいてきた。
「こんばんは、お嬢さん」
「ナンパは、お断りします」
妃沙は彼が話かけると、ほぼ同時に断る。が、その男性はうろたえる事もせず、さらに彼女に近づいてきた。妃沙は、彼の顔を見上げると彼は、顔を彼女に寄せてきた。
「貴方の能力について、お聞きしたいことがあります。同行願えませんか? 悪いようには致しません」
彼は妃沙に聞こえる程度の小声で、彼女の耳元でささやいた。
(…逃げるか? でも、追いつかれそうだし、どうするかな)
「近くのカラオケボックスに行きましょう。そこなら誰も聞いていませんし」
妃沙は返答に困り、男性の言葉を聞いて固まっていた。しばらく、その男性を見つめていると。その男性は、さらに話かけてきた。
「強制的に連れていくことも出来るんですよ? 手荒な真似はしたくありません、一緒に行きましょうか」
「わかったわ、行きます」
<強制的に>と言う言葉を聞いて観念したのか彼女は、携帯を鞄に入れると着いて行く意思表示をした。その男性に付き添われ、歩いていく彼女。しばらく歩くと男性は、1軒のカラオケボックスに入るよう左手を、その方向に差し出した。
中に入ると男性は受付を済ませると、彼女を奥に進むよう促した。先に進むと男性は、直ぐに彼女の横に来た。ひとつの扉の前に来ると「こちらです」と言い、扉を開ける。そのまま開いた扉を手で支えながら、彼女が中に入るまで待っていた。
妃沙は中に入り扉の近くに座った。男性はそれを確認すると、扉を閉めそのまま扉の前で立っていた。
「飲み物どうしますか?」
「ウーロン茶で」
男性は扉の近くの電話を取る「ウーロン茶を2つお願いします」と注文をした。そして扉の近くの彼女の対面に深く座った。暫らく両者は無言が続き、店員がノックと共に入ってくる。店員はテーブルに、ウーロン茶を置くと扉から出て行った。それと同時に、男性が話し始めた。
「では自己紹介から始めましょうか。私の名は中条 希有と申します。わかっていると思いますが、私は超能力者です。貴方は?」
「我が名は白井 夜巳、予知能力者です。ちなみに唐木妃沙とも、呼ばれています」
彼女は自慢げな表情と共に、腕を組み答えた。中条はそんな姿を見て、表情一つ変えることはなかった。彼は妃沙に考える隙を与えることもなく、続けざまに話しかけた。
「では、夜巳さんとお呼びしましょう。貴方は何を探していたのでしょう? 教えて頂ければ力になりますが」
「それだけ? 何かを要求するんじゃないの?」
「それに関しては、もう少し仲良くなってからですね。私は貴方の全てを知りませんし」
「私も、貴方の事を知りませんよ?」
「そうですね・・・でも、夜巳さん。貴方は能力者を探していたんじゃありませんか? それも貴方が知っている人物を探していた、そうですね?」
(…どうしよう? えらく突っ込んだ質問が来たけど、逃げるのは無理だし・・・はぁ、夜巳ちゃんピンチ! )
中条の最後の質問に、黙り込む彼女。そんな彼女を見かねて、中条は更に話を進めてた。
「私には超能力者の知り合いが、何人かいます。協力できると思います、話してみては?」
(…仕方ない。言うかな? それに私の夫は、この中条さんより力が上です。最悪巻き込んでも何とかしてくれるはずです)
「そうですね、探していたのは事実です。知っていますか? 織田 兼次と言う人物です」
<織田兼次>その言葉を言った時点で、その部屋の空気が変わった。明らかに中条の表情が強張る、その表情を察した妃沙は背もたれに背中を押し付け、彼から視線を外した。
(…はは、何か知ってる感じ。しかも、敵対している、絶対してるわ)
中条は深く座っていた姿勢を変え、椅子の前方に移動した。前屈みになり、両肘を膝に付け手を組んだ。ちょうど彼の口元が隠れた。
「彼とは、どのようなご関係で?」
「夫婦です」
「変ですね・・・彼は結婚していないはずですが?」
「中条さんは、彼の何を知っているのですか? 私は彼の全てを知っています」
「例えば?」
「例えば・・・千年近く生きているとか」
「ご冗談を? 人間はそんなに長く生きられませんが」
「ま、まぁ普通はそう考えるわね。あとは、極度の女好きとかかな」
「女好きに関しては、合っていますね。でも、夫婦なのに所在を知らないのは何故?」
「そ、そうね。夫婦なのに知らないって、変だよね・・・はははっ」
(…よし、逃げるぞ! )そう思うと妃沙は、立ち上がり急いで移動する。扉の前に来るとドアノブに手を掛けた。しかし、ドアノブは回らず固かった。妃沙は、そっと振り返り中条を見た。
「残念ですが、逃げれませんよ。お掛けください」
「鍵をかけたの?」
「カラオケボックスに鍵はありません。私の力でドアノブを固定しました」
「そうですか…」
妃沙は諦めたのか、肩を落とし部屋の中を歩く。今度は中条の対面ではなく、彼の斜め前に座った。
「夜巳さん、あなたの力を見込んで、頼みがあるのですが? もし聞いて頂ければ、織田兼次につての情報はお教えいたします」
「死期でも知りたいの? 残念ですが、私の力では貴方自身の未来は視えません」
「それも興味がありますが、別の案件です。まず、何からお話ししましょうか・・・」
それから中条は、自身の事について語り始めた。




