ゾンビに嫌われたのでハーレムを作ります!
終末世界って誰しも一度は妄想するよね。
突然だが、世界は終末を迎えた。
死体が歩き、生者を襲い、そして死体を作る。
B級映画にありがちな、そんなゾンビアポカリプスだ。
まだゾンビも溢れておらず平和だった時に、テレビのニュースが海外でバイオテロが多発していると放送していたけど、そんなもん対岸の火事の如く誰も気にしていないだろう。
俺も気にしていないうちの一人だった。
ゾンビが世界に溢れてから半年。
俺はまだ生きていた。
ここは、なんとか避難できたマンションの一室だ。
この半年間、人の醜さや生き意地の汚さを嫌と言うほど見てきた。
おかげで俺は人間不信だ。
今では腹の底で何を考えているかわからない人間よりも、腹が減ったとしか考えていなそうなゾンビの方を信用している。
ヤツらは人間が大好きだ。
大好きだから追い掛け回し、大好きだから過剰な愛情表現をしてしまうのだ。
人間は死ぬほどヤツらのことが嫌いだから、愛情表現などされたら文字通り死んでしまうけど。
さて、そんなヤツらをここ半年間観察していてわかったことがいくつかある。
まず一つ目。
ヤツらには、どうにも人間に対して好き嫌いがある。
食料を漁っている際に、小学生くらいの姉妹がゾンビに追い掛け回されていたのを見た。
その小学生を追いかけていたのは全員男のゾンビだった。
しかもアニメキャラのTシャツを着ているゾンビが三人ほどいた。
JKらしき二人組みが追われていた時は、スーツを着たハゲリーマンゾンビや茶髪金髪のウェーイ系ゾンビが多かった。
逆に好青年爽やかイケメンには、OLゾンビやおばちゃんゾンビが群がっていた。
どうやら生前の嗜好が影響されるらしい。
そして二つ目。
ヤツら同士は、コミュニケーションをとっているくさい。
前に俺がいた、たくさんの人がいる避難所が襲撃された時には、三日前くらいからゾンビの声がやまなかった。
だんだんと増えていくゾンビの声に、避難所では軽くヒステリーが起きていた。
避難所は中から崩れ、そこにゾンビが流れ込んできて、まさに阿鼻叫喚といった様子だった。
ヤツらがこれを狙っていたのなら、だいぶ知性が残っていそうだ。
あとは食べている途中で熱が冷めるというか、急に興味をなくして食べるのをやめたりとかか。
これは感染がまわったから仲間は食べないとかなんだろうけど。
さて、今から俺はこれらが本当に合っているかどうかを、この身で検証しようと思う。
隣の部屋にはずっと俺と逃げ続けてきた最愛の妻、美香がいる。
このあいだゾンビに噛まれ、そして感染し、死んだ。
部屋のドアを開ければすぐに俺に噛み付いてくるだろう。
生前の美香は俺のことが大好きだったから。
あ、人間はゾンビのことが嫌いだから死ぬと言ったけど、俺は美香のことが好きだから死なないかもしれないな。はは。
結婚して一週間でゾンビパニックがおきて。逃げ続けた新婚生活だったけど、美香と一緒で、幸せだった。
ゾンビがコミュニケーションを取れるのなら、俺もゾンビとなり美香と朽ち果てるまで共にいよう。
ドアノブをまわす。
すえた匂い。
「……ウウアアアァァァァ」
「美香……」
変わり果てた美香がいた。
眼は虚ろで、白く濁っている。
口は大きく開き涎が垂れている。
「美香、お待たせ。ほらおいで」
「ウウウゥゥゥ……」
美香はゆっくりとゆっくりとこちらへ近づいてくる。
そんな美香を、手を広げて迎え入れる。
「美香、もう一人じゃないからな」
「ウアアァ……」
美香は俺のそばまで近づき、そして。
「美香!? なんで!」
俺を素通りした。
「美香! 俺だ! 恭平だ! どこに行くんだ!?」
「ウウウアァァア……」
美香は寝室を出て玄関へ向かう。
その後を俺は着いていく。
「ウアァ……」
「なんだ? 外に行きたいのか?」
ドアを開けてやると美香は外に出ていく。
着いて行くと階段を登り805号室の前についた。
「ここに何かあるのか?」
「アアァァ……」
美香がドアを、コンコン、コン、コンコンとリズムよく叩いた。
「やっぱり知性が……」
あるに違いない。
俺も早くゾンビにならなければ。
そう思っていたらドアが開いた。
「もう、美香さーん、最近来てくれなかったじゃん。俺超寂しかったよ~」
「は?」
チャラそうな男が出てきた。
「ん? おたく誰? 美香さんは?」
「ガアアアァァァ!!」
「うわ! ゾンビ! なんで、ぎ、ギャアア!!!」
美香はチャラ男に噛み付いた。
愛おしそうに咀嚼し、抱擁していた。
ふと、このマンションに避難してから美香が余所余所しかったことを思い出した。
不自然に居なくなることもあった。
「なんだ、そういうことか」
美香はこの男と浮気をしていて、この男が大好きなのだ。
だから、わざわざここまで噛みに来た。
目の前にいる俺のことなんか眼中に無かったのだ。
なんて、滑稽なんだ。
気がつけば俺はゾンビに溢れた町の中を歩いていた。
ゾンビは俺を一瞥はするが噛み付こうとはしない。
「そうかよ。そんなに俺のことが嫌いかよ。くそ、死ね」
既に死んでいるゾンビにそんな悪態をつく。
腹が減ったのでゾンビで溢れた百貨店や、スーパーなどをまわる。
邪魔なゾンビは俺が近づくとゆっくりと逃げる。
くそ、離れたいほどかよ。
忌々しい。
しまいには俺が拠点にしている百貨店からゾンビが一人もいなくなった。
わけがわからないがちょうど良い。
もう俺は我慢しないぞ。
ここを俺の城とし、ハーレムを築いてやる。
可愛い女や綺麗な女を集め、好き放題してやる!
美香のやつ、今更俺を噛みにきたって許さねえからな!
こうして、俺はこの世界でハーレムを築くべく、女性を助ける旅に出た。
ちょうどホームセンターを漁っているときのことだ。
「いやああ!! 来ないでええ!!」
「ガアアァァァ!!」
女性に迫るゾンビの群れを見つけた。
女性は足をくじいたのか、倒れて這いずって逃げている。
ゾンビに噛まれる前に女性の元へ行く。
「おい、あっち行けよ」
「ガアァ……」
「グアァ……」
「ウァァ……」
「え、ゾンビが、え? え?」
ゾンビは俺に声を掛けられたら病気になるとでもいうような態度で、俺と女性から離れていった。
くそ、忌々しいヤツらめ。お前らの方が病気持ってそうだろうが。
俺は戸惑う女性に安全な場所まで案内すると伝え、百貨店まで背負っていく。
ホームセンターから百貨店までは五キロほどあったが、長い逃亡生活のおかげか体力がつき、女性を背負っていても疲れなかった。
女性は名前を鈴鹿といい、俺の五個下の二一歳だった。
避難所が壊滅し、一人で逃げ回っていたらしい。
俺は鈴鹿の足の怪我が治るまで、甲斐甲斐しく世話をした。
そんな俺に、鈴鹿が依存するまでにかかる時間は、多くは無かった。
クソゾンビに嫌われようと構うものか。
というよりゾンビが向こうから離れてくれるなんて好都合だ。
鈴鹿のおかげもあってか、段々とやさぐれた感情が薄れていった。
そこから三ヶ月経つ頃には、俺の百貨店には八十人もの女性が住むようになった。
皆、俺のハーレムの一員だ。
百貨店には発電機から浄水機、スーパーコンピューターなど様々なものがあり、銃などの武器も豊富だ。
ゾンビに占領された米軍基地に歩いていき、俺一人でかき集めてきた。
米軍基地には一人の女科学者が居たが、その女性も無事救出し、ハーレムの一員になっている。
ブロンドが綺麗な、ミシェル・オーマンだ。
「キョーヘイ、アナタの血を調べたら、凄いことがわかった」
「何がわかったんだ? ミシェル」
「アナタの血、ゾンビウイルスを取り込む別種のウイルスがいる」
「なんだって?」
「血清を作って私に打った。今からテストに行く」
「一緒に行くよ」
「キョーヘイが来たらゾンビが逃げる。待ってて」
ミシェルが一人でゾンビに溢れた地下室へと降りていった。
ああ、地下室には俺に抱えられて嫌がるゾンビを百人ほど捕まえてある。
ミシェルがゾンビ部屋に入るのを、監視カメラでハラハラと見守る。
いざとなったらスピーカーで大声を出してやれば良い。
ゾンビたちは俺の声も嫌いらしいからな。
ミシェルの実験は無事成功した。
ゾンビは俺のことではなく、俺の中の別種のウイルスが嫌いだったようだ。
まあ、それでも美香、てめえは許さねえけどな。
やがて、血清を打ったハーレムと俺との間から新人類が誕生し、ゾンビ共々旧人類を駆逐していくのだが、それはまた別の話だ。
NTR嫌いな人ごめんなさい。
でも、そこまで重い描写じゃないから許して。
現在連載版を執筆中です。