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十話 異常


 俺がこの世界にきて一か月がたった。

 冒険者になり、何とか生計を立てることに成功した俺は、一刻も早く王都へ行くために日夜依頼をこなしていた。

 たまにガンさんやクリと一緒にパーティを組んだりもするし、そこそこ充実した生活を送れていると思う。


 今日も俺はクリのパーティに混ざって依頼を受けていた。


 今回の目標はオーク八体の討伐。どうやら小さな群れがこの辺に住み着いたらしい。

 道中、雑魚を撃っているとクリが感心したように声をあげる。



「ずいぶん強くなったよなぁ、トーキ」

「まあな。王都で一旗揚げようとしてるわけだし、こんなとこでちんたらしてる暇はないんだよ」

「そうか……。この分だと来月には出ちまうのか?」

「いや、もう少しここにいるつもり。色々あったけど、今俺がこうしていられるのは皆のおかげだし、少しは恩返しさせてくれよ」



 照れくさいが本心を伝える。

 実際、クリが居なければ俺はファフニールにやられてただろうし、ガンさんが居なければろくに戦えないまま野垂れ死んでいただろう。最初はともかく、避難所の皆にはいろいろしてもらったし、いくら感謝しても足りないぐらいだ。

 せめて、周辺のモンスターやァ物は一通り狩って、安全になってから王都へ向かいたい。


 つか、こっぱずかしいんだけど。

 見ればクリも毒気を抜かれたように呆けていた。



「……そうか。だが、俺らもお前の重荷になるつもりはない。出ていくときに気に病んだりすんなよ」

「ああ」



 なんだろう、ムズムズすんだけど。



「オークだ!!」



 そうだよねー、こんな話してたら出てくるよね。

 せっかくほっこりしてた空気が台無しだ。



「なあ、クリ」

「なんだ?」

「オークってさ、そんなに大仰に戦う魔物か? パッと見、銃ぶっ放せば終わりそうな魔物なんだけど」

「一体なら余裕だろうが、八体となると下手すれば命を落とすかもしれないレベルだな。うちんとこの魔法士(マジシャン)はここじゃ戦い辛いしな」

「そんなもんか。【魔力装填】【クローズ・ショット】」



 クリと喋りながらスキルを発動する。

 オークレベルならすぐに片がつけられるだろう。


 最近知ったがスキルで攻撃すると威力に上方修正が入るようだ。例えば、今使っているクローズショットは要するに近距離射撃なのだが、スキルなしで撃った時と比べて威力五割り増しだ。近距離の弾速が乗った状態でこれだから、遠距離なんてスキルなしじゃやって行けないかもしれん。


 俺がやってた頃なんて、近距離射撃にわざわざスキルなんて使わんかったからなぁ。これもアップデートのひとつなのだろう。


 俺が放った弾丸はオークに当たり、その肉を容赦なくえぐる。

 甲高い耳障りな悲鳴が木々を震わす。


 我ながらうまくいった。これで、一気に冷静な思考を奪うことはできたはず。

 知性があるモンスターの場合は理性を残して戦われると厄介だからな。



「後は俺達の仕事だ」



 クリが盾を構えながらオークに突っ込んでいった。

 まあ駆け出し冒険者にモンスター取られていい気分なわけないよな。俺としても労力を割かないに越したことはないし、ここは見学と洒落込もうか。





    *    *    *    *    *




 あっという間にオークを倒したクリ達。流石の実力である。

 俺はいまだに解体作業になれないため、周りに新手がいないか監視している。

 どうやら一匹しかいないようだ。



「一匹だけか……」



 そのことをクリに伝えると、なぜか眉をひそめられた。みれば、ほかのメンバーも同じような表情をしている。


 いっとくけど、俺はちゃんと気配探ってたからな?



「その点は心配してねえよ。ただ、群れていたオークがはぐれていたってなると、少しきな臭くなんだよ」

「一匹で食料探してただけじゃねえの?」

「いや、それはない。八匹は群れとして小さいからな。数をかけるのを恐れ手いるオークは基本、三~五匹で狩りを行う。発見されてから時間はたってないし、事情が込み入ってるかもな」



 そんなもんなんか。いろいろ理由がありそうだからクリ達は苦い表情してたのね。あんま深く考えても現時点じゃ情報が足りんだろうに。

 でも確かに、警戒するクリ達の気持ちもわかるけども。小さな異常でも下手すりゃ命落とすわけだし。



「とりあえず、情報が少ないのは確かだ。依頼を遂行するのも大事だが、警戒をおろそかにはするなよ」



 やっぱこういうときクリは頼りになるよな。タンクとしても優秀だし、そういう奴がいるだけで、緊張感が高まる。

 比較的若手ばかりのパーティだが、実力はベテランレベルだろう。

 俺はソロを目指してはいるがなかなか勉強になる。


 しばらく、警戒態勢で森を進んでいくと、明らかに複数匹いたと思われるオークの足跡が見つかった。

 それだけじゃない、そこら中に乾いた血が付着している。


 絶対にここで何かあった。

 

 俺達は予想していた以上に危険な道に踏み入ろうとしていたかもしれない。

 辺りを調査し終えると、不意に索敵範囲に気配を感じた。



「おい」

「まずったかな……今のうちに装填しておけよトーキ」



 俺が感じた気配はオークなんてチャチなもんじゃない。クリに一声かけるが、どうやらこいつも気づいているようだ。他のパーティメンバーも臨戦態勢になっている。

 その様子は頼もしいのだが、俺の警鐘はまだ鳴りやまない。


 しばらくして、気配が消えた。



 消えた?



「どうなってんだ?」

「大方移動しただけだろ。こっちには勘付かなかったようだな」

「そんなもんか」

「気味悪い話だ。明日にでもメンバーをそろえて探索しないと。とりあえず、今日は撤退だ」



 クリはそう結論付けると自分も構えを解き、帰る準備を始める。


 そして、


 









 ―――――視界が真っ赤に染まった。




お読みいただきありがとうございました。

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