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六話 暴走

「それでは今までの復習をしようか。基本は【魔力装填】から。弾倉が空になるまでは個人差があるけど、だいたいの人は四、五十発ぐらいってことを覚えておこう。撃ち切ってもいいけど、弾切れの感覚で覚えると後々に響くし、最初は三十発を目安にして」

「はい」

「装填と同じ手順でスキルを発動させながら魔力を籠めればリロードできるから。じゃ、あとは用意した的に向かって射撃訓練を始めて」



 中級ガンナーだという人(ガンさんというようだ)から銃の使い方を教わる。俺はゲーム内である程度基本的なことは知っていたが、それでもガンさんの授業はなかなか有意義だった。初めての志津音は思えないほど丁寧でわかりやすく、わずかな時間とはいえ、俺とガンさんはかなり打ち解けた。

 雑談程度にこの世界の情報をいろいろ聞いてみたのだが、これも結構いい収穫になった。

 おかげで『WFO』とこの世界の相違点をかなり見つけることができた。

 そんな中で、特に俺が気になったのは、ガンナーの不遇改善である。

 この世界のガンナーはゲームに比べ、攻撃力こそ変わらないものの、『(ガン)』の特性である速射性能に拍車をかけていた。これにより、DPS(秒間ダメージ)は大幅に向上。単純な話、五秒に一発だったものが、一秒に一発撃てるようになれば、与えるダメージは五倍である。

 たったこれだけの改良だが、それだけでもガンナーの地位は大きく上昇した。一発あたりはどうせ、カスダメ程度なのだろうけど。


 これに関しては、ゲームでのアップデートが原因だろうな……。


 俺はかつてのプレイしていた記憶を思い出した。

 思えば、ガンナーからはメンテナンスやアップデートの度に苦情が押し寄せていたし。

 某巨大掲示板では、毎回のように攻撃力補正や属性追加を期待するガンナーが溢れ、メンテ終了後の運営報告を見ては嘆くという一連の流れが様式美となっている。

 そんな彼らの苦労が俺の知らないうちに報われていたようだ。

 おかげで俺もこうして恩恵を受けているのだし、本当にガンナーの皆様には頭が上がらない。


 そんなことを考えながらスキル発動。

 

 【魔力装填】


 的に狙いを定めて引き金を引く。

 パンッ、と想像以上に軽い音がして銃が跳ね、的には穴が開いた。


 おお、当たった。にしても予想以上に反動が軽いんだが、これぐらいなら意識して持てば反動を抑えられるだろうか。

 少し強めに銃を握り、腕全体に力を籠める。

 これだけ強く構えりゃ反動を抑えられる。

 とりあえず引き金を押しっぱなしにして、うわッッ!!!??



 ダダダダダダダダダダダ!!!!



「ちょ、ガンさん、どうなってんですかこれ!? とまらないんですけど!?」

「……どうなってるんだ……?」



 いやいや、ガンさん、呆けてないで止めて!!

 明らかにおかしいでしょうこれ!!!


 いきなりマシンガンのように連射を始めた十二、俺もガンさんも何をすればいいのかわからなくなってしまう。

 だが、どうにかして止める方法はないかと考えている今も、俺の銃は一秒に十発を超える勢いで弾丸を吐き出している。そのたびに小刻みに銃が跳ねる。抑えきれないほどの反動ではないが、やたらと腕が震える。


 装填数の話はどこへ行ったんだよ!! もう二百発近いぞこれ!! 一向に収まる気配がねえんだけど!?


 ダダダダダ。


 ……。


 終わった……?



「何だ……今のは?」

「知らねえよ!」



 本当に俺は何も知らない。

 むしろ俺に、いや銃か?に何が起こったのか教えてほしいくらいだ。


 貴方にね!!



「あり得ない……初めての扱ってあそこまで平然と連射できるのもそうだが……速度……装填数……正確さもだ……どれもこれも異常すぎる……」

「あのー……」



 独りでぶつぶつ言ってないでさ、俺にも情報頂戴よ。


 俺の不満が伝わったのか、それとも頭の整理がついたのか、ガンさんは俺のほうへと向き直り、はっきりとこう告げた。



「君は僕の手には負えない」

「は!?」

「いや、僕だけじゃない。どんなガンナーも君に教えることなど何もないだろう。正直言って君の能力は常軌を逸している。いや、異常、あり得ないレベルと言い換えてもいいだろう。ともかく、君は下手に詩を持つよりも独学でその才能を磨いていった方が絶対にいい。我々では君を常識で縛ってしまうだろうから」

「?」



 何言ってんの?

 どゆこと?


 ガンさんが真剣な表情で、俺のために忠告してくれることはわかる。付き合いとも言えない付き合いだけども、懇切丁寧にガンナーの基礎を教えてくれた人だ。今もこうして俺に誠心誠意接してくれているのもわかる。

 だが、ガンさんが何を言ってるのか全く分からない。



「いやいやいや、何言ってるんですかガンさん。武器だけ渡されて一人で頑張ってって言われても何をすればいいかわからないですよ」

「実践あるのみだ。君の才能なら間違いなく、今の状態でも戦える。下手に僕が教えるわけにはいかないんだ」



 俺のほうもだんだん整理が出来てきた。

 なにやら俺はとんでもないことをしてしまったらしい。この世界では常識外の。ゲームの特性がそのまま俺だけ引き継いでしまっているのだろうか。理屈はわからないが、ともかく、ガンさんは俺に、ガンナーとしての戦い方を教えてもらうんじゃなくて、自分で習得しろと言ってる。それも、俺を縛らないために。俺の可能性を狭めないために。


 俺はどう行動すればいいのだろうか。


 ガンさんは、身元不明な俺に対し一生懸命、いろいろなことを教えてくれた。この世界の常識も教えてくれたし。

 この人が言う通り、俺は自分で戦った方がいいのだろう。

 だけど、俺はこの人のもとでもっと学びたい。

 でも……その行動はガンさんの意志じゃない。ガンさんは俺を縛るためにいろいろ教えてくれたわけじゃない。



「ガンさん」

「なんだい?」

「ガンさんの言う通り、俺は自分で試行錯誤して強くなります。でも、覚えててください。俺にガンナーを教えてくれたのはガンさんです」

「……ありがとう。…………頑張って」

「はい」



 自分でも驚くほど素直に感謝を伝えることができた。

 短い付き合いだったけど、ガンさんのことは尊敬できる人だと思ってる。だからだろう。


 俺はガンさんに一礼してその場を立ち去る。ここからは独学だ。近くで適当な岩でも見繕って練習したほうがいいんだろうか。



 ガンさん、ありがとう。


 俺、強くなるよ。











 三十分後、泊まる場所に困った俺はガンさんに泣きつくのだった。

あくまで銃は拳銃サイズです。マシンガンではありません。

連続射撃については、MHFライトボウガンの超速射をイメージしてます。わからない方はググってくだされば動画がありますので参考にしてください。



お読みいただきありがとうございました。

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