五話 適正クラス
説明回が続きました。
もうちょい続くかもしれません。
「はい、申請を確認しました。それではこちらへどうぞ」
「うぃっす」
あっさりと申請が通ったようでよかった。さっきまでの疑いで拒否されたらどうしようかと。まあこれでようやく俺の冒険が始まるわけだな。
「ではこちらにかけて少々お待ちください。担当の職員をお呼びいたしますので」
受付のお姉さんに案内された先はなんか小さな部屋。
ゲームじゃここら辺は設定されたものとして始まってたからなぁ。イメージがとんとつかないし、こればっかりはどう進むか全くわからん。
メンドーな書類とか判定とか無ければいいんだけどな……。
「遅いな……」
「……後ろ」
「うおっ!?」
いきなり背後から声を掛けられ、椅子ごとひっくり返そうになる。
ドア開く音したか今!?
驚いて振り返るとそこには青色のフードを深くかぶった……えー、人? 性別わからん。まあとりあえず、フードを被った人がいた。
なんか格好ヤバめだからあまり関わりたくないんだけど。
「えっと、職員の方?」
「……そう」
「ジョブを聞きに来てくれたんですか?」
「……(無言でうなずく)」
「あ、そうですか……。えっと、座らないんですか?」
「……座る」
会話が続かねぇ!!
無口か! 無口なんか!? 役所の職員としてその驚異的な無口はどうなのよ? むしろ最初の登場よりもそっちの方が驚きだわ!
あ、よく見たらコート引きずってる。
フードの人は俺の向かいに座ると、裾から書類を出してきた。
「……そこにジョブ、書いて」
「へーい」
なんでこういう無口キャラって一息で喋らないんだろうな。言葉も足りないし。コミュ障なのだろうか。ま、声高いし女の子みたいだからここは言うことに従っておこう。女の子が言うことは絶対だからな。
しかし、やっぱいざ決めるとなると迷うよ。とりあえず魔法使いは確定だし……。あとは……何がいいかな。
「どうすっかなー」
「……貸して」
俺がペンを持ちながら悩んでいると、少女、俺の胸ほどしかない、は紙を奪い、俺が記入した下のところに何かを書き込んでいく。
「……これでいい」
「へ?」
「…………よっ」
「おいいいいいいいいい!!!!???」
なにしてんの!?
何かを書き終えると、その子は紙をろうそくの火で焦がしていく。
うっわ、もう紙真っ黒じゃん、何書いてあるか読めなくなっちゃたし。あ、もしかしたらこうやってジョブが書いた紙を燃やしてジョブ決定するのか? てか俺まだサブ決めてないよ。変更可能とはいえ、神殿ある町まで無職の縛りプレイするつもりはないぞ俺。
「……大丈夫。ちゃんとサブ、決まったから」
「今ので!?」
「……ん」
いや、そんな黒焦げの紙を指さされましても、ん?
地味に白いな。
おおっ!?
だんだんと白いところが広がっていき、何かの形になっていく。多分……いや、さっぱりわからん。なんだこの模様。
「……じゃ、私はこれで」
え? 帰るの!?
まだ何の説明もしてもらってないんだけど!?
少女は紙を俺に渡すと、そのままドアを開けて去って行く。
すると入れ替わりで最初の受付の人が戻ってきた。俺の前に置かれた紙を見るなり、声をあげる。
「あ、ジョブも無事決まったようですねー。……へえ、銃士と魔法使いですか。ガンナーを志望する人って珍しいですよ、凍樹さん。それじゃ、初級武器を支給するのでついて来てください」
「え?」
あれ? メイジ……。
「凍樹さん?」
「いや、なんか違うなーって」
「……もしかして、あの子にジョブ書き換えられましたか?」
「え、なに、やっぱ希望ジョブじゃないんですか」
嘘でしょ。
大問題なんだけど。本当に。
驚愕する俺を見ながら、お姉さんは「あの子」のことを教えてくれた。
「あの子はね、人の適性が見れるのよ。だから時折勝手に人のジョブ書き換えちゃうことがあって……。前に一度、剣士目指してた子のジョブを農夫に変えたのよ。ほら、ジョブって変えるのに神殿いかないといけないじゃない? だから大問題になって一度クビになっちゃったのよ。だけど、ジョブ登録できるもう一人の人がこの前死んじゃったから、また復職してて……」
「あー……」
「適性が見れる分、何か思うところがあったんだろうけど……」
少し悲し気に語るお姉さん。
あー、そこらへんに理由があるんだろうなきっと。目の前の奴が、適正から全く外れたジョブにつこうとしてたら止めたくなるのもわかる気がする。
けどなぁ……自分のこととなると途端に重みが違う。他人にホイホイ重大なジョブをいじられていい気はしない。
うーん……。まあ、非戦闘職じゃないだけマシととるしかないな。どんなに嫌な職業でも。
はあ、ガンナーか……。
ちなみに『WFO』ではガンナーは所謂不遇職である。
サブであれば、サポートガンによるバフデバフ、射程の長さと速射性などが評価されて、メイジのサブとして猛威を振るったが、メインとなると一転評価はがた落ちする。
まず、後衛のくせにその基本攻撃には属性が付かない。そのうえ防御貫通効果もない。基本、無属性攻撃にはAパラメータ分のダメージを与える効果があるのだが、それすらもつかない。これではせっかくの速射性も射程もあまり意味がない。上級職の狙撃手になれれば、超遠距離からデバフ付き高火力狙撃ができるため、それが唯一の救いか。ギルド戦においては凶悪な性能を誇るため、序盤の不遇に目をつぶって育てる人もいる。
だが、この世界で置き換えてみよう。
まず、ギルド戦がない。攻撃射程なんてだろうから遠距離狙撃もそこまで特徴的ではない。弾、下手したらこの世界じゃ補充しなくちゃいけないかもしれない。そもそもゲームのような現代レベルの銃があるのか。下手すれば火縄銃。
結論。かなりヤバい。
最悪、神殿に行くまでなら何とかなるからそこでジョブ変えれば問題ないかな。スナイパーも狙ってみたいけど、どんな感じか全く見当がつかないし、無難にメイジをメインジョブにおいて育成だな。ガンナーと違ってメイジの優遇っぷりはすさまじいし。
とりあえず、武器は貰っておこう。もしかしたらアップデートで改善されてる可能性もあるし、ゲームの制約が外れたからこそ使い道が変わるかもしれないだろうから。
「……びっくり、した」
初めて見た。あんな人。
私には他人の適性が見える。
だけど、これはそんなに便利なものじゃない。だって、普通の人の適性って基本的にF~Dだから。だいたい大差ないから本人の希望に合わせて登録してる。流石に適性がない人には忠告したりするけど、適正なしの人なんてそんなにいない。
私が初めて高ランクの人を見たのは、クリさんの適性の戦士Bクラス。それですら当時の私には驚きだった。
あとは……怒らせちゃった男の子。剣士目指してたから可哀そうだったけど、でもあの子の大地の愛され方は凄かった。農夫Aってことはもしかしたら神樹も育てられるかもしれない。だからやっちゃいけないことだってわかってて勝手に書き換えちゃった。
きっと私は、トウキって人にも悪いことをしたのだろう。。
同じ間違いをしちゃいけないってわかってたけど……仕方がなかった。
あの人を見た時、最初は疲れたかと思った。
だってあり得ないんだもん。
情報として知っていた最高ランク。金色のS。
それが三つ。
適性ランク【SSS】の文字に私は目を奪われてしまったから。
この世界の伝説ですらS。
剣聖はA。
凍樹ははっきり言って異常です。
お読みいただきありがとうございました。