三話 解放
前略。
後ろ手に拘束されたまま暴れてたら、気づいたらマリアさんが冷ややかな目で入口に立っていた。
「……こんにちは」
「…………何してるんですか?」
こいつはまずいですねー。ドン引きじゃないですかヤダー。
……間違いない、あの目。明らかに汚物を見る目だ。
どうする俺。ここで適切な返答をしないと、確実に彼女の好感度は駄々下がりだぞ。
慎重に行くんだ。
「枷を外そうとして?」
「……」
ダメだーーーーー!!
この答えはダメだ! 拘束を解く方法が暴れる以外ないって、完全に野蛮なやつじゃん! 野生の動物だよこれ!
「今のなし!今のなしでギブミーチャンsいってぇ!?」
「あ、あまり大声出されると……」
クッソ、大声を出したせいでまた頭が痛くなってきやがった。
さっきまで必死に抗議してた時のほうがよっぽど危険な気がするんだけどな。
それにしてもこの痛みは慣れねえな……。
頭部を襲う鈍痛に悶えてると、マリアさんが慌てたように近寄ってきてくれた。
マリアさんそんなミニスカートでかがんだら……チッ。そら見えないようにしゃがむことも出来るわな。わかってたけど……この悔しさは何だろうか。
俺がそんなゲスなことを考えてるとはつゆ知らずに、マリアさんは素早く枷を外し、手当てをしてくれた。余計なこと考えててマジすいませんめっちゃ太もも近くてナイスアングル。
「全く……暴れないでくださいって言ったじゃないですか……」
「すいませんね……」
マリアさんは俺の頭へ包帯を巻きながら呆れたように、だが優しく注意をしてくれた。どこの天国ですかねここは。
そして巻き終えると
「ちょっと我慢してくださいね」
「!!!??」
FOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO↑↑↑
ピンクナースさんの膝枕だよ!ミニスカ直置き!神様!!マジでありがとうございます!!
あー生きててよかったわー。この柔らかい感触を得るために俺は生まれてきたんだと。まさに極楽。まさに楽園。この感触に比べたらすべての快楽なんて享受する価値もなし。
ひゃほおおおおおうううううううう!!!
思いもよらないマリアさんの膝枕に大興奮してると、いつの間にか準備が終わっていたようだ。
「ほら、じっとしてて下さい。【ハイ・ヒール】」
またも淡い緑の光が俺を包み込む。
「おおー……」
さっきもかけてもらったが、この魔法、実際に痛みがかなり引いていく。スゲェな。
けど、こういうのって科学的にはどうなんだろうな? あんま興味ない。
まあ回復魔法をかけてくれる人がマリアさんってのも大きいだろう。美人だし。胸デカいし。太もも柔らかいし。ミニスカだし。膝枕だし。
「あのーもう動けますよね?」
あ。
忘れてた。
「これはこれは失敬」
マリアさんが不審そうに顔をのぞき込まれては退くしかない。俺にはまだ次のステップに踏み出す勇気はないからね。……悲しいことに経験がないもので。
ああ、膝枕が遠ざかっていく。俺のマイエデン……。
そんなことを考えていると、マリアさんが俺の顔を不思議そうに見ていた。
やっべ、バレた?
「それにしても凍樹さん頑丈ですね。あれだけ頭を強く打ってたのにこれだけで済むなんて」
「マリアさんの手際がいいからですよ。アハハハハ」
なんだよ。一瞬スゲー焦った。
まあ読心術とか無理だよなフツー。もしそんなスキルあったら、俺なんて女の子見ただけで即アウトだよ。
ん?いやまさか……そんなスキルとか魔法なんて無いよな……。
ちょっと自重しよう。
俺はそんな守れるはずのないことを考えていた。
「マリアさんは優しいですね。見ず知らずの俺にも丁寧に手当てしてくれるし」
「でも、さっきまでは凍樹さんのこと疑ってて……許してくれるかわかりませんけど、罪滅ぼしのつもりで……」
はーん。なるほどね。そういうの引きずる人なんだねマリアさん。別に気にすることないのに。そもそもマリアさん以上に腹立たしい奴がいるからね。
「手当は済んだかマリア?」
あ、おっさん。
そうだね。おっさんも俺になんか言うことあるだろ、なあ。
「この野郎勝手に人のこと連行しやがって、よくまあ顔出せたもんだなあ、おい」
何が、手当てすんだか? だ!
誰のせいで手当てが必要な事態に陥ったと思ってんだ。しかも俺の顔見ても何とも思ってないみたいだし、こいつには罪悪感ってもんがないのか。
「落ち着けよ。俺らもいろいろと気が立ってたし、とっ捕まえて強制連行されるよりはマシだったろ?」
「連行自体も腹立つけどよ、そこじゃねえんだよ」
「じゃあなんで俺に怒るんだよ」
……そういやこのおっさん、俺のことちょっと怪しい奴って報告しただけだよな。
俺を黒幕扱いしてたのはあの野郎だったなぁ!?
待てよ?
おっさんが、早とちりして俺を不審者だと報告したからあんな目にあったんじゃないのか?
……結局コイツのせいじゃねえか!
「全部テメェの早とちりから始まったじゃねえか! そこ何とか言えよ!」
「んなこと言われたって、いきなり現れたやつがいて、話を聞いてみたらこの国の最近の情勢は知らないくせに冒険者のことだけは知ってて、そのうえどこから来たのか言えないときたもんだ。これじゃ疑われるのも無理ないだろうが」
「むっ……」
一理ある。確かにそいつは怪しい奴だろうな。俺のことだけど。
そうだよなあ、黒幕かどうかはともかく、見方によっちゃあ敵国のスパイだと思われても仕方ないよな。俺が迂闊だったかなこれは。
「すまねえな。おっさんに色々誤解させた俺も悪かった」
「そんなことはどうでもいいから、いい加減おっさん呼ばわりをやめてくれ。俺はまだ二十歳だ」
は!?
「嘘だろ!? その老け顔で!?」
「うるせぇな。気にしてんだからいちいち言うなよ」
確かにひげは薄いし、おっさんというには若干童顔っぽい気もしていたが……まさか二十歳とは。
「なんか……悪いなクリ」
「いや……いいんだわかってくれれば」
どこか、おっさん、もとい、クリの目に涙が見えたような気がした。
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