二話 冤罪
おそらく、この世界はゲームの設定からはだいぶ外れている。それもかなりヤバい方向で。
ファフニールが本来の住処から離れて、王国内を徘徊しているなら、他のモンスターはどうだろうか。
言うまでもなく、序盤のMOBと高難度ダンジョンのMOBでは圧倒的に強さが違う。仮にそんな奴らまでもが本来のテリトリーから移動していたら、相当まずいことになる。
いきなり、この町の外を散策したら、高レベルの敵に襲われることもあり得るのだ。そんなことがあったら絶対に生きていける自信がない。
「……クウリのおっさん。ファフニール以外で住処から移動してるモンスターはいるか?」
「知らん。モンスターの移動なんて把握出来るわけがねえだろ」
「生態調査とかは?」
「それは国がやってくれる。俺たちはあくまで依頼のモンスターしか狩らん」
「そうか……」
ダメだ。まだはっきりしねぇ。
装備や服装はゲームの物のはずなんだが、モンスターの情報が違うってどうよ。
ただ酷似してるだけで別物なのか?
んん?
「おっさん、俺たちって?」
「あ? 冒険者のことだよ」
キターーーーーー!!!
冒険者!! まだ確かなことは言えないけど、これで食っていくのには困らない。仕事内容は様々だったけど、住民の雑用だけでも最低限の生活はできるはずだ。
だけど、モンスターとも戦いたいんだよな、少しは。そこはゲーマの血だろうか。
「ってことはおっさんのジョブは聖騎士か?」
「違うぜ。聖銀の鎧を着てるが、俺は重戦士だ」
「へえ。そりゃあ、おっさんが無事なわけだ。あの時は、大方スキルをふんだんに使ったうえで大盾かざしたんだろ?」
「……詳しいな坊主。最近のニュースは知らねえくせに」
「少しはな。俺も冒険者やってたし」
「ジョブは?」
「一応魔法使いと射手」
「サブも持ってんのか。年はいくつだ?」
「今年で十七になる」
「出身は?」
「あ?」
なんか尋問じみてきてねぇか?
流石に日本、なんて言えねぇしどうすっか……。よそもんってことにすりゃいいか。
「他から来ただけだよ」
「そうか。じゃあ今からお前の身柄を確保するから抵抗するなよ」
「頭は安静にしてくださいね」
はーいマリアさん。
は?
「今なんて?」
「身柄を確保するって言ったんだよ。大人しくついてこい」
何言ってんだこのおっさん。
「なんでだよ。俺が何したってんだよ」
「話は全部集会所で聞いてやるから」
「今聞けよ!!」
俺はいきなりおっさんに腕をつかまれ、病室から連れ出されてしまった。
せめてマリアさんの連絡先聞いてからでもいいだろうが!
* * * * *
なんでこんなことになってんだよッ!!
「あの町にいた目的はなんだ?」
「知らねーよッ! 気が付いたらあそこにいたんだよ!」
俺は今、両手両足に枷を付けられたうえで、小部屋で尋問を食らっている。
ふざけんな!
こんないきなり人を罪人みたいに扱いやがって、人権ってもんがこの国にはねえのか!曲がりなりにも日本の製品だろうが!関係ないってか!
だいたい尋問するなら、かつ丼ぐらい出せやボケ!
俺の返答を聞いて尋問官は苦笑している。
こんなくらい役職のくせに無駄にイケメンだなこいつ。解放されたら一発ぶん殴ってやろうか。
「気が付いたらって、それはいくらなんでも厳しいだろう少年。町があんな状態になって既に一か月がたとうとしてるのに、目的もなくあの場にいただと? もう少しうまい言い訳はないのかな?」
ぶっ飛ばすぞてめぇ!!
「だから知らないって言ってんだろうが! そもそも町が半壊どころかファフニールがいることも知らなかったんだよ!」
「クリからもその話は聞いたが、どうせ嘘なんだろ? 王国内であれほどの騒ぎが起きて、いまや幼児ですら事の次第は理解できるぞ?」
「いつこの国に来たのかも覚えてないってんだよ! てか知ってたらあの場所にいるか!」
「それは君がファフニールをけしかけた張本人だからだろ? あの場所には奴の仕事ぶりを見に来ていたとかそんな理由かな?」
「じゃあ襲われるわけねえだろ!」
「演技じゃないか? 実際うまく馴染めてたようだし? ま、あと一歩のところで化けの皮がはがれたようだけど」
クッソ!
なんも話聞いてくれねぇなこいつ!
そもそも十七の俺がファフニールを操るモンスターテイマーなわけねえだろうが!
てかアイツって調教できるもんなんか?
そこらへんも疑問持とうや!
「ほら、素直に白状した方が君の身のためだよ?」
「だああああああああ!! いい加減にしねぇとぶっ飛ばすぞテメェ!!!」
「枷が付いているのに(笑)」
「うがあああああああああ!!!!」
うぜええええええええええ!!!
マジでいい加減にしてくんないかなぁその感じ!? そろそろ堪忍袋の緒がプチッとイっちまいそうなんだけど!? もういいよね!俺結構我慢したよね!?
《自主規制》すぞこの《自主規制》が!!
そんな感じで苛立っていると、いきなり目の前に水晶が落ちてくる。手のひらサイズで丸っこい奴。
?
「なんだこれ?」
「…………本当に無罪のようですね」
「は?」
なんだこいついきなり?
さっきまで疑いにかかってたくせにこの手のひら返し。
逆に怪しいんだけど。
何? 無罪ってことは俺無罪?
……。
なら、早くこの枷外せや!!
「嫌ですよ、自分、殴られたくないですもん。じゃ、僕は出ていくんで、勝手に外しておいてくださいね」
「何だとテメェ!?」
自分が殴られるだろうってわかっててやってたのかよ。なんやねんあいつ。何気に考えてることバレてたし。最初から全部お見通しだったのか?
性格悪ッ!
あ。
うわ、ホントに出ていきやがった。おい、金属の枷だぞ自分で外せるわけねえだろ!?
殴るなんて言って悪かったからさ、外してよ、ねえ!?
「外せぇ!!」
お読みいただきありがとうございました