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どうやら乙女ゲームに転生したようです

 


 何が、どうして、こうなった。

 美しく、幼い少女は茫然と自分の脳裏を巡る記憶を咀嚼していた。




 怒涛の一日。

 その日のことを表す言葉はこれに尽きる。

 棚卸しの日ということもあって、お店の品物の数を数え、売り上げ数と合ってるか確認をするだけでもかなり時間がかかる。

 それに加え、阿呆な店長が仕入れをしてしまったらしく、棚卸しの日だというのに大量の品物が届いてしまい、それを数え。

 おい店長、てめぇ何してくれちゃってんの?という暴言はどうにか心の中に止めて作業を行う。

 まさかの普段あまりないクレーム対応を立て続けに三件程追われ、新人のミスで報告書の数値の打ち直しをしたり。

 社会人になって三年目。先輩に仕事を任され、新人のフォローを行い、疲れたとのたまう店長の尻を叩く、そんな一日。

 やっと帰れると逃した終電に悔しいというよりも早く体を休めたいと思いながら、いつもは使わないタクシーをお店を出て数百メートルのところで捕まえた。タクシーの中でこのまま寝てしまいそうだと、疲労感たっぷりに車内のシートでぐったりとしていた。

 ヤバイと思いつつ微睡む視界の中、前方の車がものすごい勢いでこちらに向かってくる光景が見えた。それが一瞬にして真っ白になったかと思いきや、鳴り響くクラクションと運転手さんの悲鳴。

 何が起きたと思ったところで、私の記憶は途切れている。





 ーーーというのを、思い出した。


 なんてこったい。

 私は自室のベッドの上で頭を抱えた。

 私は侯爵家の次女としてこの世に誕生した。

 家族関係は良好。父、母、姉、弟という家族構成で多分私は幸せな人生を送っていると思う。

 ところがどっこい。今後の人生を思い浮かべ、私はサーッと血の気が失せていくのを感じた。


 ちょっと待て。

 この自室には現在私一人しかいないが、手を前に出して、相手に待てと伝える時のポーズをする。どうしよう、一人で何やってんだ。ダメだ。混乱してる。

 どっくんどっくんと波打つ心臓をどうにか落ち着けようと深呼吸をする。


 整理しようか。

 何故、私が前世の記憶を思い出したかというと、それは先程参加した交流会が原因である。

 公爵家の嫡男が七歳を迎えたので、これを機に友人を作り、社交性を身に付けさせようとして交流会という場を設けた。

 まずは少人数でということで今年七歳となる子どもを集めたのだ。

 子どもは三、五、七歳の時に健やかに育っていることに感謝し、一番祝われる年でもあるからちょうど良い年とも言えよう。

 そうして集まったのが、五人。

 公爵家嫡男、伯爵家嫡男、大商人の子息、息女という双子、そして私。

 伯爵家といっても現当主は国で重宝されている研究者なのでそんじょそこらの伯爵家とは格が違う。

 大商人も国の貿易を支えている大きな商会を束ねている家だから、これまた重要視されている。

 そして私の父は政治手腕に長けている人のようで一目置かれていると姉に聞いたことがある。

 ということで、公爵家と繋がりを持つのに相応しい子ども達が集められたというわけだ。


 父に連れられ、公爵家へと足を運んだ私は緊張と同時に期待を抱いていた。

 お友達が出来るのは楽しみであったし、婚約者に会うというのもドキドキした。

 私と伯爵家嫡男は婚約をしている。五歳の時に顔合わせをした。短い銀髪に紫の瞳。少し冷たい印象もあったが整った顔はとてもカッコよかった。今では可愛かったと表現を訂正する必要があるかもしれないが。当時の私の感想はカッコ良いだった。

 そして初めて彼の顔を見た時、心臓がどくんっと跳ね、何かを思い出しそうな感覚に陥った。霞がかってもやもやする、そんな何とも言えない気持ち悪さがあった。

 もやもやが気になってあまり相手と話すことが出来なかったのは、恐らく相手も何も話さなかったからだと思う。今思えば興味を持たれていなかったのではないだろうか。

 彼が帰った後に母にこの何とも言えない感情を伝えた。どうにかして気持ち悪さを払拭したかった。

「お母様、胸がドキッとして何だかもやもやするの。どうして?」なんて聞き方はまずかった。非常にまずい質問だ。だがしかし、当時の私はまさにこの感覚を伝えたつもりだった。

 ぱあっと笑顔になった母に、それは恋よ、とうふふふという微笑みで言われたのを間に受けてそれを恋と勘違いした私はなんと可哀想なことか。

 姉に聞いた恋愛話や、絵本の御伽噺を読んでは婚約者に再び会えるのを楽しみにしていた。

 そして当日。

 目の前に現れた四人の顔を見て私はグワンと頭に鈍い痛みが走った。ああ、あああ。なんていうことだ。



 ーーー乙女ゲーの住人達ではないか。






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