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岐路

作者: 平津戸 周

歌物語という、先に小説かいてラストはその小説の内容を踏まえた歌で締めくくる、というものです。

 駅のホームに電車が入ってくる。夜が明けたばかりのまだ薄暗いなか、電車の光がレールを照らす。ぼくはこのときの電車のカオを見るのがたまらなく好きだ。小さな頃から鉄道のことならなんでもしっていて、将来の夢は車掌さん。いずれ、日本中の駅をまわるひとり旅にでると心に決めていた。

 今日はその夢の第一歩を踏み出す日だ。この黄色い点字ブロックがぼくのスタートラインなのだ。

 電車がぼくの前を勢いよくすぎる。風がぼくの髪をどこかへつれていこうとする。ジャンパーが風をはらみ、ぼくを引っ張ろうとする。

 他の人々が冷たい風を防ぎ、身体を縮めているなか、ぼくは全身に電車がつくりだす風を感じていた。寒いというよりむしろ心地よかった。

 電車がぼくに扉をぴったりあわせて、入ってくれと口をあける。認められたみたいで、うれしさを噛みしめながら足を踏みだした。

 車窓を見ていると、慣れ親しんだ土地が動いているような不思議な感覚に囚われた。景色はすぐに知らない場所に移る。電車にのると、ぼくの世界が一気に広がる。この旅はどんなものになるのだろう。ぼくはわくわくした。


 一日中電車のなかにいて、ひとしきり楽しんだ。真夜中、ぼくは乗り換えのために電車をおりた。

 深夜の静かな駅のホームにはほとんど人がいなかった。わずかにいる人たちは、みな疲れた顔をしている。ぼくも少しくたびれ、ホームに設置されている古びた椅子に腰掛けた。

 人が少ないということはもめ事も少ないはずだ。なのに、朝の慌ただしさや昼間ののどかさなどと違う、重い空気が漂う。疲労、哀愁、孤独たちが夜の人たちを襲おうとする。人はそれらから逃れるために、夜の街を異常に明るくしてキケンな興奮に酔う。

 することがなくて、ぼくはぼうっと反対ホームの自動販売機を眺めた。自動販売機の規則的に光るボタンがみるものを少し楽しませる。一分も見続ければ規則も覚えて、すぐに飽きてしまった。

 これから乗るのは終電だ。今夜の宿はもうとってあるはずだ。小腹が空いたが、晩ご飯ももう食べたし、我慢しよう。いつもならここでジュースか何かを飲んで空腹感を紛らわすのだが、今はお金を節約しないといけない。最低限のお金しかもっていないのだ。

 そのとき、ぼくがいるホームの反対側に電車が入ってきた。鞄から時刻表を取り出し、この電車のことを調べる。この電車はぼくの最寄り駅止めだそうだ。どうやらこの電車の後にくる電車は、もう一本しかないらしい。

 その電車は仕事に疲れた人を吐き出し、帰宅に喜ぶ人を吸い込んでいく。電車は扉を閉めると、ぼくの家のほうに颯爽と走っていった。

 みんなは今頃何をしているのだろう。

 生まれたばかりの姪は気持ちよくねているのだろうか。それとも、夜泣きして姉さんを困らせているのだろうか。父さんや母さんは、大変でも新しい家族の誕生に喜んでいるんだろうな。

 ぼくはおもむろに財布をとりだした。ぎりぎり、この駅から家までの交通費はある。これ以上進めば、目的地につくまでは家には帰れない。

 ぼくがいるホームにも、けたたましい警告音とともに電車が入ってきた。これはぼくの家のほうからやってきた。電車からの夜風は冷たく、身を刺すように痛かった。

 またもぼくの位置にぴったり扉がくる。扉が開き、電車がおいでとぼくを誘う。電車のなかの白い灯りがぼくを照らす。


 この電車は最終電車。これに乗ると、今日は家に帰れない。


 ぼくは電車の入り口を前にして、ただ立ち尽くしていた。



  念願の 進路の先は わかれ道 行くか帰るか 夢か家族か



高二の春に、文化祭の部誌用にかきました。自分にしてはそこそこいい出来だとおもいます。

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