第91話 団体戦③
いよいよ準決勝です。私とヒカリさんの相手は、コロラド王国があるパンゲニア大陸の西に位置するブレイム帝国から来た使者さんです。コロラド王国とはそれなりに仲が良く、私の皇太子就任の時に来賓として来て下さった国や地域の使者たちの内の1つです。
『コロラド王国内の視察』がメインだと思いますが。ヒカリさんが経営する『鷺宮商会』が、王国内でいろいろと事業を展開しているため、コロラド王国は、世界一繁栄していると言っても過言ではありません。実際、ヒカリさんをはじめとした『龍神の神子』が、この国に居を構えてから大豊作の年が続いており国民の生活は豊かになりました。
また、ヒカリさんが開発し、製作した魔道具は、広く国民に浸透していっています。スキルカードによる銀行口座や各種決済の管理は、鷺宮商会の本支店がある町では、既に当たり前であり、町に住む人の実に九割が、何らかのスキルカードを持っています。持っていないのは、奴隷くらいでしょうか。
王国内の冒険者ギルドは、既に100%スキルカードでの冒険者管理になっており、王国以外で登録している冒険者は、王国内で依頼を受けるのにも苦労しているらしいです。王国内で冒険者登録をした人は、今の所2つのギルドカードを持っていることになります。また、スキルカードを発行する魔道具魔力計測器は、王国内のギルドには必ず設置されており、性能の良さから、王国以外のギルドでも、設置する動きが加速しています。
カランやロンドリアなど大きな町では、ヒカリさんが製作した水玉と温玉が、水道の代わりとして一家に1つづつは必ずある魔道具になっています。使う用途に応じて、数種類所有している家庭も珍しくありません。この動きは加速しており、あと数年以内には王国中の家すべてが、水玉と温玉を所有する事になるでしょう。
いつもの癖で、長々と脱線してしまいました。
ブレイム帝国の使者としてやってきた、文官の護衛の騎士さんが私の相手です。大陸に西に位置する国々は、未だに小競り合いを続けており、騎士団の戦力はコロラド王国よりも上みたいですが、国土が戦禍で荒らされているため、生活水準はかなり下に位置しています。その中でブレイム帝国は、コロラド王国に近く西方諸国間の戦争に被害をあまり受けていないため、比較的平和であり平和なコロラド王国と西方諸国との懸け橋的存在になっています。
また話がそれてしまいました。
「お久しぶりですね。ブレイム帝国の方々、本日はよろしく言願いします。」
私は、何をお願いするのか分からないまま、定型文のような挨拶をします。
「メーリア様、あなたが例えこの国の皇太子であろうとも、この場にいる以上は、『倒すべき相手』として挑ませていただきます。」
相手の騎士の方々も、定型文のような挨拶を返してきました。
試合開始です。
相手の騎士は、ヒカリさんと私の連携を警戒しているのか、3人ずつ別れて攻撃をしてきました。さすがは、戦禍に西方諸国で生き残っているだけの手練れです。私のしがない剣技では、相手の剣技をすべて受けきる事は出来ません。ヒカリさんの指令で、今回の試合で私は、魔力強化以外の魔法を使うことが禁じられています。聖剣『月夜見の剣』を使っての稽古の際、力の制御に失敗して城内の鍛錬場を使用不能にしてしまいました。剣から放出された衝撃波が、鍛錬場に張られている結界を軽く消滅させ、その先にあった分厚い壁を両断してしまいました。
これではいけないと、ヒカリさんとオーガストさんとカラリスさんが、私の改造?に着手しました。私はまだ10歳です。自身の持つ強大な力をうまく制御しないと、大変な事態を引き起こしかねないらしいです。暴走など起こした日には、王都程度の町など一瞬で無に還せるらしいです。そうならないためにもこの闘技大会は、私に関しては、『力を制御するための訓練』にしたそうです。1つ前の試合は、ライラレスのせいで、訓練にはなりませんでしたが。
そんなこんなで、私が今手に持っているのは、聖剣『月夜見の剣』です。力の制御の方法を学ぶため、敢えてこちらの剣を使っています。今は何とか、力をコントロールしていますが、少しでも気を抜けば、私の魔力を吸い上げて攻撃力が格段に上がってしまいます。なんせこの『月読みの剣』は、魔力を込めて素振りのように軽く振るうだけで、上位に位置する聖剣でもない限り、相手の武器を軽く粉砕してしまいます。
そこらに転がっている鋼の剣では、魔力を込めていなくてもお話になりません。その事については、既に相手の騎士さんにはお話してあります。最初は信用してもらえませんでしたが、目の前で実演をしたら納得してくれました。そのため、相手の騎士さんは、全員が聖剣を手にしています。世界中にばら撒かれ、何処に存在しているのかも不明な政権を、よくこの短期間で見つけ出したモノだと感心してしまいました。しかし、上位の聖剣は、1振りもないみたいです。現に、少し魔力の込め方を失敗したのか、相手の剣は所々欠けており、また防具も結構な割合で破壊されています。
そんな理由で、相手の騎士さんには悪いのですが、全力全開で相手をすることが出来ません。それでも祭が始まって早30分、相手の騎士さんはすでにボロボロです。あっ!今私が、軽く剣で弾いただけで、最後の相手の剣が根元から折れてしまいました。既にあちこち刃が欠け、何時折れてもおかしくなかったのですが、とうとう限界が訪れたみたいです。いろいろと連携が鬱陶しかったのですが、全て剣だけで往なしてあげました。
やっぱり、魔法がないと大変です。彼らは、剣士と魔法使いのコンビで私を攻めてきました。私も魔法を使えるのなら、多分この試合も一瞬で終わっていたでしょう。相手の魔法攻撃を、どうやって防ごうかと考えているうちに、火炎球が3つ私に向かって飛んできました。
私はとっさに、剣で斬る体制になり、実際、3つとも剣で切り裂くつもりでした。そうしたところ、この聖剣『月読みの剣』の新たな機能により、3つの火炎球は、剣に吸い込まれて消滅してしまいました。さらにすごいのは、斬撃でも飛ばそうかと思い、剣を横薙ぎに振るったところ、只の鎌鼬のはずが、炎の鎌鼬になって飛んでいったのです。
どうもこの『月読みの剣』は、『魔法で作り出された現象』を斬る事により『剣に取り込み』、斬撃として『鎌鼬』を撃ち出す時に、『鎌鼬に取り込んだ魔法の性質(火属性なら炎の鎌鼬)を付加』して撃ち出す能力があるみたいです。どれだけチートな剣なのでしょうか。この感じだと、まだまだ知られていない能力が隠されているはずです。
魔法攻撃も剣によって無力化され、さらにその魔力を使って斬撃がいきなり属性付与の鎌鼬に化けるのです。隠して、相手の魔法使いはなす術がなくなってしまい、唯一上位に立っている剣技での勝負だけになります。しかしその剣技すらも、私の未熟な魔力制御のせいで、手の持つ聖剣が使い物にならない鈍と化し、さらには、粉々に砕け散ってしまうのです。かくして私の担当?する相手が戦闘不能になり、試合が終わりました。
ヒカリさんの方を見てみれば、既に決着がついていました。ヒカリさんを相手していた騎士さんたちはと言うと、闇魔法で影を地面に縫い止められ、微動だに動かす事も出来ない有様です。その上でヒカリさんは、相手の騎士さんを真っ黒に光り輝く鞭でいたぶっています。どうもあの鞭には、相手に傷を負わせることはなく、魔力体力精神力を打ち据えるたびに少しずつ奪っていくみたいです。
「メーリア、もう終わったの?」
ヒカリさんは、鞭打ちの手を休めることなく私に聴いてきます。
「はい、少し苦労しましたが終わりました。『月夜見の剣』の新たな能力も、知る事が出来たので良しとします。」
「そう、じゃあ私も終わろうかな。」
そういってヒカリさんは、鞭打ちを終了して、影を縫い止めていた闇魔法を解除しました。拘束を解かれた騎士さんたちは、その場に倒れるように座り、微動だに動く事もしません。
影を縫いとめる闇魔法、どうやってやるのか、今度ヒカリさんに訊いてみようかな。あれが出来るようになれば、戦術の幅も広がりそうです。その前に一言、私は乾いた笑顔を浮かべてヒカリさんに言ってあげます。
「やっぱりヒカリさんは鬼畜です。」




