第90話 団体戦②
いよいよ団体戦2回戦。私とヒカリさんの相手は、冒険者のパーティと思いきや、その中にいたのは、先日私の皇太子就任式を邪魔した第1王子、いや今は”元”第1王子ライラレス=サンダレス、つまり私の”兄様だった”人です。私の目の前にいるライラレスは、先日の謀反の罪により、命こそ狩られる事はありませんでしたが、王籍から抹消され今は平民にされていたはず。お父様の話では、これ以上の問題な行動をすれば、身分が平民から奴隷へとなり、何処かに売られるらしい。まあこの大会は、誰でも出ていいはずなので、これが問題行動ではないはず。冒険者をかき集めて参加したのでしょう。
「メーリア、個人戦は一瞬で終わり、お前に何もできなかったが、団体戦では、必ずおまえを倒す!」
ん!ライラレス、何か引っかかる事を言っていましたよ。個人戦ではどうのこうの言っていた気がしましたが、そもそも私の相手にこの人いましたっけ?個人戦の折、一瞬で終わらせた試合と言えば、たしか1回戦の時ですね。あとの試合は、『訓練』と称していろいろとやっていましたし。あの時は、…、そうです。相手の顔など、いちいち確認しませんでした。どうせすぐに終わらせるつもりだったので、覚えるのが面倒だったという事もあります。
なので私は、何処に誰がいたのかなんて知りません。目の前にいた相手すらも、顔すら覚えていませんので。とりあえず、遠くで試合を見ていたヒカリさんに訊いてみます。
「ヒカリさん、目の前のライラレス、私の対戦相手の中にいましたか?」
「そうね…、確か、メーリアの真後ろにいた気がするわ。試合開始直後に斬りつけるつもりだったみたいだけど、その前にメーリアの魔法で氷付けにされたからねえ。まあ、只の小物だから、気に掛ける事はないわ。可哀想だから、メーリアは、目の前のライラレスの相手でもしてあげる?」
「そうですね、私も”元”兄様の腕前は知りませんから、相手をしてあげてもいいですよ。お城にいた時でも、私の相手など一度もしてくれませんでしたので。その代わり、ヒカリさんは、残りの5人を瞬殺してください。私の時は10秒だったから、5秒位でお願いします。」
「5秒か。いいでしょう、メーリアの師匠としてその挑戦、受けてたちましょう。メーリアは、ライラレスと少し遊んであげなさい。」
私とヒカリさんは、上から目線で話を進める。目の前にいる相手を無視して。今更気付いたのですが、私とヒカリさん、この男の事を『ライラレス』と書いて『バカ』と呼んでいるような気がします。別にどうでもいい事なので、気にも留めませんが。
私は、愛剣の錆にするのもなんかもったいない気がして、いつも訓練で使っている木剣を影に構築している闇の倉庫から取り出した。
「メーリア。貴様何処からそれを取り出した?さっきまで手ぶらだったはずだ。」
「気安く私の事を、呼び捨てで呼ばないでください。あなたはすでに私の兄ではないのですから。」
試合が開始された。ヒカリさんは、約束通り私の目の前にいるライラレス以外を瞬殺した。そのやり方は、私以上に鬼畜であり滑稽だった。それなりに腕が立つようだったが、右手を下から上に振り上げただけで終わらせてしまったヒカリさん。なんか可哀想に思えた。
開始直後、ヒカリさんは、右手を下から上へと振り上げる。完全無詠唱で放たれた魔法により、5人の足元に魔法陣が展開する。魔法陣は、相手を下から上へと黒い帯を作りながらせり上がる。完全に相手を包み込んだ魔法陣は、雑巾でも絞るかのように捻じれ霧散する。この間わずか3秒。約束の5秒よりも短い。
残ったのは、防具や武器どころか、すべて無に還され素っ裸にされぐったりを地面に座っている5人。こんな公衆の面前で、あんな姿にされたら往来を肩で風を切って歩く事も出来ないでしょう。ヒカリさんもやりすぎたと思ったらしく、5人に視線すら向けない。
素っ裸にされ観衆に恥辱を晒している5人は、喋る元気も、大事なところを隠す元気もないようだ。あの様子だと、体力と魔力を限回まで絞り出されたのだろう。立ち上がる事さえも敵わず、首の皮1枚で命を取り留めているのだろう。私の魔法は、まだ根性さえあれば立つ事くらいはできただろうが、こういう時のヒカリさんはとことん鬼畜になるらしい。鬼畜なヒカリさんは、目のやり場の困る5人を風の魔法で一纏めにして会場の外に放り出してしまった。着地地点が何処なのかが少し気になったが、まあ何処の着地しようが、私には関係のないことだ。
「はい、終了~。」
鬼畜なヒカリさんは、目の前の憂いを無くしたかのごとく軽く言い放った。別段疲れてもなく、汚れてもいないのに埃を払う仕草をしたのはなんでだろう。
「メーリア、邪魔なものは排除したから、ライラレスを思い切り虐めてあげなさい。」
「はい、ヒカリさん。何の訓練にもなりませんが、ライラレスと少し遊んであげます。
ところで少し疑問なんですが、ライラレスのお仲間は、何処に捨ててきたのですか?」
「町のど真ん中でもよかったんだけど、…メーリア曰く、私は鬼畜らしいから瞬間転移で、テラフォーリアの何処かに転移させたわ。転移先の座標は指定しなかったから、何処に転移していったのかは私にも解らない。」
「さすが、鬼畜なヒカリさんです。あのバカどもは、何処かの町に行くまで、あの状態なんですね。少し可哀そうでもありますが、まあ別にどうだっていい事です。それよりも私は、目の前にいるライラレスの相手をしないといけません。」
「メーリア、あなたも十分鬼畜よ。『どうでもいい事』に一言で切り捨てるんだから。」
さて、私も目の前の男に集中していこうか。手にした木剣を片手で構えて、魔力を少し流して強化します。ライラレス、何処から手に入れたのか、結構業物の剣を手にしている。
「おい、メーリア。あの女はいったい何をしたのだ?」
ライラレスが何か言ってきた。
「ヒカリさんが、何をしたのかすら解らないようでは、私の相手は務まりませんよ。先程の私たちの話を聞いていなかったんですか?それと、何度も言いますが、呼び捨てにしないでください。今度呼び捨てにしたら、本気でこ・ろ・し・ま・す・よ」
私は、ライラレスを軽く挑発すると、木剣をライラレスに向けた。木剣からは、不可視の刃ら伸びており、その刃がライラレスの首筋に当たる。ライラレスの首筋が少し切れたのか、薄き血が滲んでいるのが確認できた。
「このまま首を切り落としてもいいのですが、それをしたら私の負けになってしまうのでやめておきます。
それはそうと、その剣、何処から手に入れたのですか?」
私は、器用に不可視の刃をライラレスの手にある剣に当てて、剣の出所を聴いた。まあ、ライラレスの自慢を聴くことになるが、仕方ないだろう。
「この剣か?この剣はな、俺が昔地方を視察した際に、何処かの領主から賄賂として貰ったものだ。領主の話では、何処かの鉱山の中の地面に突き刺さっていたらしい。所謂『聖剣』の類だな。」
ライラレスは、高笑いしながら自慢話を続けている。私は、ライラレスを無視してヒカリさんに目で問いかけた。「そんな話、聞いていないよ」と。
「そういえば、昔テラフォーリア全土に聖剣をばら撒いたことがあったなあ。その中の一振りじゃない、あの剣。当時は確か、丁度いい暇潰しに、6人の『龍神の神子』が、その辺に転がっている刀剣類に適当に加護を与えて『聖剣』にする悪戯を思いついてね。実行に移したわけ。
『刃』のある道具なら、剣や槍、はたまた包丁や鋏に至るまで片っ端に加護を与えていたからね。刀剣類の素材もバラバラだったから、運が良ければ、神鉄でできた聖剣に出会うかもしれないし、メーリアが持つ木剣の聖剣もあったと思う。刀剣類に込めた加護の量もまちまちだから、只の包丁が、何でも切れる名刀になっていたり、神鉄でできているのに、ちょっと切れ味が上がっているだけなのもある。全体で1000本近く作って、瞬間転移で適当にばら撒いたから、実態は私にも解らない。
鋏や包丁なんかは、聖剣だと知らずに下町の奥様方が使っていると思うよ。ライラレスが持っている剣は、神鉄で出来ているみたいだけど、何処までの加護が与えられているのかは解らないわ。ただ、持ち主を選ばないところを見れば、大した加護は与えていないみたいだけど。」
「そんな事はどうでもいいです。大切なのは、私の持つこの木剣でも、ライラレスの持つ聖剣と闘えるかという事だけです。」
「それは大丈夫よ。そのままでもライラレスの持つ聖剣を叩き折れるけど、何ならこの場でメーリアがその木剣を聖剣にしてみたら。鬼畜な私が師匠なら、弟子であるメーリアも鬼畜になりなさい。」
「そんな事可能なんですか?私、聖剣にする方法なんて知りませんよ。」
「簡単よ。メーリアは、『月夜見の神子』よ。月夜見の女神に願ってみなさい。」
ヒカリさんが出来るというので、試しに月読みの女神に願ってみる。すると、手に持つ木剣が白く光り、刀身の色が茶色い木目調から、白く光る水晶のような木目調に変化した。本当に出来てしまい、私は唖然とした表情をする。目の前のライラレスをちらりと見れば、意識が何処かに旅立っているようで、カチコチに固まっていた。
「アラ、力の加減を間違えて、いきなり最高の聖剣にしちゃったみたいだね。メーリア、そこまでしたのだからなんか適当に『銘』をつけなさい。」
どうもこの木剣は、上から数えたほうが早い類の最高の聖剣になってしまったようだ。
「聖剣の『銘』かあ、…そうね、とりあえず『月の加護木剣』とでもしておきましょうか。おい、ライラレス、いつまで寝ているの?早く起きなさい!」
私は、ライラレスに近づく。背伸びをしても頬に手が届かないので、仕方なく宙に舞い手のたじゃさを合わせた。そして、ライラレスの両頬をペチペチと平手打ちをする。なかなか起きないので、段々と叩く力を強くしていく。魔力強化をしている私の掛かれば、成人している男でも、平手打ちで容易に吹っ飛ばすことが出来る。かくしてライラレスは、私の渾身ではない一撃を受け、大きく吹っ飛んでいき、観客席の前に設置されている結界にぶつかり地面に落下する。落下の衝撃で、何処かの世界から戻ってきたライラレスは、体に受けた衝撃でただ唸っているだけだ。
「其処のライラレス!早くリングに上がってきてください。貴方へのイジメは、まだこれからですよ。」
私は、挑発じみた言葉を口にするが、ライラレスはなかなか立ち上がろうとしない。あまりにもトロイので、私は、風の魔法でライラレスをリングの上に強制的に連れてきた。
「あなたは私を倒したいんでしょ。たかが平手打ちにされたくらいで、既に戦意喪失なんて馬鹿な事は言わないでくださいね。」
私の挑発に激怒したライラレスは、手にした聖剣を私に斬りつけた。私は、『月の加護木剣』で聖剣を受け止める。互いの聖剣がぶつかり合った時、ライラレスの持つ聖剣が、根元から粉々に砕け散った。魔力強化で強化さた私は、そのまま木剣を振りぬいてしまった。
たしかあれ、神鉄製だと、ヒカリさんは言っていたような気がした。神鉄と言えば、この世で一番高い金属だったはずだ。それが何でたかが木剣ごときで粉々に砕けるんだ?あっ!そういえば、これ、木剣ではなくて聖剣でしたね。それも、力の加減を失敗して、最高の聖剣にしてしまったんでした。
暫し現実から逃避して戻ってみれば、私の相手であるライラレスがいません。何処にいるのか周りを見渡せば、再びリングの外に放り出され、観客席の壁際で口から泡を吹いて気絶しているライラレスを発見しました。死んではいないでしょうが、暫く意識は戻らないでしょう。まあ、いいでしょう。弱い者イジメの時間は、これくらいにしておきましょうか。
隠して、私とヒカリさんは、準決勝にコマを進めたのでした。




