第87話 ヒカリの魔法講座~詠唱編~
メーリアが専用に宛がわれた控室の中で、ヒカリを囲むように、メーリア、近衛騎士団団長オーガスト、宮廷魔導士の2人が車座になっている。
「魔術師長さんは、『詠唱』について何処までご存知ですか?」
「詠唱ですか?そうですね。現在使われている詠唱のほとんどが、『我は願う』から始まる事ですか。そういえば、ヒカリ様とメーリア様が試合で唱えていた詠唱は、そのどちらも当てはまっていませんでしたね。」
魔術師長のカラリスが、ヒカリの問いに素直に答える。そして、試合中にヒカリをメーリアが唱えていた詠唱について、思い出したかのように付け足した。
「宮廷魔導士と言えど、その程度しか詠唱については研究されていないのですね。」
ヒカリは、納得したかのように言った。
「詠唱は、大きく分けて3通りの方法があります。
1つ目は、現在広く使われている詠唱、『我は願う』から始まる『新代魔法文字』による方法です。
2つ目は、あまり使いてはいませんが、『我は求める』から始まる『古代魔法文字』による詠唱方法で、3つ目は、今現在私が知る限りで使える人は、『~の神子』と呼ばれる人だけが唱えている『言霊』による詠唱方法です。
では、発動した際威力の高い順に、1つづつ説明していきます。
まずは、『言霊』による詠唱から。『言霊』とは、術者がイメージした現象をそのまま言葉にすることにより、詠唱し魔法を発動させることを言います。『魔法に対するイメージ』が、そのまま『詠唱文』となっているので、必然的に魔法の威力が高くなります。私やメーリアが、基本使っている詠唱がこれに当たります。また、魔法を新たに造る際、イメージをそのまま載せれるので、詠唱文は『言霊』で作られます。
次に、『古代魔法文字』による詠唱です。『古代魔法文字』は、言霊によって作られた魔法が、基本作った術者しか使用できないため、『魔力の多い者に魔法を使用させる』事を目的に開発された詠唱です。そのため、言霊による詠唱文を劣化、簡略化した詠唱文になっています。造られた当初は、『言霊が劣化したもの』との認識がありましたが、現在では、『言霊とは別物』と認識されているみたいですね。
最後に今現在一番多く使われている『新代魔法文字』の詠唱です。『新代魔法文字』は、魔力さえあれば誰でも魔法を使えるように『古代魔法文字』をさらに劣化、簡略化して作られて詠唱文です。そのため、『古代魔法文字』で唱えたほうが、『新代魔法文字』で唱えた魔法よりも、威力が大きくなります。モノにもよリますが、だいたい2~10倍の威力差があると思っていてください。『言霊』で唱えた魔法は、『古代魔法文字』で唱えた魔法の10~100倍の威力があります。ここまでで、何は質問はありますか?」
一旦話に区切りをつけ、ヒカリは、質問のために時間を作る。メーリアは、今まで何げしに使っていた言霊について聞いた。
「ヒカリさん、私は、ヒカリさんの作った『言霊』のような感じの文章しか、詠唱としてこの世界に認められないとばかり思っていたのですが、この話を聞くがぎり、『詠唱する言霊』はどんな文章でもいいと受け取れるのですが。」
「その通りです、メーリア。実際、どんな文章でも魔法は発動します。唱えた言葉に『イメージ』を乗せることが出来ればね。それが1番端的に表れている魔法が、『火を灯す魔法』ですね。ほとんどの人が呪文を詠唱せずに、ただ『火を』とか、『火を灯せ』とかで薪に火が付いたり、燭台の蝋燭にを灯したりしていますよね?」
「…確かに。火を灯す時には、いちいち呪文など詠唱しないな。」
ヒカリの問いかけに、オーガストが答える。ヒカリはその答えに頷いて、話を続ける。
「なぜ、『火を』とか、『火を灯せ』などの端的で、ごく短い『言葉』で火が付くのか、疑問に思った事はないですか?」
この質問には、皆が当たり前すぎて何も答えが出なかった。
「やはり、この事に付いては、疑問に思った事がないのですね。誰も疑問に思わなかったという事は、『火をつける魔法』は、遥か昔から存在する『魔法』だからです。さらに『火をつける』行為自体が、魔法でなくでも可能な行為であり、魔法を発動させる際に必要な『明確なイメージ』がすでに出来上がっているからです。
結果、『火を』とか、『火を灯せ』と唱えるだけで、実際に火が付くのです。ここで出てくる疑問。それは、『火をつける』魔法を発動する際に唱えた、『火を』とか、『火を灯せ』などの言葉は何なのかをいう事です。
ここで、魔術師長に質問します。『魔法』と『魔術』の違いは何ですか?そもそも『魔法』とは一体どんな『行為』を指す言葉ですか?」
魔術師長のカラリスは、ヒカリの問いかけに少し考えて答えた。
「『魔術』とは、『魔法』を発動させるために、術者が行う術式全体を指す行為だと私は理解しています。なので、『魔法』とは、術者が何らかの『魔術』を使って発生させた『現象』の事を差していると思います。
また『魔法』という言葉は、自然界でごく当たり前に発生している『現象』を、『魔術』を使って『人為的』に発生させる行為だと認識しています。したがって、魔法で発生した『現象』は、何らかの形で自然界でも起こり得る『現象』となりますね。
ヒカリ様、それで合っていますか?」
「はい、それで合っています。では『魔術』に必要な『モノ』は何ですか?」
「魔術に必要な『モノ』は、魔法を発動させるための『明確なイメージ』、魔法陣を作る際に唱える『呪文』、所謂『詠唱』ですね。あとは、魔法を発動させるための触媒となる『魔力』と『発動キー』です。」
「その通りです。全ての魔法は、カラリスさんが答えていただいた『行為』が必要になります。ここで最初の質問、『火をつける魔法』に戻ります。それぞれの行為に当てはめて、『火をつける魔法』について述べていきましょう。
まずは『明確なイメージ』はいいですね。何処にでもある『揺らめく炎』、これをイメージすればいいだけです。実際、『炎』には、『燃焼』と言う化学反応と、『炎の色による温度変化』について説明可能です。」
「ヒカリ様、質問よろしいですか?」
「はい、何ですか?」
「ヒカリ様の説明の中で言われた、『燃焼』、『化学反応』、『炎の色による温度変化』という言葉の意味が解りません。可能ならお教え願いませんでしょうか?」
カラリスは、ヒカリの説明の中で、意味の解らない単語が出てきたので、疑問をぶつけた。
「その事については、メーリアに対する補習の内容と被りますので、後ほど説明しまので、今は割愛させていただきます。そもそも『火をつける魔法』を使う際、一体どこで『呪文を唱えて』いるのでしょうか?そもそも呪文なんか存在しているのでしょうか?『火を』とか、『火を灯せ』と発せられる『言葉』は、明らかに『発動キー』であり、『呪文』ではありません。カラリスさん、その事は理解していますか?」
「…、確かにヒカリ様の仰る通りです。もし呪文を詠唱するならば、『我は願う』から始まる何らかの『言葉』がありますね。」
ヒカリが提示した事柄に、改めて疑問が出てきたカラリス。
「そう、カラリスさんが仰ったとおり、何故『呪文』がないのか。それは、頭の中で『イメージ』した時に、詠唱も構築され、魔法を発動するのに必要な、『魔力』を与えて『発動キー』を唱えるだけになっているからです。ここで構築される『詠唱』そのものが、イメージを具現化したもの、つまり『言霊』になります。その気になれば、発動キーさえ唱えずに魔法を発動できます。つまり、誰もが、無意識で知らずに『言霊による魔法』を、無詠唱で使っていることになります。
この事をを踏まえれば、『言霊』は、『誰にでも使うことが出来る』という事実に辿り着きます。現実問題として、言霊を『意識して』使いこなしているのが少ないだけです。」
少しでも魔法を齧っていれば、ここまで聴いていればある疑問が浮かぶ。その疑問をカラリスが、ヒカリに聴いた。
「ヒカリ様、『言霊は、誰にでも使うことが出来る』と仰っていましたが、では何故、今現在いる魔術師や魔法使いは、言霊による魔法を使っていないのですか?」
「それはですね、『言霊詠唱』では、細部に亘るまで『明確なイメージ』が必要だからです。それは、『イメージ』そのものが『呪文』となるのですから。対して、『古代魔法文字』と『新代魔法文字』による詠唱は、そこまで明確なイメージは必要ありません。その代わり、モノによっては、莫大な魔力が必要になるだけです。もう1つ違う事と言えば、言霊は、『複数の現象』を『1つの魔法』で作り出すことが出来ます。これは、言霊が劣化しただけの古代魔法文字でも可能です。対して新代魔法文字は、あまりにも簡略化してしまったせいで、『1つの現象』に付き『1つの魔法』と言う感じに、分けて使わなくてはいけません。この事で、余分な魔力を使わなくてはいけなくなります。」
「それはどういう事でしょうか?」
「オーガストさん。例えば、『大空で闘う』事を前提とした時、どんな魔法を使いますか?」
「そうですね。魔道具を使うのならば、ヒカリさんが考えた『風の執行者』を使いますね。しかしこの魔道具はとても高価です。新品で金貨1500枚、中古品でも金貨500枚以上しますから、普通の人には手が届きません。
これを魔法で行うとなると、まずは、空高く飛び上がる『高跳躍』と、大空のある地点に留まり続ける『滞空』。この2つの魔法は確実にいるな。あと、大空で闘うのならば、『空中飛行』も必要だな。」
ヒカリの問いにオーガストは、魔法を列挙しながら答える。
「オーガストさんに答えていただいた通り、『大空で闘う』事を想定すると、『新代魔法文字』での詠唱では最低限、高跳躍、滞空、空中飛行の3つの魔法が必要です。高跳躍は、それほど魔力は必要ありませんが、滞空と空中飛行については、莫大な魔力が必要になります。
これが、1つの魔法、それもあまり魔力を使わないとなったらどうしますか?」
「本当にそんな事が可能なのか?」
「はい、可能です。私が作り出した魔法で、既に使い手が50人ほどいます。
魔法とは、詠唱1つで使用する魔力も、魔法の数も変わるのです。『たかが詠唱』と、バカにしてはいけません。特に魔術師ならば、詠唱についてより深く知っておくべきです。鷺宮魔法学園では、先程話した3つの詠唱について、しっかりと教えています。今年度高等部に入学した生徒が卒業する4年後、王都の魔法学園で学んだ生徒と、どれだけの差があるのか楽しみでありません。
これは王様もご存知の事です。王様は、『詠唱の方法で魔法の威力矢使用する魔力量が変わる』と言う事実を知っておいて、わざと王都の学園では教えていないのです。それは、『たかが詠唱』をバカにしている者たちに教えるためでもあります。カラリスさんのように、私みたいな小娘にわざわざ聴きに来るほどの人物ばかりなら、こんな回りくどい事はしないのですが。宮廷魔導士の方々は、『自分こそが魔法においてトップクラス』だと言い張っていますから。
私と王様は、お腹の中が真っ黒です。宮廷魔導士たちの高く伸びた鼻っ柱を、思い切りへし折る事が何よりの楽しみでもあります。なので、カラリスさんと、ペサリさんでしたか。今日ここで聞いた講義の内容は、是非とも黙っていてくれるとうれしいです。喋っても構いませんが、多分信じて貰えないでしょう。今まで積み上げてきた自分なりの魔法に関する知識を、全部とは言いませんが、半分以上捨てなければいけない内容です。
プライドの塊みたいな宮廷魔導士の皆さんが、聞く耳を持つとは思いません。現にここに聴きに来ている人が、私とメーリアによってコテンパンにやられた人だけですから。自分たちのtトップであるカラリスさんが負けたというのにですよ。」
ヒカリは微笑みながら、お茶を啜った。




